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◇特集【長寿企業に学ぶ】時代を超える強さの秘訣

存続し続けること自体が容易ではないビジネスの世界において、一〇〇年以上経営し続ける長寿企業にはどのような経営ノウハウが蓄積されているのか。その特徴を紐解いていきます。

■守る事業と新しく取り入れる  分野の判断

 長寿企業と名が付くからには、経営を継続させる持続力に重きを置いているのは容易に想像ができる一方、持続性を重視することにより保守的になってばかりいるのでは、時代から取り残されてしまいます。

 柱となる分野や事業をしっかりと確立することは勿論、新しく取り入れたり、変えたりする分野を明確に切り分けることが大切なようです。長寿企業の多くが、進取の気性に富んでいることも一つのポイントなのです。イノベーション(革新)を打ち出す企業体質を兼ね備えるには、あまりにも保守的になり過ぎるのは禁物です。経営が硬直化すると衰退の道を歩み始めることになります。

■愛され続ける商品やサービス

 長寿企業が100年以上も事業を継続して来られた一つの要因には、愛され続けている商品やサービスを持っていることが挙げられます。

 老若男女、どなたにも一度は耳にしたことがある商品を持ち、確かな品質と愛される商品を作る地道な努力を続けているからこそ、競合他社にも打ち勝って来たのかもしれません。また、オンリーワンの柱があれば、強いこと間違いありません。

 例えば、宝塚歌劇団です。歌劇の幕開きは1914年です。創設者は阪急電鉄の発展にも寄与した小林一三翁。未婚の女性だけで構成されるオンリーワンの劇団は、小林翁の遺訓でもある「清く 正しく 美しく」をモットーに品格を保ち、その精神は時代が移り変わっても、タカラジェンヌに変わることなく受け継がれ、多くのファンに心から愛され続けています。

ベストセラー商品

■商売の心得は利他的に

 近江商人の「三方よし」や、富山の薬売りの「先用後利」は、昔ながらの販売心得で有名です。「三方よし」は「売り手よし」「買い手良し」「世間よし」の三つの良しで、「商売において売り手と買い手が満足するのは当然のことで、さらに社会に貢献できてこそ良い商売だという、近江(現在の滋賀)商人の心得です。

 また、「先用後利」は常備薬の入った薬箱を無料で各家庭に配置し、薬商が3ヵ月から6ヵ月に一度、配置先の家庭を巡回して薬の使用状況を確認、補充して、顧客は使用した代金だけを支払うというシステムです。

 これら心得のような利他的な発想、信用の積み重ねとなる動きが商売の持続につながります。

■事業承継する際の見極め

 事業を継承することは会社を創業するより難しいとよく言われます。「事業承継」とは自身が経営してきた会社を他人に譲り渡すことです。会社にとっては社長が交代する大きな節目となります。そのためにも会社や事業の状況を正しく把握することが大切になります。

 中小企業によくあるのが、会社の営業、経理、人事の主要な部分を社長が一人で担っていると、社長が急に引退してしまうと何もできない会社になってしまいます。ですから、後継者選びとその教育を事前に行うことが重要です。

 そこで、誰に継承するのかも大きなポイントになります。長寿企業は同族経営の割合が高いので、親族に次の代を譲る場合が多いです。しかし、その後継者に対する従業員の評価が分かれる場合や、親族間の争いにつながるケースもよく見受けられます。近頃では、(株)大塚家具が親子対立による事業承継の失敗で騒動となり、経営が大きく傾き、最終的には買収される形になりました。

 もちろん、親族に譲り渡すことでうまくいく例もあります。意外とうまくいくのが「婿養子」に譲る形です。これまでとは違った視点で会社や事業を見ることができ、新しいことにチャレンジする意欲や変化を厭わない点が挙げられます。

 また、次代の親族が経験不足など、一気に引き継げないような場合は、無理をせずに「番頭さん」的な会社を知り尽くした経験豊富な協力者に、一時的に登板してもらうこともあります。豊かな経験と内情を熟知しているため、順調に事業承継できることもあるようです。

■経営者ではなく、 企業の所有者になる重み

 同族企業に長寿企業が生まれる要因の一つに、単なる経営者ではなく、企業の所有者になる点も挙げられます。サラリーマンとして雇われ社長となるのではなく、資産を含めて譲り受ける形になりますから、人生を注ぎ込める態勢が築かれるからです。
 一家の繁栄が掛かっていますから、柱となる事業を守り、目先の利益を追求し過ぎて、博打的な取引には手を出さないといった堅実さで安定路線を歩めるのかもしれません。
 また、利益率が高い事業で、配当性は低く、内部留保する特徴があり、資金繰りに強い傾向もあります。

■地域への貢献、地元愛

 長寿企業は、地元に根付き、地元に愛され、地元の名手・顔となっている企業が多いようです。

それは長年、地元の原材料を利用した商品をブランド化したり、地域の保全に努めたりするなどして、ウィンウィンの関係を築いているからです。お互いの信頼度が高まり、地元住民との結びつきが強くなることは大きな強みです。長寿企業に旅館業、酒造業、食品加工業など地域密着の企業が多いのも頷けます。


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