作戦

丸くなった球状の泡を
ひとつずつ丁寧に
横一列に並べていくと
泡の境い目と境い目が
ピッタリくっついて
その結果
イクラみたいにつながった

透明のように見える泡には
薄らと自分の顔が映ってる
無数の顔がこっちを見てる
その気持ち悪さに
僕は耐え切れなくなって
不快な泡を壊そうと決心する

洗面器一杯の洗剤を
シンクの中で
一気にひっくり返した
泡がみるみるうちに壊れていく

蜻蛉の複眼のように
こちらを睨んだ顔も
排水口に吸い込まれてしまった

今の僕にとって
この程度のお遊びが
数少ない自己愛との戯れだった

泡まみれになったキッチンを
朝、掃除するのはいつも僕
食器用洗剤の栓を閉め忘れて
誰かに怒られるような心配も
今はもうない

多少のことは
こうやって水に流せばいい
泡で遊んでるうちに
僕の気持ちは平らになった

風船ガムを膨らますように
頬っぺに空気を溜めたら
少しそのまま息を止める

鼓動は止まらなくてもいい
呼吸が止まればそれでいい

息苦しくなるのを
ちょっとだけ待ってみる

実は
このラグ感が君にも必要?
だったら、うれしいのに

そう思いながら
ゆっくりと口の中から
新鮮さのない空気を吐き出した

やっぱり
世界の色は変わっていない
僕の世界は変わらなかった
こんなことぐらいでは

そう思った次の瞬間
僕の体を激しい倦怠感が襲った
頭がクラクラする

そうだ!

見事に!

酸欠した!

なんとかかんとか

僕の作戦は成功

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