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【舞台】世界は笑う(2022年8月26日)

久しぶりに心から楽しめる舞台で満足!俳優のトリセツを観客に瞬時に提示する演出手腕、ベタなようで緻密な舞台美術のおかげですっかり観客が一体となり圧巻・・・。舞台を見るのが初めてならこれをお勧めしたい。いい意味でウェルメイド。

あと2か月後にKERA・MAPもあるのに、いったい何作書くんだろう・・・、と毎度心配になるペースだけど、今回はおなじみの戦後モノだし、まあ何となく無難な感じなのかな・・・、と期待半分という具合で参戦。

平日夜だったしなんとなく気分も乗らないまま、でもいい席だし、と気を取り直しているのもつかの間、開幕と同時に一気に昭和30年代の新宿に引き込まれてしまった。オープニングでしっかり(いつもより多め?)役者を紹介しつつ、客席まで覆った新宿の風景は、ベタと言えばそうなのかもしれないけれど、観客と舞台が一体になる、というとてもピュアで真摯な作りだったと思う。(観客と舞台の敵対関係、張り詰めた空気が重要、という舞台もそれはそれであるけれど今回は違う。)

テーマとしては、ナイロン100℃ファンにはおなじみの、笑っちゃいけないものなんてない、という一貫したものを、戦後混乱期に苦心する喜劇役者たちの悲喜こもごもとともにそれぞれの登場人物の思惑や背景が絡んで物語がで展開していく、という、KERA作品の中では非常に見やすくて対象者の幅が広い内容かと思う。音楽もいいし衣装も素敵、役者はもちろん豪華で物語もよくできていて、いい意味でのウェルメイドな作品として、万人に見てほしい「ザ・名作」。NHK教育とかで放送しないかしら…。

そして、何より、瀬戸康史が当たり役すぎるのと、私たちがみたい緒川たまきの魅力をこれでもかと魅せてくれるのと、もう書ききれないくらい役者の魅力をこれでもかと引き出し→広げ→演出し→演者が120%で応える、という相乗効果が見ていてとても気持ち良かった。毎回ケラさんの芝居は、「なんで女がこんなにわかるのか~!!」と観劇後に友人とひたすら語り合ってしまうくらいなのだけど、今回ももちろんそう。女優たちのキャラクターと役の掛け算で、女性の多様な面を複層的に描き出していて、それが本当に自然。加えて、前半で女優陣が躍るシーンもかわいらしくて最高だった・・・。

瀬戸康史:とにかく当たり役。緒川さんと姉弟のように無意味にいちゃいちゃするシーンが多くてうれしかった。永遠に見ていられる・・・。ピュアすぎるのが不穏さを生み出すという存在感も見事。KERAさんの舞台は2作目なのでは?と思うけど前回の記憶が一切ない…。スミマセン、でもそれくらい今回は良かった、ってことで!観客みんなが一緒になって、松雪さんとの恋を応援しながらお芝居に参加できました。

緒川たまき:あ~、家に帰ってこの人がいる生活ってどんな幸運なんでしょうか(逆もでしょうけど)。中原淳一のイラストを具現化したような、若き日の雪村いづみのような、かわいくてお茶目でキュートで・・・。あの存在感が舞台で実現できるって、奇跡だな~。

伊勢志摩:大人計画ではなかなか見られない、ド正面の色気を出してくれたこの芝居に心から感謝したい!ずっと、伊勢さんの色気がもったいないと思っていたので、今回、正統派の色気(着物も含め)で、銀粉蝶と対決させたのも、膝を打ちました!新旧、というか、そうか、銀粉蝶の跡を継ぐのは伊勢さんか!というイメージがふあ~、っと観客席まで伝わってきた。

廣川三憲:ナイロンファンにはおなじみだけど、いろんな層がいるシアターコクーンの観客を一瞬にしてつかんだ瞬間は、別の意味でゾッとしました。廣川さんが出てくるとみんながクスッとしたりほっとしたりピリッとしたり、舞台の一体感を作る核となっていて、いい芝居をさらに充実するものにしてくれました。いや~、これが舞台をリアルで見る楽しみなんだよな~。

松雪泰子:キレイ・・・。好き・・・。はかない松雪さんが好きなので、あと個人的に今「平清盛」を見ているので、いろいろ感極まってしまい・・・。あの大倉さんが迎えに来たら、そりゃあ何もかも投げ捨ててついて逃げるよな~。「金もない、ほかに妻子もいる、でも着いて来てくれ」、って言っても許される男・大倉孝二。第1幕ひたすら大声でかわいそうだったけど、最後に我々が見たい衣装で「渋クール大倉さん」を登場させたKERAさん、ありがとうございます。

ラサール石井:スミマセン、正直見るまでは「??」って思ってました。素晴らしすぎて、あと二役の意味がラサールさんの演技によって深まりすぎて、本当にいいお芝居でした。そりゃそうですよね、舞台は百戦錬磨ですもんね。大変失礼しました。

温水さんと山西さんはもういつものことながら素晴らしいので割愛。先日、イキウメ公演での温水さんに圧倒されたばかりなので、逆になじんでいる温水さんを見ると、改めてこの演者たちの巧っぷりがわかる。(※山西さんは私にとって「日本人のへそ」での有名な駅員で殿堂入りなので…。ただ駅名を言うだけ(と言ってもその記憶力はもちろんすごいんだけど)で「演技」になるっていうことが、役者ってすごいっていうことを見せつけられて、あのシーンは何回見ても号泣。岩手出身の人はどう思うんだろうか。)

イヌコさん、山内さん、マギーさんもいつも通り素晴らしいので割愛。マギーさんって、ほかの舞台でも本当に「救い」って感じで、なんかご本人はどう思っているのかな、と率直に聞いてみたい。自分の場合はついつい「自分が得したい」という思いが強い方なので、あんなに周りや全体を「救って」ばっかりいるのって、なんかすごいな、と。イヌコさんはもう生きる伝説なので、立ったりしゃべったりするだけで泣いたり笑ったりしちゃうので割愛。

そう考えると、これは受け手の年齢にもよるのかな?特に勝地涼や伊藤沙莉目当ての若年層は物足りなかったかもしれない。若手カップルが置き去りになる感じ、「ベイジルタウンの女神」でもちょっとあったかな・・・。勝地さんは個人的にはギャグの落とし役、みたいな存在なのがほかの舞台含めてもったいないと思っているので、次回以降で機会があれば何かハマるいいんだけど。

あ~、本当にいい舞台だった!久しぶりに充実!泣いて笑って考えさせられて、観客を置いていかずに一緒に進んでいって、誰にでもおすすめできて、本当にいいお芝居でした。海外公演とかしないのかな?

しかし、なんであんなにKERAさんは女がわかるのか?先日「ウェルキン」を観劇して(同じくコクーンか)、「女だから女が書けるわけではないのだな」と思ってしまったので余計にそう思う。もちろん、「女」とひとくくりにするのは愚かなんだけど、それでもあえて、群像としての「女」あるいは個として「女」であっても、一貫してたり矛盾してたり、いや~なところやかわいらしいところ、弱いところやどうしようもないわがままなところを、KERAさんは本当に自然に描く。(特に姉妹属性の女っぽさ、がよく出ている。気がする。)

「しびれ雲」、楽しみだな~!

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