瀬戸千歳

作家、デザイナー。第14回江古田文学賞佳作、第29回舟橋聖一青年顕彰文学賞、第56回香…

瀬戸千歳

作家、デザイナー。第14回江古田文学賞佳作、第29回舟橋聖一青年顕彰文学賞、第56回香川菊池寛賞受賞、第37回日大文芸賞受賞。第1・2・4回阿波しらさぎ文学賞最終候補。第3回ブンゲイファイトクラブ本戦出場。ご依頼お待ちしています。

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    アンソロジー 非実在神様

    八つの神様、八つの祈り。 カバー有/オビ付き 御札デザインのシール付属 犬山 昇「デュッセルドルフの神さま」 水子おばさんの部屋は、水際の最下層にある。ひび割れが目立つ築四十年のアパートは、入口が四階にある。彼女以外に住人の気配はないし、他の部屋はすべて硝子窓が黒のテープで覆われている。目の前はリゾート再開発に失敗した湖で、最寄りのJR駅から五キロ歩いたところに、その湖上アパートの入口はある。 大木芙沙子「お正月さん」 そのひとは、私たちが遊んでいるところへある年ふらっとやってきた。仏間は大人たちがお酒を飲んでいる居間から便所へ通じる廊下の途中にあったから、便所へいくついでに私たちの姿を確認していく大人はいたけれど、そのひとは居間とは逆方向の廊下から歩いてきて、「おじゃまするね」とふすまを開けて、後ろ手でそれを閉めると、すとん、とその場に胡坐をかいた。 尾八原ジュージ「おまよい様の住む家は」 おまよい様を見た。黒い子どもの影のようなものが古地川さんの家の門から出てきたと思ったら、ぴゅんと走って角を曲がった。わたしはとっさに追いかけた。遅れて曲がった角の先に、その姿はもうなかった。 木古おうみ「虚渡しの日」 虚渡しの神が現れる期間はほぼ五十年毎だ。直近で現れたのは二十一年前だから、後三十年近くは安全だ。出たとしても、神に遭遇する確率は飛行機事故より遥かに低い。 紅坂 紫「高峰」 その日、高峰は月見団子をふたつ買ってきた。島で唯一の和菓子屋の名が入ったビニール袋を揺らして、土間に立ったままわたしを呼んだ。気分が良かったのだろう。デジタルノイズのような顔を色とりどりに変えながら大きな声で笑っていた。 鮭とば子「たいか様」 たいか様。その漢字には複数の説があるけれど、大抵は『大禍』と『対価』が選ばれる。「大禍を呑めば対価を与える神様」ということがわかりやすいからだ。 瀬戸千歳「生まれたばかりの泉」 死者に会える泉のうわさを耳にしたことはあったけれど、それにまつわるアルバイトがあるとは思ってなかったし、まさか受かるとも思っていなかった。どれくらいの倍率かは知らないけれど受かったのは僕だけだった。 橋本ライドン「らぶらぶ様」 まったく 信じる力はおそろしい。 装幀:瀬戸千歳 書影は付属シールを貼ったサンプルです。
    1,300円
    真夜中文庫
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    アンソロジー 夢でしかいけない街(増刷版)

    人魚の歌、灯篭流し、流氷の街、増殖するペンギン、海底の不動産屋、父とのプール、瞼のうらの湖……小説・短歌・漫画・写真・イラストでつむがれる16編の夢物語 [仕様] カバー・オビ有り B6サイズ(128mm×182mm) 口絵12・本文196、全208頁 秘密結社きつね福 2023.05.20 初刷り 2023.06.24 増刷 増刷版です オビのデザイン、本の厚み、本文の一部が初刷りから変わっています [書き手] ・左沢森「北に旅」 ・伊藤なむあひ「夢街奇譚」 ・大木芙沙子「みずうみ」 ・オカワダアキナ「ヒッポカンピ 」 ・尾八原ジュージ「春の夜の歌」 ・紅坂紫「波の彼方(あなた)」 ・坂崎かおる「ペンギニウムの子どもたち」 ・鮭とば子「シャク太郎の呪い」 ・白川小六「蜘蛛を助ける/蜘蛛に助けられる」 ・瀬戸千歳「餓虎」 ・谷脇クリタ「海氷街の羽海子」 ・橋本ライドン「夢の約束」 ・本所あさひ「海底街と斎藤さん」 ・yuca「忘れるために」 ・ヨノハル「渡河」 ・Raise「閘」 写真:ヨノハル 企画・編集・装幀:瀬戸千歳
    1,650円
    真夜中文庫
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    閑窓vol.6 常しなえの佳日

