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魔法科のカロン

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魔法学校に通う高校生たちの非日常と情動と日常。
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2018年7月の記事一覧

優等生のユミ

魔法学校に在籍している人間にはそれぞれパートナーがあてがわれる。実習は二人組で行われるからだ。ユミのパートナーは小柄な男だった。座学にも実習にも興味がないような態度を取る彼に内心はらはらしたものだが、彼は意外にも優秀だった。『態度が思わしくないので総合的な成績は平均値を大きく外れることはない』とは本人の言だ。実習がうまくいくかどうかで始終やきもきしていたユミに、彼は『真面目だな、迷惑はかけないよ』

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就学生のルカ-2

魔法使いは架空の存在だ。みな、そう聞いて育つ。しかし大人は魔法を使う。妙だと気づいたのはいつだっただろう。

大人は魔法を使う。大人の半分はマジックアイテムを持っていて、その半分は魔法を使っているところを見せてくれる。ごくまれに親切な(あるいはいたずら好きだというべきかもしれない)大人は『道具』を握らせて、大人がやるようにふるわせてくれる。

そういうとき、魔法はいつだって不発だ。あるべき持ち主の

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就学生のルカ

長い『朱色の』赤毛を持つその男は、名をルカといった。ルカは魔法学校に籍を置く学生だ。学校の中で彼はやや浮いた存在だった。なにより長髪の男は珍しい。筋肉の発達する第二次成長期は運動をするものも多く、様々な動作の邪魔になる髪は切ってしまうからだ。髪を結う習慣のある女生徒は別として、長くとも肩までというのが一般的な解釈であった。
ルカの姿形には人の目を引く要素が多分に含まれていた。含まれる要素の数を鑑み

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魔法科のカロン-2

女は妖精だった。長い髪と垂れた耳、顔より大きなハット帽。華やかで明るく、憂鬱で昏い、朝ぼらけと夜の”あいさ”の色。ウサギの魔女、彼女は名前をロールといった。

かわいらしい風貌は幼い相棒のお気に召したようだ。カロンとロールは夜明けから夜更け、夏の昼間、春の日暮れまでを過ごした。同じ風を頬に受け、同じ雨をその身に浴びた。同じ本を広げて読んで、同じ秘密を共有した。二人の間に境はなかった。長い髪を濡らす

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魔法科のカロン

月の狂気にあてられた金の髪はボブヘアに、細い体躯と白い肌に幼い唇を合わせ、眼だけが老成した少年は名をカロンといった。
幼き体は知っている。魔法とは何か。古き血は覚えている。誰もが忘れた真実を。

『それ』は誰もが知るところではない。魔法使いは種族名だ。『魔法を使うもの』ではなく、『生来的に魔法を使う能力を持ち合わせたもの』、それこそが魔法使いといういきものだった。

全ては人の形をしている。魔法使

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