はじめのご挨拶!〜noteに書き始めるにあたり〜①
(この記事は①、②の2部構成です。)
<現代サーカスとは>
こんにちは!
現代サーカス研究者であり、瀬戸内サーカスファクトリー設立代表の田中未知子と申します。
「現代サーカス」という言葉が、最近はいろいろなところで使われるようになりました。
この言葉は、80年代ごろから新しいサーカス表現が生まれたフランスで用いられるCirque Contemporainという表現を直訳したものです。自分が2009年に出版した「サーカスに逢いたい~アートになったフランスサーカス」のなかで、まだ迷いをもちながら使い始めた言葉です。
もちろん、直訳ですので、それ以前にフランスでこの表現を聞いた方が「現代サーカス」という訳語を使っていたこともあると思いますが、本の出版と、その後自分が始めた瀬戸内サーカスファクトリーで常に「現代サーカス」という表現を使うようになったことで、公式な表現として少しずつ広まっていったのかな、と思います。
90年代前半までは、フランスでも「Nouveau Cirque(ヌーヴォー・シルク=新しいサーカス)」という表現が主流でした。
一般的によく知られる「サーカス」の原型ができたのは18世紀末のフランスといわれていて、そのフランスでも、映画やテレビなど多様な娯楽が席巻してきた1970年台終盤までに、サーカス全般が衰退と消滅の危機に瀕していました。そんなとき、アーティストなど文化人のみならず行政もが「サーカスの灯を消してはいけない!いまの時代に受け入れられる、まったく新しい形のサーカスを生み出すのだ!」というムーブメントが生まれます。サーカスの技術を使いながらも、それまでと全く違うサーカス?!70年代から90年代初頭までは、あらゆる試行錯誤が続き、演劇、美術、ダンス、音楽などあらゆる表現ジャンルを取り入れながら、90年代半ばに、総合芸術の名にふさわしい「現代サーカス」という新ジャンルが形成されてきたのです。
実は「現代サーカス」という語すら、いまや世界的にはあまり意味をなさないかもしれません。
Cirque actuel(いまのサーカス)、Cirque de création(創作サーカス)など、さまざまな表現がありますし、パフォーミングアートの状況からすると、サーカスという言葉はもう必要なく、Multi-disciplinaire(多分野の)、Trans-disciplinaire(分野横断型の)といった言い方を好まれることも多いです。
自分はいまのところ、現代サーカスという言葉を使い続けています。
ひとつには「サーカス」という言葉や世界観への愛着を持ち続けていること、また、現状でもまだ新しいサーカス表現が一般的ではない日本において、統一した呼称を使うことは、ジャンルの可視化や確立に必要だと思っているからです。
いつか、サーカスという言葉を使わなくても、こうしたサーカス表現をするアーティストが充分に活躍でき、創作発表の機会ももてる社会になったら、限定的な呼称は必要なくなるかもしれません。
<日本初の現代サーカス専門書を出版したい!と決意した2007年。>
自分が「サーカスに逢いたい」を出版するために、取材を本格化させたのは2007年。今から14年前ですが、サーカスを取り巻く状況は、今とずいぶん違いました。
今でこそ、アーティストのホームページは充実しており、YoutubeやVimeo、インスタグラムなどネット上に山ほど映像も写真も見つけることができます。
たった14年前のことで信じられないかもしれませんが、当時はホームページをちゃんと立ち上げているアーティストやカンパニーは少なく、むしろ「本物の良さが伝わらないから映像は公開しない」と頑なに「生」にこだわるカンパニーがとても多かったのです。
2007年ごろまでは、現代サーカス映像を見たければ、パリにあった「オール・レ・ミュール」という国立大道芸サーカス情報センター(現・ARTCENA)のビデオテーク(映像センター)に予約をして、一日かけて棚にびっしり詰まったビデオやDVDを引っ張りだして見まくる、などしか方法はありませんでした。
2009年の頃には、オール・レ・ミュールが「RueetCirque(ストリートとサーカス)」という(当時としては画期的な)ウェブページを始めて、職員がカンパニーから集めた映像をひとつひとつダウンロードしてひとつのページから検索して見られるようにしたのです。
「サーカスに逢いたい」には、オール・レ・ミュールが当時作成したばかりのお薦め作品抜粋映像を集めたDVD(日本語字幕つき)を付録につけています。つまり、こうしたものがなければ、当時どんな作品が世の中で注目されているか、映像とともに全体像を見る事は不可能だったからです。
(②に続く)
瀬戸内サーカスファクトリーは現代サーカスという文化を育て日本から発信するため、アーティストをサポートし、スタッフを育てています。まだまだ若いジャンルなので、多くの方に知っていただくことが必要です。もし自分のnote記事を気に入っていただけたら、ぜひサポートをお願い申し上げます!