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No.13 決め手は?

独身の頃、私には結婚願望というものがなくて、
結婚は憧れたり、夢見たりする対象でもなかった。
友人達が、「早く結婚したいな」「結婚式は軽井沢の教会で挙げるんだ」「子供が欲しい」と話すのを聞いていても、
「そうなんだー」と言いながら、私自身は全くときめかなかったものだ。

それは、結婚したくないよ、という意味でもなくて、
もし好きな人がいて、お付き合いをしていて、
ずっと長く一緒にいられる人かも、と思ったらその先を考える。
けれど、相手を切り離して、先に結婚のことを考えることはなかった。

私は「海外旅行をしたいなぁ」と行き先を探すのではなくて、
「あ、ここ行ってみたいな」と思うところに出会ったら、
その時初めて、「よし、海外に行こう」と動き出すタイプだ。
その感覚に似ていたかもしれない。
だから、「行ってみたい」と思うような出会いがなかったら、
一生海外には出向かなかった可能性もある。

そんな私も、将来夫になる人に出会った。
結婚前、一人暮らしをしていた夫の家に遊びに行ったことがある。
「食事を作るから座っていて」と言われ、
私はリビングルームで待っていた。
「出来たよ、はいどうぞ」
出て来たものを見て驚いた。意外過ぎる。
「ありがとう」と言いながら、テンになる私の両目。
そしてその時に「この人とは、長く一緒に暮らせるかもしれない」
そう思った。

私の前に置かれた、お茶碗にこんもり盛られた炊きたてのご飯。
その上に、スライスされた直径3センチくらいの丸いスモークチーズが、
大きい目玉のように2枚のっていた。
それが夫が作ってくれた初料理だった。

「私の他にも、こういう食べ方をする人がいるのか」という驚きと共に、
「彼女をもてなす初料理がチーズのせご飯。と言うことは、
もし私が同じものを出したとしても、この人は不満とか言わないのだろうなぁ」
そう思った。

私はチーズが大好きだったので、
まさに、夫が私の為にやってくれたように、
自宅でも、ご飯の上にチーズをのせていただくことがあった。
私の場合は使うのは、◯印のスライスチーズや、ピザ用のシュレッドチーズだった。

「さすがアメリカ人。スモークチーズか」
何がさすがなのかはわからないけれど、感心した。

夫の穏やかでまるい、おおらかなその人柄を尊敬していた。
そこへ結婚の話が出た時に、迷うことなく前に進めたのは、
やはりチーズのせご飯のことがあったからだと思う。
それを見た時に私が思った、
「この人とは、長く一緒に暮らせるかもしれない」
あれは一種のビビッときた直感だったのだろうか。
ご飯の上にのった二枚のスモークチーズが衝撃的だったこともあり、
強烈に記憶に残っている。

「どうして結婚したの?」と聞かれると、
最初にチーズのエピソードを思い出すので、
何気にこれが決め手だったことは、間違いのないような気がする。

それにしても、この、私にとっての決め手は大正解だった。
夫は今でも食に関して大変おおらかだ。
オカズが足りないとか、言われたことはない。
もしかしたら思っているのかもしれないけれど、
ここは私にとって案外トリガーだったりするから、
何も言わない夫に感謝している。

人によって、結婚の決め手は違うだろう。
その人にとっての、なんとなくピンとくるものは、
結構大事なことなのかもしれない。

Love & Peace,

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