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芸術のもつ力とは何か・・・「アートの革命児 BANKSY Game Changer 2020年作)

(「新・美の巨人たち」テレビ東京番組<2020.7.18>主な解説より引用)

今こそアートのチカラをウィズコロナを描く「Game Changer」(バンクシー BANKSY作 2020年)

 イギリスのサウサンプトン総合病院は、新型コロナ感染の最前線施設のひとつである。この病院に医療従事者への感謝のメッセージを添えて、バンクシーが絵画「Game Changer」(2020年5月)を寄贈した。

 「あなたたちの尽力に感謝します。モノクロの作品ではありますが、少しでも現場が明るくなることを祈っています」と。 正体を現さないストリートアーティストとして、神出鬼没に活動しているバンクシーは、鋭い風刺で知られる画家でもある。

 タイトルの「Game Changer」とは、「世界の流れを大きく変える人」の意味。一人で空想するかのように遊んでいる少年が、マントを羽織った「空飛ぶナース」人形を片手に遊んでいる。その一方で足元のごみ箱には、かつての映画ヒーローであったバットマンやスパイダーマンの人形が、無造作に捨てられている光景が目に入る。

 この少年にとって、今は胸に赤十字マークをつけマスクを着けた医療従事者が、最高のヒーローであることを暗示している。そこには、「見えない敵と闘えるのは、他のだれでもない医療従事者だ」というメッセージがあるのがわかる。

 バンクシーは、貿易で栄えたイギリス・ブリストルで1974年頃に生まれた。街行く人はステンシルワークという描き方で、街角のスペースに落書きにも見える彼の作品「Mild Mild West」(1999年)、「Well-Hung Lover」(2006年)などを観て語った。

 「バンクシーの作品は街の特徴で、深い意味が込められていて社会に影響を与えていると思う」またある街人は、「街中での意味のある落書きを通じて、私たちにディベートの場を提供してくれている」と。
 ライター・翻訳家の鈴木沓子氏は、バンクシーについて「もともと社会に対する不正義や理不尽な状況に対しての憤りを、すごい強い気持ちで持っていた。観るだけで気持ちが変わっていけば、社会をひっくり返す力になるのではないかということは、彼は今でも愚直に信じているのではないか」と語った。
 一方、フローレンス・ナイチンゲール(1820-1910年)は、「犠牲なき献身こそ真の奉仕である」「看護という仕事をプロの仕事として認めておいて、お給料をきちんと支払わないと、ボランティアでは福祉の仕事は続けられない」と訴えていた人でもある。彼女が「ナース」のモデルになっている。

 バンクシーが今回描いたナースをさらによく観ると、手足が黒い。コロナ感染によって、社会の歪みがより浮き彫りになった。これはイギリスの「エスニックマイノリティ」つまり、移民や有色人種の人たちを、暗に投影しているのではないかとも鈴木沓子氏は語った。 

 また批評家の小倉利丸氏は、バンクシーについて、「今の社会のあり方は、我慢がならない。その我慢がならない部分を、彼なりの非常にウィットに富むやり方で表現している。それが観る者たちを刺激して、議論が起きて、私たちが希望する社会へ向かっていくための、一つの起爆剤になっていく」。

 今回の作品を通じて、「医療従事者の方たちに感謝を伝えるだけでヒーロー扱いするのであれば、彼らのことを使い捨ててしまうことになる」と。 そこで、バンクシーは「一人ひとりがゲームチェンジャーになる(流れを大きく変える)時代」ということを問いかけているのではないかと。

 さらに、その問いかけというのは、バンクシー自身にも向かっている。「じゃあ自分にできることってなんだろう」と考えた時に、この絵を寄贈したのちに競売にかける。オークションでの売り上げは、全額をイギリスの医療事業に寄付することを公言している。
 バンクシーは語る。「自分の作品でみんなの心がちょっとずつ変わっていけば嬉しいと思っている。俺のやりたいことは、それ以上でも以下でもない」と。

(番組を視聴しての私の感想綴り)

 バンクシー(1974年頃〜)の作品は、社会的なメッセージを込めたものが多く、そこはかとなく漂う社会批判、社会風刺がこめられている。彼はイギリスを拠点として、ストリートアーティスト以外にも、政治活動や映画監督の活動をしている。

 コロナ禍で世界中で多くの人々が、外出自粛をよぎなくされている。一方では、外出せざるをえず社会のインフラを支えている人々がいる。 コロナ感染患者を受け入れつつ、他の治療も同時に担っていただいている医師や看護師といった医療従事者、電気・ガス・水道・公共交通、ゴミ収集など、暮らしにとって止めるわけにはいかない仕事を、日々担っている人たち。

 コロナだからといって、個々の都合で仕事を投げ出すわけにはいかない現実が一方にある。

 こうした、日々淡々とこなしている人々の存在があって、あたりまえの日常が成立しているということを改めて教えられる。
 シンプルではあるが、「何が真に尊ぶべき価値なのか」を、バンクシーはたった一枚の絵で表現しているように思える。人間社会への風刺とともに・・・
 さらには、「すべての人間生命の尊厳」を守り、みんなが生きていける社会にしていくことこそ、コロナ後に求められる社会の姿なのではと、世界の人々とともに、自らにも問いかけているようにもみえる。

 サウサンプトン大学病院のある関係者は、この絵を通じて「新型コロナウィルスによる、多くの悲劇的な死の影響を直にうけていた私たちにとって、非常に価値がある。

 多忙な日々にあって、立ち止まり思考し、この絵に感謝する時がくるだろう。私たちスタッフや患者たちの気持ちを温め、その士気を必ず鼓舞してくれるだろう」と語っている。

 2020年という同時代を生きている我々は、一人ひとりの生き方を振り返るとともに、ウィズコロナのもたらす意味を咀嚼しつつ、自らできることを積み重ね、その共感を互いにシェアしていくことが大切なのではと強く感じた。レジ袋の一枚からでも、できることはあるのだから・・・

写真: 「新・美の巨人たち」(テレビ東京放映番組<2020.7.18>)より転載。「Game Changer Banksy作 2020年5月」同視聴者センターより許諾済。

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