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◇特集【子どもの不思議な力】表情を育む

ヒトは赤ちゃんや子どもの時期にたくさんの愛情に触れ、心豊かな感性を育みたいものです。これまで多くの乳幼児を診察し、自らも子育てをしてきた、「こどもの森クリニック」の早崎理香先生にお話を伺いました。

新生児は無意識にほほ笑む

―― 病院の中で笑顔が一番あふれる場所は小児科病棟だと聞きました。

早崎 そうですね、でも、病院と診療所ではまた違います。病院はシビアな疾患の方も多く、死と隣り合わせの子もいますが、クリニックだと、多くの子どもが笑っていますよ。他科で勤務経験のある看護師さんや受付事務さんが就職されると、小児科クリニックは明るくて楽しいと言いますね。

 発熱していても、元気に走り回る子がたくさんいます。40度でも平気な子がいるんですよ。逆に元気のない子は心配なんです。診察室に入って来た時の表情で、直ぐに、あ、おかしいって分かりますね。

 表情ということでは、新生児は相手を選ばずに無意識でほほ笑むことがあって、自発的微笑とか生理的微笑と言われ、何かへらっと笑うようなことがあります。お母さんの顔を見て笑うというよりは、何を見ているか分からない状態でも無意識にほほ笑んでいるのです。大人が何かしてあげたくなる表情を自然と具えているような感じです。

―― いつ頃から表情を理解しますか。
早崎 目でしっかりと見る、表情の認知は生後3ヵ月ぐらいで、笑った顔だとか怒った顔だと、表情の違いを弁別するのは5ヵ月ぐらいです。

 生後1ヵ月までを新生児と言い、その頃の焦点距離が授乳の時のお母さんと赤ちゃんの顔の距離ぐらい。この時期は表情の弁別まではいかないで、もやもやっという状態です。黒、白、グレーぐらいは分かっている状態で、お母さんの目の動きは分かると言われています。赤ちゃんの顔を見ながら授乳するということは大切なのです。

 成長発達するにつれて安心感や愛着が芽生えると、子どもの表情はもっと豊かになって行きます。

―― 泣き声に耐えられない、イライラするというお母さんに対しては。
早崎 よく一呼吸置いてとか、何秒待ってということも言いますが、現実、子育てに悩むお母さんは、ちょっとやそっとでは気持の持って行き場がないのですね。ひとりで抱え込まないで、頼れるものは何でも頼ることです。

 身近な家族を頼るのが良いでしょうが、頼る相手が無く心身が酷い時には保健所のサポートも受けられます。実際に保健師さんが家まで来てくれて子育て支援をしてくれます。また、行政と提携して安価に利用できる、産後のお手伝いをする団体もあります。

 赤ちゃんは泣くものですから、「なんで泣き止まないの?」と自分と赤ちゃんを追い込まないで、「そんなに泣けるほど今日も元気なのね。」と解釈して、多少泣かれても動じない方向へ考え方の切り替えをお勧めしています。

 気軽に話せる小児科のかかりつけ医があれば、お母さんの悩みも遠慮なくご相談ください。一緒に解決策を探して行きます。もしいつもと違う泣き方だなと感じた時は、どこか具合が悪いのかもしれないので、よく様子を見て小児科へ。お母さんが感じる「何か違う」はとても重要です。

赤ちゃんは表情ではない何かも感じ取っている


―― 子どもは親をよく見てますよね。
早崎 表情の読み取り方について心理学の先生などが、目と鼻と口の3 点を併せて認識していると。これらの動きで顔だと分かるようになり、親の喜怒哀楽、どういう表情をしているのかと学習して行きます。親の表情が豊かであるのは大切で、また、それが保育士の場合もあるので、関わる人たち皆の表情が大切です。

 ただ、ここから先はあまり科学的ではないのですが、それだけではないものを赤ちゃんは見ている気がします。目、鼻、口が重要と言っている先生の中には、マスクをすると鼻と口が隠れて、子どもが表情を読み取る力が育たないという意見もあります。表情を学んで行くことで、相手の気持を理解する土台になるので、それができないから、コロナ禍で過ごした子どもたちが心配だという考えです。

 確かにそれもありますが、クリニックでは私がマスクをして、赤ちゃんからは目から上しか見えていないけれど、にっこり笑ってくれます。こちらが笑顔でいることが見えているかのように、また大切に思う気持が伝わっているかのように、笑顔で和やかにいろいろなやり取りができるのですね。ですから、赤ちゃんは表情ではない違う何かも感じ取っている気がするのです。それは表情とは言わないのでしょうけれど、表情とは別の、思いのようなものが伝わるのでしょうか。

