飲み友達は乃木坂46!?(堀未央奈 篇)
↓前回のお話
それは、突然のLINEからはじまった。
未央奈「〈〇〇さん、もんじゃ好きですか?〉」
もんじゃって、あのもんじゃだよな。
あまりに唐突な問いと、その問いをしていた相手が相手なだけに変な勘ぐりをしてしまった。
〇〇「〈うん、すきだよー〉」
未央奈「〈やった、じゃあ食べに行きませんか! これから!〉」
また急なお誘いだな、と心のなかで思いながらも、未央奈だから仕方ないかと言い聞かせて返事を返す。
〇〇「〈OK、仕事終わったら連絡するー〉」
未央奈「〈はーい! 待ってます〜!((o(´∀`)o))ワクワク〉」
というわけで、遅くなったら何言われるかわからないという恐怖と、元人気アイドルで現在は女優にタレントとしても活躍中の彼女を待たせるわけにはいかないという思いから、いつもよりも倍以上のやる気と行動力で急いで仕事を片付けた。
仕事中にきた未央奈からのLINE。
お店の位置情報が送られてきていた。
場所は東京、月島。
まあ、もんじゃといったら月島、っていうくらいメッカですもんね。
それよりも気になったのはお店の情報と一緒に添えられた一文。
未央奈「<もんじゃストリートの入り口で待ち合わせで!>」
堀未央奈がそんな目立つところで待ち合わせとか大丈夫か?
まあ、さすがに変装とかもしてくるよな。
そう思って待ち合わせ場所まで向かったが、考えが甘かった。
もんじゃストリートの入り口の柱のようなところに寄りかかって〇〇を待つ未央奈。
確かに伊達メガネに帽子をかぶり、なんならマスクもしているから変装はばっちりなのだが、明らかに場違いなオーラをにじませている。
〇〇は忘れていた。
彼女が天下の乃木坂46のセンターまで経験したことのある圧倒的な才能とオーラをもつ芸能人なのだということを。
〇〇は小走りで未央奈のもとに駆け寄る。
〇〇「未央奈、ごめんお待たせ」
未央奈「あー、〇〇さん! ぜんぜん待ってないですよ」
〇〇「いやいや、こんなところで未央奈を待たせちゃって。大丈夫だった? 声とかかけられたりとか」
未央奈「ううん、ぜんぜん! 話しかけるなオーラ全開でだしてましたから!」
たしかに、あのオーラ全開の未央奈に話しかけるのは結構勇気がいる。
〇〇「ははは、それなら安心した。行こっか」
未央奈「はい!」
入ったのは月島のもんじゃストリートのメイン通りから一本脇道に入ったお店。
お洒落というよりは古き良き情緒が残る感じの味のあるお店だった。
未央奈「どうしました?」
〇〇が店内を見渡していると、不思議に思った未央奈が訊ねた。
〇〇「いや、未央奈にしてはずいぶん庶民的なお店をチョイスしたなって思ってw」
未央奈「あー、もしかしてバカにしてます? 私けっこうこういう感じのお店も好きですよ。実家に戻った時に行くお店もこんな感じのところばっかりですし」
普段はブランドのアドバイザーとか、ファッションモデルとして活躍しているから、そういう洗練されたイメージを〇〇でさえ持っていたが、等身大の未央奈は案外普通の子なんだと、改めて感じた瞬間だった。
未央奈「えー、なににしよう…? 〇〇さん食べれないものってなかったですよね?」
〇〇「うん、俺はなんでも食べれるよ」
未央奈「えー、じゃあこの”チーズ明太もんじゃ”にお餅をトッピングしちゃお!」
〇〇「お、いいね!」
未央奈「〇〇さんも一つ選んでください!」
〇〇「んー、じゃあこの”辛ジャンもんじゃ”ってのにしない? イカ・牛肉・辛みそ・キムチの絶妙な組み合わせだって、美味そうじゃね?」
未央奈「わー、いいですね! 美味しそう! 相変わらず食の趣味合うから嬉しいですw」
〇〇「そういってくれると光栄ですw」
未央奈「フフフ あ、店員さん、すいませ-ん!」
注文をするために未央奈が店員さんを呼び止める。
未央奈「これをトッピングでお餅つけてください。あとこれもおねがいします。あ、それと飲み物ですけどとりあえずビールでいいですか?」
