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突撃せよ たとえ予約がなくたって ~どマジメ企業の企業説明会に凸して内定をもぎとった話~

就職活動をしたのは、もうすでに15年ほども前になる。
大卒文系の就職活動は、まあ、茶番といっていい。
毎年のように、経団連だかなんだかの自主ルールが変更されて採用活動の解禁日が変わる。しかし、その日に最終面接がくるように調整される程度で、選考に進むために参加必須の説明会などは解禁日とやらの数か月前から始まっている。
私がその茶番に身を投じた直後リーマン・ショックとやらの影響で、始めたはずの採用活動をやっぱりやめますという企業が続出した。2008年冬、私は大学3回生だった。
1~2年先輩たちは、売り手市場が続いていた。1,2回生のうちに履修する語学の必修単位が卒業間近でまだ足りていないというポンコツの先輩であっても口のうまさだけで四大商社に内定が出るような売り手市場である。ダサ大学として有名な中で掃き溜めに鶴だった美人先輩はH堂に、その他の特に必死に就活をしていませんよという人たちも一部上場企業を含めた「名前を知っている企業」に内定を得ていた(ポンコツ商社先輩は語学の単位を取りこぼして卒業できず内定は取り消され、商社の採用担当者からゼミの先生がお叱りを受けるという末路を辿った)。
そんな先輩たちを見て自分もそんなスタンスで就職活動を舐め腐っていた私はピンチに陥った。手あたり次第出したWebエントリーから面接やグループディスカッション(笑/質の悪いリアリティショー的な茶番である)なぞに進むものの、企業研究なんてさっぱりやっていないものだから、中盤以降の面接であっさり沈む。一部の業界は採用活動自体をとりやめる。周りの就活生たちもどんより暗い。百貨店業界なんか、採用活動をしている側の社員たちまで葬式みたいな顔で説明会を開催していた。
12月頃から続々とエントリーしつづけたもう名前も覚えちゃいない数々の企業からこれまた数えきれないお祈りメールをもらい、経団連様のお決めになった「解禁日」4月を目前に私は志望業界(というほど考えてもいない)を変更して、手駒の増量を図った。
いきなり、地元の金融機関系に舵を切ったのである。地銀、信金、信組、農協系・・・・・・相変わらずマイナビだとかリクナビ頼みでのWebエントリーばかりだ。「この企業を見ている人はこちらも見ています」「この説明会と同日に開催される説明会」などで、芋づる式に出てきた中に、その時初めて名前を知った、現在の勤め先が出てきたのである。
A社の説明会に大阪まで行って、終わったら昼ごはんを食べてB社説明会のために梅田に移動。時間も場所も都合がいい。B社よく知らんけど。もう明日だけど。行こう。
だが説明会の申し込みボタンを押そうと思ったら押せない。「予約受付は終了しました」となっている。そりゃ、まあそうだろ。すでに時刻は21時。明日の説明会の準備なんか終わっているだろう。
ここで引き下がる人ばかりだというのに驚くのだ。
翌日、私は説明会の受付列に並び、予約票を出して会場に案内される学生たちの中で堂々と履歴書のみを叩きつけた。
「御社を知った際には受付終了になっていたので予約票は持っていません。当日キャンセルされる方がいらっしゃれば入れてください! 立ち見でも構いません! 履歴書を御覧になってから決めてくださっても構いません!!」
いわゆるリクルートスーツではなくて、淡いグレーのファッションスーツで。周りの学生のドン引き顔が忘れられない。ヤバイ既卒が来ていたと思われただろう。単なる老け顔の現役なんだなこれが。
ここまで強行したのにはちゃんと理由があって、説明会の参加が選考に進むのに必須の条件だったからである。こういった形にしている企業も決して少なくはない。そうすることで冷やかし受験的なものを減らすと同時に、自社の宣伝を兼ねているのではないかと思う。

採用されて後に知ったけれども、このとき受付業務をしていたのは新卒2年め程度の先輩たちだったようで、かなり面倒な学生の相手をさせてしまって申し訳なく思う。スムーズに案内されていく他の学生たちを見送っているうちに採用の担当者に確認がとれ「空いている好きな席に座ってください」と案内された。企業としては、そこまで来てしまった学生に門前払いを食らわせることでネットでごちゃごちゃ言われるよりは、説明会くらいは参加させてやっても異常者として後から落とせばいいのだから無難な対応だろう。
さてどこでも好きに座れと言われた私は、ぐるっと会場を見渡した。広めの会場の前から中央辺りまで学生たちはばらけて座っていて、最前列の真中が空いている。関西の言い方では、遠慮の塊。もう目指すはそこのみである。お前、立ち見でもいいとか言ってたじゃねえかというツッコミを入れてくれる人もおらず、その日にエントリーシートを提出してまんまと選考に乗っかった私は、1か月後には内々定を手にしていた。公務員にも似た安牌のバリカタ系企業で、随分前からOBOG訪問をする人もいると言う中で「御社の名前は16時間前に知りました」レベルの私がねじ込んだのである。
採用人数は10名強。リーマンショックの影響でその年の選考倍率は例年を大きく上回る35倍ほどだったらしい。
企業風土にもよるだろうが、就職活動では目立ってナンボのところもある。また今回の私の場合、入場を断られていたとしても大した痛手はない。お利口さんにしていたってチャンスを失うだけなら、たまにはこういうことをしてみると、思いもかけない縁が繋がるかもしれない。

なおこの話をすると、電話で問い合わせてみるとかいう人がいらっしゃるがそれは悪手である。恐らくとても丁寧な言葉でお断りされる。イベント当日まで時間がある場合はなおさらである。その間に、似たような学生がどんどこ増えたら堪らない。当日に現場直行、履歴書その他で身元ははっきりさせ、要求はあっさりきっぱり、断られても動じない。ついでの用事に合わせていれば、全くの無駄足にもならない。
このnoteを読んで同じことをする学生が増え過ぎたら企業の対応も変わるかもしれないが、実際にやる人は少ないだろう。気になる企業が見つかったのに勝負しなかった後悔をひきずるよりは絶対におすすめである。

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