    閑窓vol.6 「常しなえの佳日」 架空の百貨店、八満屋をめぐる短編集です。全8編収録。 [執筆者] ・伊藤美希 ・大滝のぐれ ・熾野 優 ・瀬戸千歳 ・鳥山まこと ・旗原理沙子 ・丸屋トンボ ・望月柚花 道の真ん中でひとり/熾野優 母と違って目が悪い私は星のひとつひとつが鮮明には見えない。ぼんやりと、小さく強く輝く光の粒がちりばめられている。 細蟹姫/瀬戸千歳 ウワサによればこのフロアにあるらしい笹は、七夕がすぎて撤去されるまで毎日短冊をかけ続けたら願いが叶うというもの、けれど婦人服のフロアにあるからおれら男子中学生がおいそれ立ち寄れるわけでもなし、実際のところクラスの男子で目にしたやつはいないみたいや。前に住んでたところでもそういう願かけは流行ったから「それお百度さんやん」なんて思わず口にするけどもちろん誰にも伝わらず、それってどんなやつなの、など聞き返され、それだけならまだしも、どんなんどんなんおしえてえなあなどへったくそな訛りを使われてむかついたし、おれも使わんように話してみるけどぜんぜんむりで、ていうか標準語をしゃべるおれサブイボが立つわ。 大理石に泳ぐ/丸屋トンボ 海の底の夢を見た。ほかのアンモナイトたちと珊瑚の森を泳ぐ。三葉虫が群れを成して行進する。頭上で巨大なシーラカンスが方向転換し、わだつみが渦を巻く。海の底なのに、なぜか遠くの山々にはしんしんと雪が降っている。アンモナイトだって夢を見るのだ。 ...and more!! 写真:ヒロセミサキ イラスト:橋本ライドン 装幀:瀬戸千歳 閑窓社 2023.5.20 初刷り A6版/190ページ/カバーなし/帯付き
    700円
    真夜中文庫
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    アンソロジー 非実在神様

    八つの神様、八つの祈り。 カバー有/オビ付き 御札デザインのシール付属 犬山 昇「デュッセルドルフの神さま」 水子おばさんの部屋は、水際の最下層にある。ひび割れが目立つ築四十年のアパートは、入口が四階にある。彼女以外に住人の気配はないし、他の部屋はすべて硝子窓が黒のテープで覆われている。目の前はリゾート再開発に失敗した湖で、最寄りのJR駅から五キロ歩いたところに、その湖上アパートの入口はある。 大木芙沙子「お正月さん」 そのひとは、私たちが遊んでいるところへある年ふらっとやってきた。仏間は大人たちがお酒を飲んでいる居間から便所へ通じる廊下の途中にあったから、便所へいくついでに私たちの姿を確認していく大人はいたけれど、そのひとは居間とは逆方向の廊下から歩いてきて、「おじゃまするね」とふすまを開けて、後ろ手でそれを閉めると、すとん、とその場に胡坐をかいた。 尾八原ジュージ「おまよい様の住む家は」 おまよい様を見た。黒い子どもの影のようなものが古地川さんの家の門から出てきたと思ったら、ぴゅんと走って角を曲がった。わたしはとっさに追いかけた。遅れて曲がった角の先に、その姿はもうなかった。 木古おうみ「虚渡しの日」 虚渡しの神が現れる期間はほぼ五十年毎だ。直近で現れたのは二十一年前だから、後三十年近くは安全だ。出たとしても、神に遭遇する確率は飛行機事故より遥かに低い。 紅坂 紫「高峰」 その日、高峰は月見団子をふたつ買ってきた。島で唯一の和菓子屋の名が入ったビニール袋を揺らして、土間に立ったままわたしを呼んだ。気分が良かったのだろう。デジタルノイズのような顔を色とりどりに変えながら大きな声で笑っていた。 鮭とば子「たいか様」 たいか様。その漢字には複数の説があるけれど、大抵は『大禍』と『対価』が選ばれる。「大禍を呑めば対価を与える神様」ということがわかりやすいからだ。 瀬戸千歳「生まれたばかりの泉」 死者に会える泉のうわさを耳にしたことはあったけれど、それにまつわるアルバイトがあるとは思ってなかったし、まさか受かるとも思っていなかった。どれくらいの倍率かは知らないけれど受かったのは僕だけだった。 橋本ライドン「らぶらぶ様」 まったく 信じる力はおそろしい。 装幀:瀬戸千歳 書影は付属シールを貼ったサンプルです。
    1,300円
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    アンソロジー 夢でしかいけない街(増刷版)