注文の手を止めて未央奈が〇〇に向き直る。
〇〇はメニューを一瞥した後、おもむろに注文を口にする。
〇〇「うーん、ああ、いやウーロン茶にしようか――」
そう言いかけた時、あからさまに未央奈の表情が変わる。
未央奈「ダメです! 〇〇さんがお酒飲めるの知ってるんですからね。お姉さん、ビールと私はハイボールでお願いします!」
店員「はい、はーい!」
お姉さんと呼ばれたからなのか、なんなのか、店員のおばさんは機嫌よく注文を取ると店の奥に戻っていった。
未央奈「〇〇さんが、私たちのためにお酒飲まないようにしてたの知ってるんですからね」
〇〇「あれ、バレてたんだ。ちなみにいつから?」
未央奈「ちゃんとわかったのは卒業してからですけど、在籍中も怪しんではいました。今野さんとかほかのスタッフさんに聞いても”〇〇はお酒はな~”ってはぐらかされてましたし」
〇〇「はは、まあなんかあった時に対応できないとヤバいじゃん」
未央奈「もう、そうやってすぐ自分を犠牲にするんですから」
ちょうどそのとき、店員さんが飲み物をもって戻ってきた。
店員「はーい、お先にビールとハイボール、それにお通しのキュウリの一本付けでーす。ごゆっくり~」
未央奈「よし! ということで今日は飲みましょう! 私、明日はお昼からなので今日はとことん付き合ってもらいますからね!!」
〇〇「うへぇ~、まあ、お手柔らかにw じゃあ」
〇〇&未央奈「「カンパーイ!!」」
仕事で疲れた身体にアルコールが染み渡る。
〇〇「ぷはぁ! うまっ!」
思わず一気飲みでもするかの勢いでビールを飲んでジョッキをテーブルに置いてから未央奈を見ると、なにやらにやにやとこちらを見ていた。
〇〇「なんだよ、ニヤニヤして」
未央奈「ううん、〇〇さんってこんな感じでお酒のむんだなーって思って観察してたw」
〇〇「あれ、未央奈とお酒飲むのはじめてだっけ?」
未央奈「初めてですよ! 乃木坂在籍中は何言っても全然飲んでくれなかったし、卒業してからもなんだかんだでご飯行くのも現役メンバーとかもいたから、そうすると〇〇さんお酒飲まないじゃないですか」
〇〇「ああ、まあ、やっぱり現役メンバーにはできる限りお酒とかのリスクは減らしてあげたいからさ。俺もできる限り飲まないようにしてたんだよね」
未央奈「未成年はともかく、成人メンバーは良かったんじゃないんですか? 白石さんとか西野さんとかにとも飲んでなかったんですよね?」
〇〇「そうね。未成年メンバーはできるだけそういう興味をもつような機会を減らしてあげないとって思っていたし、成人メンバーだってお酒がきっかけでなにかトラブルになっちゃうことが、一般人よりもはるかにリスクが高いからね」
未央奈「まあ、確かに」
〇〇「このお店で飲んでました、ってだけでニュースになったりSNSで拡散されたりするんだぜ。ほんと大変な仕事だよな芸能人って。だから最大限俺なりにできるフォローしてたつもりさ」
未央奈「在籍中は二人でご飯とか、まず行ってくれなかったですもんね」
〇〇「そんなことないよ。未央奈は結構行ってたほうだって」
未央奈「まあ、センターやらせてもらった時とか、アンダー期間で自問自答してた時とか、卒業考えてたときとか、いつも〇〇に相談してましたもんね」
〇〇「そうそう、てか、真剣に聞いてアドバイスしないといけないあんなシーンでお酒なんか飲めないよw」
未央奈「アハハハッ、それもそうか!」
未央奈はあのころから変わらない屈託のない笑顔で笑いながら、もんじゃを作り出す。
”やってみたかったんですよね”といいながら若干たどたどしい手つきながらも、しっかりともんじゃが出来上がっていく。
未央奈「できあがりー! はい、〇〇さんお皿ください!」
〇〇「お、ありがとう!」
未央奈からもんじゃを受け取る。
難しい料理じゃないといっても、しっかりもんじゃになっている。
