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「あの」シャンプー

旅行に来たと感じさせてくれるシャンプーが、減っている。
温泉系の大浴場なら、地域を問わずに置いてあるあのシャンプーの香りである。

夜、布団に入って、自分の頭から普段使っているのとは違うあの香りがすると旅行に来ているんだなあとしみじみ感じる。あるいは、いつも「シャンプーの香り」風の香りを纏っている女友達のうなじから私や、見知らぬおっさんと同じ大浴場の香りがするときに。

「あの」シャンプーはちょっとダサい。見た目も、名前も。商品の悪口を言いたいわけではないから商品名は伏せておこう。品質の良さとは裏腹にあの外見と大浴場のお約束的定番品ということで、日常使い用に自分で買い求める人は決して多くはいないだろう。

旅館の売店で、こちらも20年以上前からあちこちで見かけるかかとやすりや体臭を抑えるボディソープと一緒に並んではいるけれども、買っている人は見かけたことがない。インフルエンサーや地下アイドルとやらがへちま化粧水をお勧めすることはあってもあのシャンプーをお勧めすることはないだろう。

生活消費財メーカーの営業の成果か、おしゃれさを求める時代の流れか、「あの」シャンプーが置かれている大浴場は徐々に減っている。私は温泉マニアでも旅行マニアでもないからサンプル数は少ないが……。

代わりに置かれているのは、ビジネスホテルでよく見かけたあのブランドである。これもまた悪い商品ではないのだが、私の場合はどうしても出張で使うビジネスホテルのイメージが強く、あまり旅行気分にはなれない。

海外も含めて旅行者が溢れるようになった。数年ぶりに旅行に出かけた先で、私は存分に「旅行気分」に浸れるのだろうか。そのカギはあのダサいシャンプーが握っている。

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