    人魚の歌、灯篭流し、流氷の街、増殖するペンギン、海底の不動産屋、父とのプール、瞼のうらの湖……小説・短歌・漫画・写真・イラストでつむがれる16編の夢物語 [仕様] カバー・オビ有り B6サイズ(128mm×182mm) 口絵12・本文196、全208頁 秘密結社きつね福 2023.05.20 初刷り 2023.06.24 増刷 増刷版です オビのデザイン、本の厚み、本文の一部が初刷りから変わっています [書き手] ・左沢森「北に旅」 ・伊藤なむあひ「夢街奇譚」 ・大木芙沙子「みずうみ」 ・オカワダアキナ「ヒッポカンピ 」 ・尾八原ジュージ「春の夜の歌」 ・紅坂紫「波の彼方(あなた)」 ・坂崎かおる「ペンギニウムの子どもたち」 ・鮭とば子「シャク太郎の呪い」 ・白川小六「蜘蛛を助ける/蜘蛛に助けられる」 ・瀬戸千歳「餓虎」 ・谷脇クリタ「海氷街の羽海子」 ・橋本ライドン「夢の約束」 ・本所あさひ「海底街と斎藤さん」 ・yuca「忘れるために」 ・ヨノハル「渡河」 ・Raise「閘」 写真:ヨノハル 企画・編集・装幀:瀬戸千歳
    1,650円
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    閑窓vol.6 常しなえの佳日

    閑窓vol.6 「常しなえの佳日」 架空の百貨店、八満屋をめぐる短編集です。全8編収録。 [執筆者] ・伊藤美希 ・大滝のぐれ ・熾野 優 ・瀬戸千歳 ・鳥山まこと ・旗原理沙子 ・丸屋トンボ ・望月柚花 道の真ん中でひとり/熾野優 母と違って目が悪い私は星のひとつひとつが鮮明には見えない。ぼんやりと、小さく強く輝く光の粒がちりばめられている。 細蟹姫/瀬戸千歳 ウワサによればこのフロアにあるらしい笹は、七夕がすぎて撤去されるまで毎日短冊をかけ続けたら願いが叶うというもの、けれど婦人服のフロアにあるからおれら男子中学生がおいそれ立ち寄れるわけでもなし、実際のところクラスの男子で目にしたやつはいないみたいや。前に住んでたところでもそういう願かけは流行ったから「それお百度さんやん」なんて思わず口にするけどもちろん誰にも伝わらず、それってどんなやつなの、など聞き返され、それだけならまだしも、どんなんどんなんおしえてえなあなどへったくそな訛りを使われてむかついたし、おれも使わんように話してみるけどぜんぜんむりで、ていうか標準語をしゃべるおれサブイボが立つわ。 大理石に泳ぐ/丸屋トンボ 海の底の夢を見た。ほかのアンモナイトたちと珊瑚の森を泳ぐ。三葉虫が群れを成して行進する。頭上で巨大なシーラカンスが方向転換し、わだつみが渦を巻く。海の底なのに、なぜか遠くの山々にはしんしんと雪が降っている。アンモナイトだって夢を見るのだ。 ...and more!! 写真:ヒロセミサキ イラスト:橋本ライドン 装幀:瀬戸千歳 閑窓社 2023.5.20 初刷り A6版/190ページ/カバーなし/帯付き
    700円
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自己紹介など

お初にお目にかかります。瀬戸千歳です。 小説を書きつつ、本業はマンガを中心とした書籍関係のグラフィックデザイナーをやっています。 瀬戸内で育ったので海が舞台の話や、怖かったり不思議な話をよく書きます。大学では林芙美子と宮沢賢治、大学院ではドストエフスキーの研究をしている先生に師事していました。 デザインのお仕事は個人的にもお受けしています。お店のロゴやらイベントのフライヤー、脱出ゲームの冊子、フリーペーパーの誌面組み、文芸同人誌の表紙や文字組みなど。 主に文学フリマ東京に

    • 今年の諸々2023

      いまだにnoteだと狐面スーツである。 書いたり作ったりなど、今年やったよ!のまとめです。今年は公募賞に向けた作品にぜんぜん取り組めず、こないだからよしやるぞ〜!と書き出してはいるものの、ちょっとやらなくなると途端に体力がなくなるもんですね。ナムナム。 1月 CALL magazine vol.2 「恵方」掲載 紅坂紫さんが編集長を務めるフラッシュフィクション専門誌に呼んでいただいた。しかもviol.2である。めっさ嬉しい。毎週月曜日にコンビニで印刷できるネットプリントで

