侵略者のフォクシー

女は魔法使いだった。老いることのない体と褪せない美貌を併せ持ち、その手には無法を成す力(可能性)が握られていた。人間なら誰もが一度は夢見るような理想がそこにあった。ひとつ女の醜悪な部分を上げるとすれば、女が邪悪だったことに尽きる。

フォクシー。細い腰と肉付きの良い体を持つ女は永い時間を持っていた。両親はとうに亡く、しかし女は独り立ちを望まなかった。行き場のない彼女は他者の家庭に入り込み、姉として、叔母として、年の離れた妹として振る舞った。女の魔法はそれを可能にした。そうして女は長きにわたるタダ乗りを続けた。家庭の中は安全だ。家の壁は厚く、中で何があってもわからない。子供の扱いは知っている。『両親』はフォクシーを愛してくれる。フォクシーはただただ庇護を享受した。

ながきを生き、庇護者を定期的に替えねばならぬ性質によって家庭外へ出ること叶わぬフォクシーは全ての物事を家の中に求めた。食事、睡眠、娯楽、もてなし。もてなし。フォクシーは生来のものぐさから子供の立場で入り込むことを好んだが、未成年に課せられる潔癖の戒めを疎ましくも思っていた。父はだめだ。母もいけない。それより遠い縁者はもってのほか。で、あるならば。不満の向く先はいつだって立場の弱い者。それはそのときは弟だった。それだけだ。

フォクシーは杖を振るった。なんでもできた。どんなことも叶った。家庭の中であったことは誰の目にもとまらない。中にいる者の目はフォクシー自ら欺いた。長い時間が経つとともに、世の中は魔法使いを排除する方向へ変化したが、人間の家族を持つフォクシーには関係のないことだった。姉として、娘として、ソファの一倍良い席にふんぞり返るフォクシーに怖い物などなかった。

怠惰な生活にも終わりは来る。小さかった弟も成長し、そろそろ年の離れた姉として振る舞うのも限界が近い。フォクシーは大人として扱われるのを面倒なことだと認識していた。年長者の責を果たすなどまっぴらごめんだった。それならばずっと子供として過ごすのが良い。子供だった兄弟が大人になったというのなら、自分はここにはいられない。フォクシーは記憶操作の魔法を残し、家から去った。

(つづく)




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