温かい洗濯ものにぎくり~流産手術のあれそれ~
真っ黒い穴に両腕を突っ込んで、団子になったほかほかの洗濯物をしっかり掴む。そのまま後ろにさがって、中身を全部引っ張り出す。温かい洗濯物はこんなに幸せなのに、ちょっとだけ心がソワソワするのは、流産手術を受ける直前だったから。
この度、私の身に起きたのは、稽留流産と言ってよくあること――だ、そうな。
お腹の中で赤ちゃんの心拍が止まっているけど、出血も痛みもない状態。悪阻や胸の張りは妊娠中のままなので、健診のエコーで初めて知る人が多い。アンハッピー・サプライズ!
自然に出てくるのを待ってもいいけれど、重めの生理どころじゃない大出血と、生理痛の超強烈なやつというか陣痛の軽めのやつが来る人もいるらしく、そんな爆弾抱えて電車通勤会社勤めなんかやってられん。休みの日の気晴らしもできやしない。
というわけで、手術をして取り出すことを勧められた。はいと言うしかないじゃない。
手術当日まで、体調はいたって普通で心だけ徐々に荒んでいった。なんで私? なんでなんで? 次はいつ妊娠できるの? 次はちゃんと産めるの?
妊娠は病気ではないと言うけれど、流産は妊娠ですらないからか、妊婦向けの会社の制度は使えなくなった。健診や悪阻のための休暇も全部没収だ。手術その他の療養のために、悪阻の休暇を黙って全部使ってしまえばよかったと、心の底から思った。
赤ん坊が死んだ私から、これ以上、取り立てやがるのか! ええ、妓夫太郎ですよ。そういう荒み方ですよ。
流産宣告から手術まで日があったので、色々調べていた。
手術の前日か、当日の朝、病院でラミナリアという海藻で作った棒を子宮口に差す。そいつが水分を吸って膨らむので、拡がった子宮口からチューブを入れて、赤ちゃんやら不要になった子宮内膜やらを吸い出す。それが流産に対する子宮内容除去術というやつ。医者の手技は15分くらいで終わり。私が風呂に入ってる時間より短い。簡単な手術。ただし心の問題は別。
調べた直後、ドラム式洗濯機に両腕を突っ込むときにソワソワした。温かい洗濯ものにぎくりとした。暗い穴の奥、引きずり出されるとろりとあたたかいもの。乾いた洗濯物に涙が落ちる。意識も痛みも取る麻酔でよかった。私の想像力はたくましく、記憶力もいらん方面にばかり強いから。
などと思っていたのに、まあ手術後3回目の洗濯くらいから、平気になりましたわよ。ゆっくり揺れながら回復中です。
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