      • 秘密結社きつね福/文学フリマ東京37報告

        文学フリマ東京37に出店しました。 見本誌・執筆者への献本をふくめ、新刊『アンソロジー 非実在神様』131冊、既刊『アンソロジー 夢でしかいけない街』は26冊ほど手元から旅立っていきました。め〜〜〜〜〜ちゃくちゃ嬉しい。あとお預かりしていたフリーペーパー『ミッドナイト』も用意していた100部すべて手にとっていただきました。本当にありがとうございます! 『夢街』初版の束幅16.2mmで『非実在神様』は8.5mmのため前回の文学フリマ東京36に持っていった106冊の1.5倍く

        • 非実在神様/文学フリマ東京37

          【新刊のおしらせ】アンソロジー 非実在神様 [仕様] カバー・オビ有り B6サイズ(128mm×182mm) 小説と漫画の全8編・本文148頁 御札風デザインのシール付き イベント価格1200円 [書き手] 犬山昇/大木芙沙子/尾八原ジュージ/木古おうみ/紅坂紫/鮭とば子/瀬戸千歳/橋本ライドン [Webカタログ・お品書き] す-28 秘密結社きつね福 [イベント情報] 開 催:2023年11月11日(土) 時 間:12:00~17:00(最終入場16:55) 入場料

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        自己紹介など

          MacBookが壊れた/壊した

          せっかくだから瞬間の感情を書き留めておかなきゃと思って書いている。PCが壊れました。正確にいうと動いてる様子はあるけど画面がまったく映らなくなりました。 使っていたのは2019年製MacBook Pro 16インチで、コロナ禍に入ったタイミング、在宅作業での必要性に迫られて慌てて買ったやつ。本体が24万円、作業効率を上げるためにワイヤレスのキーボードやらマウスやら諸々のアクセサリーもつけてだいたい27万円くらい。会社は27インチのiMacで縦長のサブモニターもつけてデュアル

          MacBookが壊れた/壊した

          秘密結社きつね福/文学フリマ東京36報告

          文学フリマ東京36に出展しました。もう1ヶ月前のこと。 今回の新刊「アンソロジー 夢でしかいけない街」は100+献本用6冊を会場に持ち込みまして、ありがたいことにすべて完売しました。め〜〜〜ちゃくちゃ嬉しい。 上のリンクにある通り厚みが16.2mmあるので、重さもさることながら物理的に持ってゆくのがたいへんで、手持ちのキャリーケース+登山用のリュック+紙袋×2でどうにかこうにかという感じ、アンソロジーなので数が本当に読めませんでしたが、120冊くらい持ってゆく腹づもりでし

          秘密結社きつね福/文学フリマ東京36報告

          夢でしかいけない街/文学フリマ東京36

          【新刊のおしらせ】アンソロジー 夢でしかいけない街 [仕様] カバー有り 数量限定でオビ付き B6サイズ(128mm×182mm) 口絵12・本文196、全208頁 小説・短歌・漫画・写真・イラストの全16編 イベント価格1500円 [書き手] 左沢森/伊藤なむあひ/大木芙沙子/オカワダアキナ/尾八原ジュージ/紅坂紫/坂崎かおる/鮭とば子/白川小六/瀬戸千歳/谷脇栗太/橋本ライドン/本所あさひ/yuca/ヨノハル/Raise [Webカタログ] う-59 秘密結社きつね

          夢でしかいけない街/文学フリマ東京36

          サンダーバード

          続けざまに結婚式があった。4月30日と5月4日。ふたりとも同じバンドで遊んだ友人だったから、余興で演奏をした。よくコピーしていたのはACIDMANとムック、ELLEGARDENなどだったからそこらあたりから選ぼうと思ったけれどベースが違ってしまうことが悲しくて、ぜんぜん関係のない曲にした。 ベースは亡くなった友人の機材を使った。弦はとっくに錆びていたけれど、ボディには埃もなく、よく手入れされているのがわかった。なるだけあの頃と同じ編成で再現したいとのことで私は弾かなかったけ

          サンダーバード

          かいな

           死んでいたのはおれだったかもしれない。おれはたまたま生きていて、いつ誰に蚊をつぶすみたいにころされるかもわかんないくらいの、そういう社会に身を置いている。あちらから向かってくるおじさんがカバンをごそごそやるとき、ナイフを出されるんじゃないかと思って身構えたり、まっくろなバンが歩道脇に止まっていたら、おれを引きずり込んでぐちゃぐちゃにして海に捨ててしまうんだろうと思ってイヤホンを取ったりする。でもおれがそういうたぐいの不安を吐き出したところで、抵抗すればワンチャン勝てるっしょ

