優等生のユミ

魔法学校に在籍している人間にはそれぞれパートナーがあてがわれる。実習は二人組で行われるからだ。ユミのパートナーは小柄な男だった。座学にも実習にも興味がないような態度を取る彼に内心はらはらしたものだが、彼は意外にも優秀だった。『態度が思わしくないので総合的な成績は平均値を大きく外れることはない』とは本人の言だ。実習がうまくいくかどうかで始終やきもきしていたユミに、彼は『真面目だな、迷惑はかけないよ』と言って、実際その通りにした。彼は、かわいらしい見た目にそぐわない低い声をもつ。肝が据わっており、大きな失敗をしない。間違えても平然としてリカバリを試みる。何をするにも慎重でどこか神経質ともいえるユミとは反対だった。

行われる実習は様々だった。魔法科の中にも様々な授業がある。彼らは屋内で扱える規模の魔法の授業をとっていた。研究発表会は間近に迫る。がんばらなくちゃ、とユミは言った。真面目だね、とパートナーは言う。彼は用事があるとかで資料を置くだけおいてさっさと帰ってしまった。ユミは気合を入れた。彼女には負けられない事情がある。どうにかして上位の成績を維持し続けて推薦枠を手に入れねばならない。ユミには夢があった。そのためにはより専門性の強い高次の学校に進む必要があった。発表会はそのための重要な一歩だった。ユミの胸は不安と期待に高鳴っている。

一人屋上へ出て、小さな杖を振るう。電波塔は動いている。認証。承認。魔法が空気を振るわせる。大気の振動を増幅させる。指向を持たせ、束ねる。そうすると音が鳴る。これこそが今度の発表の内容だった。何もないところでサイレンを鳴らす理論を応用し、調整することでいくらか繊細な音が鳴る。音は研ぎ澄まされていく。響かせようとすると音程が狂うが、そこは今後の研鑽・調整しだいだ。ユミは振るっていた腕を下ろした。これを思いのままに操ることができればひとりきりでオーケストラを行うことも夢ではない。ユミは浮足立った。うまくいくといい、と思った。

果たして発表はつつがなく行われた。ユミのチームはクラスで一番になった。パートナーの作った資料はわかりやすく、ユミの実演は素晴らしかった。ユミは面喰う彼の手を取って、予想以上の高評価を喜び合った。貴方のおかげだ、といったユミに、発表中スライドを回していただけの男は少し困ったような顔をして、『役に立てたようで何よりだ』と返した。

(続く)



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