蛙と子ども (物語)

雨空の下で、とぼとぼ歩いていると、蛙が一匹、アスファルトの上を、ぴょこぴょこ跳ねていた。皮膚は、茶色く、ぼこぼこしていて、分厚かった。身体は、大男の握り拳よりもやや大きい程度。そいつが、ガマガエルだとすぐにわかった。

私は、その蛙の近くまで行って、じっとそいつを観察した。雨足は強くなって、傘をしているのに、肩や背中の一部が、濡れ始めた。

家に帰るのは億劫だったから、雨に濡れながら、蛙を見ている方が、幾分気が楽だった。蛙は跳ねるのをやめて、止まっていた。喉がぐつぐつ動いていた。必死そうな呼吸だった。今はこいつは歩道にいるけれど、もしも車道に飛び出せば、程なく車にひかれて、ペシャンコにへしゃげるだろうな。それは可哀想なことだった。

私は、近くにあったブナの大木から、一枚葉っぱを取った。その葉の上に蛙を乗せて、茂みに戻してやろうと思った。葉っぱを腹の下にあてがってみようとするが、ダメ、どうも葉っぱの大きさが小さくて、具合が悪い。うまくいかない。葉っぱで腹の底を突くだけで、葉の上には乗れそうにないし、乗っても葉っぱはすぐに破けそうだった。しかし手で触るのは嫌だった。ガマガエルには毒があると教えられていたし、それにちょっと気持ちが悪かった。それでも私は諦めないで、葉の先端を蛙の腹のそこに滑り込ませようと何度も何度も頑張った。しかし、一向にうまくいかず、なんだか傍目からは、私がガマをいじめているように見えただろう。そうしていると、ガマは、私の干渉がうるさいと思ったのか、静止した状態から、ぴょんぴょん跳ねて、跳ねて、茂みの中に戻っていった。

それを見て私はホッとした。しばらくの間は、これでガマくんは、車のタイヤの下敷きになることはないだろう。

私は心の中で「ガマくん、さようなら」と言って、雨のせいでじっとりした空気の中を、家に向かって、とぼとぼ歩くのだった。

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