          光跡

           四十九日が済んでも麦野はいまだにやってくる。三日連続のときもあれば、一週間ぱったりと姿を見せないこともある。十日あいたことはない。帰宅する際、カーテンの隙間から光が漏れていると、ああ、またきているんだなと思う。彼女はたいてい床に座りこんで窓から外を眺めている。たまに壁にもたれかかったりも、する。生前から行儀がよかったので、床に寝そべったり勝手にベッドを使ったりはしない。すくなくとも私がいる間は。  麦野はしゃべれないみたいだったが、話しかければうなずいたり笑い返してくれる。

          霞食い(匿名超掌編コンテスト参加作)

          板野かも様が主催の「第1回匿名掌編コンテスト」に参加して、たいへんありがたいことに拙作【霞食い】が1位に選出された。やった〜! Twitterのフォロワーである尾八原ジュージさんが参加表明をしており、概要を読んでみたら基本的なレギュレーションは500字以内・本文中に【試】の文字を使用すること、とのこと。暮れから春にかけて、リプライでお題をもらって420字程度の掌編を書く個人企画を毎年行なっているので、これはかなり得意な方向性のイベントだな〜と思いやってみることにした。 いつ

          霞食い(匿名超掌編コンテスト参加作)

          巡礼

           石階段から砂浜へ降りてゆく途中、流木やら漂着物やら海草やら打ち上げられているのが見えた。覚悟はしていたが、やはり昨夜のうちに抜けた台風が連れてきたのだろう。清掃ボランティアの人たちの姿はなかった。この湾はいつもあとまわしだ。岬の突端にあり、観光客どころかサーファーもこないから、たまに次の台風まで放っておかれることさえある。台風じたいはちっともめずらしくないけれど、私が役目を継いでからはじめてのことだったので、はたしてうまくできるか不安だった。目印にしていた大きな岩はまったく

          今年の諸々2022

          いまだにnoteだと狐面スーツである。 書いたり作ったりなど、今年やったよ!のまとめです。応募したけど箸にも棒にもかからなかったものは省いた…ら、そういったものがなくなってしまった。8年ほど続いていたのでひそかな自慢だったのだが、はじまったものには必ず終わりがある。ナムナム。 1月 Twitter #リプライでもらった漢字ひと文字のお話 2021年版終了 2018年から年末に行なっている、みんなからリアクションをいただいて小説を書く企画。昨年に引き続いて“好きな漢字”にし

          今年の諸々2022

          海の防人(BFC4応募作)

            海の防人  今年はじめての嵐が去ったあくる日、わずかに残っていた夏の気配は浜辺からいなくなっていた。水面で弾ける光はまぶしかったが、海から吹いてくる風は冷たかった。打ちあがったごみを今日のうちに処分しておくように。朝礼の際、支配人は厳しい口調で言った。昼用のお弁当を受け取るとき、最後の最後にツイてなかったね、と受付係の弓塚さんは気の毒そうに目を伏せた。でも終わらなかったら期間が延長されるかもしれないよ、藤谷くんまじめだし。僕はあいまいに笑って応えた。彼女を含めたホテルの

          海の防人(BFC4応募作)

          報恩(第5回阿波しらさぎ文学賞 落選作 )

           本当に黒金の橋が架かり、狐が近々戻ってくるやもと厳戒態勢が取られて三十年余が経つ。狐の侵攻はただの一度もなかったが、その間に政治は腐敗を極めた。止め名でもある屋島太三郎、隠神刑部が続けざま病に伏してしまい、同じく長老衆の大名跡であった小松島金長も長らく空位だったため、これ幸いと二軒屋町のおっぱしょ喜六を筆頭に元老院とその一派が私欲を肥やしに肥やしたからである。法の解釈を拡げ、あらゆる利権を独占して富を一極化させた。それらは周到に為され、識者や聡い若者が気づいた頃には手遅れだ

          報恩(第5回阿波しらさぎ文学賞 落選作 )

          諸字百物語/蛇蠱の子を作った

          個人誌を作った。 先日開催された第34回文学フリマ東京にて頒布した『諸字百物語』と『蛇蠱の子』の2冊である。架空の間取り・空間をテーマにしたアンソロジー『閑窓』は定期的に作っているが、まったくの個人誌となると19年10月に作った『星の幽霊』以来のことだった。年に1回、秋の文学フリマ東京に併せて作品をこしらえよう!と息巻いていたのはずっと遠い過去の話。 『星の幽霊』は18年の暮れにTwitter上で #いいねした人をイメージして小説の書き出し一文 を募集、半年かけて書いた掌

          諸字百物語/蛇蠱の子を作った