入院4日目。破裂。

とうとう胸水のタンクその1がいっぱいになって
その2につけかえられた。
タンクのマックスは2200cc
人間の体でどんどん作られ、
そして排出される栄養を含んだ水分。

病院によっては
完全排水ではなく循環させるところもあるらしい。
ここでは、ポンプをつけて圧をかけ、
出たものは処理する。

今日のスケジュールはちょいハードだったのかもしれない。

21時に飲んだ眠剤は
1時に切れたようで、
そこから眠れず、
廊下のベンチで本を読んで5時まで過ごした。

大部屋のメリットは
値段が安いことと、人の行き来があること
デメリットは
1人になれない、音や匂いの混線。

わたしはそんなに神経質な方じゃないけど
今回の大部屋はふしぎなくらい全く眠れなくて
その理由は人の気配。

痛みも相まって敏感に起きる。
そしてその弊害は感情の揺れとしてあらわれる。

少し前から涙が出るようになったが
今日ははっきり怒りを感じて悔しくて泣く場面があった。

レントゲンで縮こまっている肺が
ちゃんと膨らんでいるか毎日とるのだが、
そのときのレントゲン技師との相性が悪かった。

彼女は良かれと思って、
わたしの胸水ポンプのガラガラをひょいと持ち上げてひいた。

わたしはそれを支えにしてあるいているので
自分のペースを乱され重心も不安定になり
めちゃくちゃ怖かった
怖くて声も出ないまま
彼女は「こちらです」と流れるようにスタスタと
奥へ歩いて行き、
「こっちに向かって肩をつけて」
の肩といったときに、わたしの背後から両肩を
撮影版に押し付けた。
「痛いです」
「え、そうですか」
彼女が反射的にこたえたのがわかった。

「次は横向いて、左腕あげて」
「痛いのでさわないでください」
「もう少しあげられますか?」
「無理です」
「じゃぁいいです。はいとりますよー。息吸ってとめてーはいおわります」
スタスタ、ガラガラ、ひょい

わたしの怒りポイントはもうマックス。
「引っ張らないでください」
「引っ張ってません、段があるのであげただけですよ?」

お分かりだろうか、彼女の会話パターン。
まんまと挑発されてどかーん!

「あなた、名前なんですか?」
「〇〇ですけど?」
「〇〇さんですね、わかりました。迎えの看護師さん呼んでください」

ひとりでリハビリがてら帰れるはずなのに
いかりと涙とため息で歩ける気がしない。
「看護師さん呼ぶのでここにいてくださいね」
でも、病棟の看護師さんの忙しさや、
自分で帰れるなら帰りたい気持ちが増して、
窓口で看護師さんを呼ぶのをやめてもらおうと
おもったら、
その彼女が「どこにいくんですか?行き違いになるでしょう?」
まるで、わたしがわからずやの気狂いババアみたいだ。

その後ろに、見慣れた病棟看護師さんが
車椅子をもってきてくれて
「どうしたんですか?」
「〇〇さんが、…」そこでくずれおちるように
泣けてしまった。

わたしだって早く歩きたい。
スタスタ歩きたい。
ガラガラだって人の手を借りずにひょいと動かしたい。
肩の可動域だって毎日レントゲンとってるんだからできる
本当はうではもっとあがる

寝不足と息切れと涙と感情で
ふるえて嗚咽がもれた。

彼女には持ち上げたと引き寄せたの違いがわからない
彼女は背後から声をかけられる恐怖がわからない
彼女は自分が押したのか支えたのかわからない
彼女はどんな口調でわたしに声をかけたのかわからない

自己覚知、といったりする。
自分がなにをしているのか。
自分はどんな癖があるのか。
自分のメタ認知といってもいいかも。

彼女はわからないから「持ち上げただけ」「押してない」「引っ張ってない」だ。
リハビリなど手技を扱う人間は自分の手が相手を誘導しているのか支えているのが何グラムの圧をかけているのか、かなり気を配る。
彼女はただ知らないだけなんだ。

知らない人とは話ができない。
なんてことだ。
彼女はヒヤリハットをかいても反省文をかいても
わからないだろう
だって彼女は「やってない」認知だから。
どうしたら分かり合えるんだろう

かなしくてかなしくて泣いた。
無力でせつなくて、バリバリ働いてる彼女が眩しくて泣いた。

3週間の休みをもぎとるのに
パンパンの胸水をつめたままだったから
まだまだ縮こまって膨らまない。
だから治療にすすめない。
そのために何度もレントゲンをとらないといけない。
そのレントゲンを彼女にとってもらわないといけない。
なんてことだ。

大部屋にかえりたくなくて
デイルームでつっぷして泣いた。
1時間ほどそうしていたら涙は止まった。

なんだかスッキリした。

今日は緩和ケアチームの、看護師さんと話したり
放射線治療がはじまってその話をしたりして
かなり順調にすすんだのにな。

なかなか、こころとからだの足並みはそろってくれない。

しかし、感情が外に現れてきたのはひとつ
いい兆しとも思っている。

やっと、外に出して、流すことで
スペースがつられようとしているのもかんじるからだ。

進んでいる。
少しずつ。


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