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川原泉さんの漫画が、大好きです。

私は『中国の壺』が特に好きです。
コメディタッチですがほろりと哀しく、悠久を思わせる詩的な余韻がなんともいえません。
自己の存在を肯定できない人物の、心理的なパラドクスを描いたサスペンス、『Intolerance――あるいは暮林助教授の逆説』。
働く動物と人間たちの関係を通して、ジェンダー問題と弱者の尊厳の核心を見事に捉えた『ブレーメンII』。
ああ、でも『架空の森』も大好きですし、挙げてもきりがないぐらい。
これまであまり考えずに楽しんでいたのですが、昨日は新しい発見がありました。
ネームの洗練度が、非常に高いことです。
素朴な絵柄に牧歌的な台詞のリズム感と、哲学的な論理と倫理を併せ持つ魅力に、男性ファンが多いのもうなずけます。
作画の前に構想を練る段階、ストーリーや場面を組み立ててゆく段階があると思うのですが、取捨選択の洗練度が飛び抜けていると感じ入りました。
おどろくほど、わかりやすい。
混み入った歴史やSF設定を読者にすんなりのみこませ、お話に引きこむチカラ。
作者がモタモタ迷っていたら、切れ味の鋭さは鈍ってしまいます。
良いものとダメなものを選別する審美眼に優れ、なおかつその判断も的確かつ疾風怒涛。
まるで、日本刀を木綿の布で包んだような。隠しても隠し通せない煌めきが布を通しても燦然と輝いていて、ため息をつきました。
すばらしい…。
以前気がつかなかったところに気がつくのも、良作を再読する楽しみのひとつです。
一番凄いところは、若いころの作品から近年の作品まで、ネームの切れ味が一定して変わらないことです。
画力は努力で埋められるところもありますが、ものの見方や捉え方、対局的な視点といったものは、天性の要素が大きい。
環境的要素も、もちろんあるのでしょうけれど。
大変に学ぶところが多いです。
ぼんやり読み流していないで、よく味わって噛み締めたいです。







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