 子どもは表情以外のものを分かっていますよ。不思議なことに、お母さんのお腹に赤ちゃんがいることを、お母さんが知る前に気付く子どもがいます。もの凄くぐずって仕方がありませんとクリニックに連れて来られて、東洋医学的に妊娠の脈というのがあるのですが、それで「お母さん、ちょっと診させてね。もしかして、次のお子さんができたかなぁ」と聞くと、「ひょっとしたら、そうかも」と言って、やはり、妊娠していた。子どもは純粋だし、何か違うところを見て感じているのです。

―― 喋らない乳幼児は診察しづらいのではないですか。
早崎 乳児の場合、お母さんと話している時に、赤ちゃんの気持をお母さんが理解していない時があって、私がこうしたら良いなと分かる時は、少しずつ話すのですね。そうすると、ちょうどこれを言ってほしかったというところで、赤ちゃんが声に出して賛同してくれるのです。あーとか、うーとか、キャッキャッと言って表情に出す。これ100%分かっているよね、っていうことが多くあるんです。

 長年の小児科経験から思うのは、子どもは言葉で喋らなくても、実はそんなに分かりづらくはないです。診察室に入って来た様子、表情、そして診察所見から、多くの情報が得られます。子どもは正直というか体が正直というか、具合が悪ければぐったりするし、まだまだ余裕があれば遊んでいられる。子どもたちの「何かおかしい」にいち早く気付けるように、笑顔の裏でアンテナを張り巡らせています。

 幼児で表情に乏しい子がいますが、理由はいろいろで、もともと性格的に内気なケースも多いですし、病的な表情の乏しさや偏りであれば発達障害を疑う場合もあります。親の表情も乏しいとなると、養育過程の影響も考えられます。

 養育過程で虐待やネグレクトがあると、子どもの表情は乏しくなりがちです。愛情、安心、充足感を得られないまま大人になり、自分の経験を子どもに繰り返してしまうこともあります。

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親の情緒を安定させ、子どもの良いところを
伸ばして行く

―― 自分の感情を安心して表現できる子どもになってもらいたいです。
早崎 伸び伸びとした子どもらしい子どもはかわいいですよね。これは関わり方で大分変わると思います。子どもがやりたいことを親が抑制したり、過干渉になり過ぎたりすると、これをやっちゃいけないのかなとか、これをやったら怒られると思い、親の顔色を伺う子どもになってしまう。

 過保護はまだ良いのですが、過干渉は良くないですね。過保護とは、子どもがこうしてほしいなと思っていることを親がやり過ぎるぐらいやってしまうことで、過干渉は、子ども本人はそんなに希望していなくて、親がこうしたいと思っていることを押し付けてやり過ぎてしまうこと。これは過干渉のほうが良くない。最近の子育ての環境とか、方針で行くと、過保護のほうはまだ受け入れられます。

 ただし、「直ぐにやってあげるのではなくて、子どもを待たせて良いのよ」とお母さんに伝えています。我慢したり、待ったりするのは大切で、その後に抱っこしてあげて、できたねと褒める。「子どもながらに感謝の気持を持てるように育ててください」とお母さんに伝えています。

―― コミュニケーション力や、豊かな感性を育むためにできることは。
早崎 なるべく、顔が見える状態でたくさんの会話をするのが良いです。
 あとは子どもの自発的な行動とか、発言を促すのが良い。親がどうしても先回りしてやってしまう、そういうご家庭も多いのですが、そういうケースは、なかなか能力を伸ばしにくいです。

 また、ipadなどでYou Tubeを見せるだけで子守りをするのは良くないです。デジタルとアナログでは全然違い、触れ合いがなく、ipadの中だけの世界になります。また、脳の機能、運動能力、視力、学力、コミュニケーション能力が低下するなどの影響もあります。やむを得ず、短時間だけ使う程度ならまだ良いので、使い方に気をつけることです。今のお母さん方も、使い過ぎは良くないという感覚は持っていますよ。

 豊かな表情を育むためには、まず親が安定した情緒を保つことです。子どもばかりに目が向けられがちですが、親の情緒が不安定とか、過干渉ということは親が変わって行くしかないのですね。

 あとは子どもを認めて受け入れ、なるべくプラス思考の言葉掛けをしてあげる。あれダメ、これダメ、何をやっているのと、追い詰めるように怒らない。何でできないのと責めない。この言葉が本当に多いんですよ。腕白でやんちゃして怒られる、危険なことをして怒られるのは全く問題ないのですが、何か能力的なことで、できないことを責められたりするのが最近多く、日常的に見かけます。それよりも前向きな言葉を掛けて、良いところを伸ばして行く感じでしょうか。伸びて行く芽なので、遮らず、摘み取らないようにしてほしいものです。

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