ヒーローを目指す道Ⅱ/試練

最も優秀な兵士と称されるオレクサドル・イェヒネラフ。
その人柄と実力で国内に知らない人はいない、平和を守る「正義のヒーロー」だ。
そんな凄い人が、僕に「夢を叶えられる」って言ってくれた。
「君は、我々の大義を知っているか?」
「いいえ、なんですか」
今まで聞いたことが無かった。軍隊に座右の銘のような物があるなんて。
それを教えてくれた。
「みんなのために、一人が頑張る、ですか?」
「あぁ。そうさ。一人の力が積み重なれば、協力し合って困難を乗り越えていける。そこで、君に提案なんだが」
こんな夢みたいなことがあっただろうか。
「我々の元に来ないか?」
「はい?」
彼曰く、部隊のモットーは昔から語り継がれてきた物であり、それを彼は引き継いでいる。そして、次は僕がそこに飛び込む番だ、と言う。
でも・・・どうして。
「それは簡単さ。言っただろう。君は勇敢だって」
それでも、英雄に近づける機会を無駄にはしたくないし、この人がここまで僕に言ってくれているのだから。
「私の部隊に、入るか?」
ある訳ないんだ。
「お願いします!」
断る口実は。

でも、背中を並べて戦うなんて簡単な事では決してなかった。わかってはいたけど。
「頑張れ!!」「俺らも負けていられないな」
他の兵士たちも使うジムで必死に筋トレや走り込みを教えてもらいながらやる。
「ううぅぅぅ!!!」
オレクサドルさんは身体の筋を痛めない程度にプランを調整してはくれたものの、トレーニングなんて今まで全然やってこなかったからきつい。でも、周りの応援があるし、ヒーローになるための第一歩なんだ。ここで頑張らなきゃ何もできやしない。
学校が終わって、トレーニングと体力づくり、兵士になるための勉強をする。全力で、倒れそうになるけど、きついけど、憧れのためなんだ。まだまだ最初の一歩に過ぎないんだ。
そうして、必死に1年のトレーニングを終わらせて・・・
期間は終わったけど、今日もジムに来たら「あ、オレクサドルさん」「君は、本当に、本当によくやった。期待以上に!素晴らしい成果だよ。誇っていい」
認めて褒めてくれた。そして、手招きされて鏡の前に。
「見ろ。今の君だ。よくここまで鍛えた。凄い事だぞ。聞くんだ。誰かから貰ったものと、努力して掴んだものでは本質が全く違う。これは、君自身が勝ち取った結果だ」
僕は、この人の元で力を貰った。でも、なんだかズルみたいだ。みんな自分一人で頑張っているのに、遅れて来た僕が。
「いや、そんなことは無いさ。言っただろう、誇れと」
オレクサドルさんが言うなら、いいのかな。

この日はへとへとになりながら帰って、風呂にも入らずそのまま寝てしまった。
翌日、この日は休日だからゆっくりしようと・・・
「お兄ちゃん!!!起きて!!軍から手紙が来てるよ!!!」
ドアを蹴破る勢いで突撃してきた妹のミーコが軍から手紙が来た、と。
事件の後、たまたま声をかけてくれた軍人がきっかけで身体を鍛えているのは家族には言っているが、オレクサドルさんの名前は出していない。
このことだけは、言ってはいけない気がする。
でも、どうして急に手紙を送ってきたりしたんだろう。
部屋に戻って、しっかりドアを閉めて封筒を切る。
中の便箋には、こう書いてあった。

ノカルコフ、君には是非とも私たちの部隊に入って欲しい。
君が憧れてくれて、誇りに思っている。これほど意志が強く、行動力ある少年を初めて見た。
休み休み鍛えていたらしいが、訓練ではもっと厳しい事もするからどうなるかはわからない。
しかし君はあの時、嫌味を言う奴を救おうと駆け出して行ったな。正しい行動を取った者の心を、夢を否定できる理由は無い。綺麗ごと?上等さ。来週、面接を行おう。
日付と日時はもう一枚の便箋に書いておく。
さて、高校進学の道を断ってもらった事については申し訳ない。本当に。
しかし、まだ君は仲間と切磋琢磨できる。
あの基地には個性的な仲間が多いからな。
長話が過ぎた。このあたりにしておこう。
では、後に。

オレクサドル・イェヒネラフ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?