部署移動は突然に

今回は前触れもなく訪れた。

大抵ヒントくらいあるものだけど
私がボーっとしていたのか
全然気付かなかった。

なぜ私が抜擢されたのか分からない。
お給料は少々上がるからありがたいけど

若い人ばかりの部署なので
1人で平均年齢を引き上げている。

何とかみんなの役に立てるように頑張ろう。

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今度の職場は独立した建物で
以前の部署より少し離れた場所にある。

前の部署との接点は全くない。

建物も休憩場所も違うから
みんなに職場で会うことは
もうない。

通勤時間も少しずれるし
駐車場も職場に向かう通路も違う。

あんなに楽しかった数年間を
なぜか思い出すこともなくて
淋しさも全くない。

つい前の日まで毎日ゲラゲラ笑い転げて
一緒に働いていたのに

今は前世での出来事のように
感じているから不思議だ。

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新しい部署に行ってみて驚いた。

一人一人のスペースが
物凄く広い。

パソコンも大きくて
今までの2.5倍くらいある。

机なんて3倍だ。

とても自由で飲み放題食べ放題。
誰かに管理されないって
こんなに気分が良いんだね。

初日に部屋の片隅に案内されて
「この冷蔵庫の中の飲み物や
ここにあるものは
何でも食べていいんですよ」
と言われた。

フロアの中には腰高のキャビネットや
カウンターがたくさんある。

そこにかわいいカゴが置いてあって
中にお菓子が入っている。

ヘンゼルとグレーテルもびっくり
以前の仲間が聞いたら驚くだろう。

歩く先々でお菓子が手に入る。
コピー機に向かう途中も
トイレから帰って来る時も。

お菓子好きの私には天国だ。
でも1週間は我慢しようと心に誓った。

気を抜いたらポケットが
パンパンになりそうだから。

人生にこんなご褒美が待っているなんて
知らなかった。

何より嬉しかったのは
みんな理系なのでエネルギーが
馴染むこと馴染むこと。

理性という鉄筋が
張り巡らされたオーラは
混沌とは掛け離れたところにあって
議論の必要がない。

会話が少なくて済むし阿吽の呼吸で
どんどん話しが進んでとても楽ちんだ。

あぁ　3倍速で物事が片付くこの快感。
最高だ。

実家に帰って来たかのように
静寂の中で物事がどんどん進んでいく。

私は秩序の中で育ったから
この理系のエネルギーがとても馴染む。

夢ならどうか醒めませんように。

色々なドラマのあった以前の職場も
とても楽しかったけど

この年になるとやっぱり
自分のエネルギーに合う場所が
一番だと感じた。

この先どんなドラマが待っていようと
このお菓子さえあれば乗り越えられそうな気がすると

雪がチラつく空を見ながら真顔で思った。