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知的デジタルインフラとグローバルシェアについて (東京大学総合図書館 内田祥三 設計 1928年竣工)

(「新・美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2020.10.3> 主な解説より引用)

 学ぶ力を培い学びを支え続けた知の殿堂、東京大学総合図書館(蔵書数 約130万冊)は、1928(昭和3)年に竣工。建物は、元東大総長で建築家の内田祥三(うちだ・よしかず)氏により設計された。

 外観は、ベイウインドウと呼ばれた本の背表紙の形が印象的で、9つのアーチ、ゴシックの太い柱が、重厚にして荘厳な趣を醸し出している。

 内部に入ると、正面には赤絨毯の豪華階段、70メートルにおよぶ広さで300席を有する大閲覧室をはじめ、ゆったりと学習できる空間があちこちに確保され広がっている。

 藤森照信氏(建築家・建築史家)は、「20棟以上におよぶ内田ゴシック建築は、東大キャンパス全体を考えてまとめ上げられている。また、キャンパス全体に統一感とデザインがコントロールされている」と語る。

 東京大学は、1877(明治10)年、当時の東京医学校と東京開成学校が合併し設立された。大正12年の関東大震災で建物の多くが倒壊してしまうが、同校のシンボル的存在の安田講堂は、その堅固な耐久建築ゆえに震災による倒壊を免れた。

 内田祥三氏は、戦中・戦後にかけて14代総長を務めていたが、1945(昭和20)年6月太平洋戦争による本土決戦の拠点として使用したいと、日本陸軍から明け渡しの要求や、戦後のGHQより東大の接収要求に対して、「この場所こそ我々の死処と考えて毎日の仕事をしている」として、その要求を断固拒絶した歴史がある。

 また、最近の新たな建物として、総合図書館 別館が2017年に完成した。ライブラリープラザと呼ばれる円形の空間には、国産杉を使用した放射状のルーバーが整備されている。

 そこでは、「200人の学生が同時に話しても、心地よいざわめきが残るように、音を乱反射させるような設計を取り入れた」と、同大学准教授の川添喜行氏は語る。

 さらに驚くことには、「完全自動化書庫」の導入で、「地底図書館」とも呼ぶべき、地下46メートルに3層構造の巨大書庫が完備され、300万冊におよぶ蔵書の出し入れが、全てコンピューターにより最新式で全自動化されている点である。

 今回番組のアート・トラベラーを務めた又吉直樹さんは、総合図書館を見学したのちに語った。「建築の美しさはもとより、本を読める場所であることを踏まえた上での建物になっている。ここに2か月くらい泊まりたい気分である」と。

 一冊の本が、人の一生を決めることがある。

 本と出会い、本に親しむ。図書館は知性と理性の宇宙。学ぶ喜びを守るために。

「番組を視聴しての私の感想コメント」

 総合図書館のテレビ映像取材は、初公開だという。普段でも、基本は東大生、卒業生あるいは図書館職員などの東大関係者でないと、出入りはできない場所である。

 番組では、世界にある知の殿堂としての大学図書館も、いくつか紹介されていた。

 ポルトガル・コインブラ大学、スペイン・サラマンカ大学、アイルランド・トリニティカレッジなどの大学図書館であったが、そのどれもが建築デザイン的にも、その美しさを競っていた。

 私が、京都造形芸術大学(2020年4月〜「京都芸術大学」に校名変更)時代に、「時間と空間のデザイン」というオンライン授業科目でご講義いただいた、東京大学・准教授の川添善行氏も、総合図書館別館の設計に携われたということで、この番組のインタビューに登場されていて、講義の最初と最後で走り来て、走り去るお姿とともに、懐かしく視聴させていただいた。

 東京大学は、国内では入学が難しい超難関大学ではあるが、グローバルな観点から見ると、その総合的なランキング評価は、年々下がっているとも聞く。(英国タイムズ 世界の大学ランキング2013-2014 上位50大学中36大学を、アメリカとイギリスの欧米大学が占める。日本は東京大学のたった1校のみ)

 東京大学の総合図書館が紹介されたが、なかなか近寄れない存在に映った。ただ、国内最高の知性を持つ学生たちの「知性と理性の殿堂」の外観や内部の一部でも触れられたのは、テレビ越しではあるものの貴重な体験となった。

 一方で、最近Kindleで読んだ「誰が『知』を独占するのか」(福井健策・著 集英社新書) での記述を想起した。この書によると、知的インフラが世界的な教育の均質化と序列化のツールではなく、多様性と機会均等に寄与させるためにはどうしたらよいかを提起している。

 そして、具体的事例のいくつかも紹介している。(以下の数値は2014年12月現在)

「MOOC」(ムーク)

 この大規模公開オンライン講座は、世界中で受講生700万人を突破。大学という知的オアシスを「デジタルアーカイブ化する試み」として注目されている。

「edX」(イーディーエックス)

 アメリカのハーバード大学とMIT(マサチューセッツ大学)が立ち上げたサービスで、アメリカ国内では49の大学が参加し、220のコースが用意されている。日本では京都大学が初参加。

「coursera」(コーセラ)

 アメリカのスタンフォード大学が2012年に立ち上げたもので、講座は718にのぼる。

東京大学は、上記のedXとコーセラの双方に参加している。

 福井氏は、日本においてもネットワーク連携を含め、「世界的なデジタルアーカイブの構築」が急務であり、地理的限界と時間的限界を超えて、世界の人々に知を行き渡らせるべきと主張している。

加えて、国会図書館を中心とする「電子図書館構想」や、「文化遺産オンライン」によるデジタルアーカイブなども、今後は最重要なデジタルインフラとなっていくであろうとしている。

 私も、全く同感である。東京大学が総合図書館別館で構築した「自動書庫化」。それはそれで、素晴らしい取組みではあるが、世界の大学は、もはや知的インフラのグローバルでデジタル資産としての蓄積とシェア(共有)に、急速に歩みをすすめている。

 私自身、学芸員課程を履修して感じたことは、もはや「博物館」「美術館」という箱物に籠って従事するフィールドから脱皮して、グローバルな視点から世界遺産、文化遺産、国宝、重要文化財などを、デジタルツールを媒介にして、いかにシェア(文化資産共有)し、向き合っていくべきかであった。

 過去の郷愁とアカデミズムの世界に浸り、籠(こも)る時代はもう終わった。とすれば、知の独占とその権威や威厳に甘んじているのではなく、日本の持つ知的インフラとソフトウェアを総動員して、それぞれの知的財産権を保護しつつも、グローバルな知的資産をどう世界中で共有し、活用していけるのか、その先頭に立っていくべきでは。そして、そのための東京大学という存在であってほしいと考えた。

写真: 「新・美の巨人たち<テレビ東京放映番組 2020.10.3>」より転載。同視聴者センターより許諾済。

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