おいしそうな香りが鼻孔をくすぐり、食欲を刺激する。
未央奈「うーん! おいしい!」
どうやら未央奈も味に満足のようだ。
美味しそうに笑顔でもんじゃを頬張っていた。
あっという間に注文していたもんじゃを二つ平らげる。
未央奈「うーん、まだ全然食べれますね。追加しましょうか!」
そう、未央奈は乃木坂でもトップクラスの大食いメンバーなのだ。
この細い身体のどこにそれだけ入るのだろうと思うが、あの松村沙友理と並ぶくらいの大食いであるのはあまりイメージがないかもしれない。
未央奈「いっかいこのベーシックな”下町もんじゃ”と、あと、このオイルニンニクの潮焼きそばってのも頼みません? 絶対美味しいやつ!」
こうなったらとことん付き合おう。
〇〇は心に決めた。
〇〇「いいね、美味そう!」
未央奈「さすが〇〇さん! あ、お姉さーん、お願いします!」
注文が決まり、未央奈が先ほどの店員のおばさん、もといお姉さんを呼ぶ。
未央奈「この下町もんじゃと、あとオイルニンニクの潮焼きそばも一つお願いします」
店員「はーい、オイルニンニクの潮焼きそばはけっこうニンニク強めですけど大丈夫?」
注文をとりにきた初老の気風のよさげなおばさんが確認する。
未央奈「はい、大丈夫です!」
店員「はーい。かしこまりました」
未央奈「あ、あとお酒も注文していいですか? 〇〇さん何にします?」
〇〇「うーん、迷うな」
未央奈「〇〇さんがよかったら日本酒飲みません?」
〇〇「え、未央奈日本酒飲めるの!?」
未央奈「はい! 最近、純奈に教えてもらっていろいろ飲めるようになってきたんですw」
二期生がほこる酒豪”伊藤純奈”の顔がちらりと浮かぶ。
まったく、未央奈に変なことを教えてないか心配になる。
〇〇「まあ、今日はとことん付き合うって約束だからな。日本酒で行こうか!」
未央奈「やったー! じゃあじゃあ、この”真澄”の白を冷で2合お願いします。お猪口は2つで!」
もうすっかり日本酒の注文も慣れた感じ。
すぐに徳利に入った日本酒が運ばれてきて、未央奈が嬉しそうに徳利を手にする。
未央奈「さぁさぁ、〇〇さん、お猪口もって!」
〇〇「なんでお酌する側がそんなに嬉しそうなのよw」
未央奈「だって、けっこう憧れだったんですよ? 〇〇さんとこうやって一緒にお酒飲むの!」
〇〇「はは、俺も嬉しいよ」
未央奈「はい、どうぞ! キャー、こぼれちゃう! 〇〇さん早く飲んで飲んで!」
〇〇「おまっ、バカッ!」
勢いよく次ぐものだから危なくお猪口からこぼれそうになり〇〇は慌ててお猪口を口に運んだ。
日本酒特有の芳醇な香りが鼻をとおり、強いアルコールの感覚がのどを刺激する。
未央奈「どうですか、〇〇さん?」
〇〇「うん、美味しいよ。未央奈もどうぞ」
そういって未央奈にもお猪口を手渡すと嬉しそうにそれを受け取る。
未央奈「フフフ、ありがとうございます」
注がれた日本酒を綺麗なしぐさで口に運ぶ。
同じものを飲んでいるのにこの差は何だろう。
まるで日本酒の広告のワンシーンのようだったと見惚れそうになる。
未央奈「うーん、強いけどおいしい! これは飲んじゃいますねw」
ちょうどそのとき、注文していたオイルニンニクの潮焼きそばをもってあの店員のおばさんがやってきた。
店員「はーい、オイルニンニクの潮焼きそばね。でもお姉さんこれ、お兄さんだけに食べさせちゃダメよ」
意味の分からない忠告に、言われた未央奈も〇〇も首をかしげる。
未央奈「え? どうしてですか?」
店員「ニンニクの匂いが強いから、カップルならこのあとのためにも二人一緒に食べないとね!」
おいおい、なにを言い出すんだこのおばさんw
未央奈「アハハッ、大丈夫です! 二人で美味しくいただきますので! ね、〇〇さんw」
さすが、バナナマンをはじめ芸能界のバラエティでも鍛えられただけある。
これくらいのノリには笑顔で対応できるとは、未央奈も大人になったものだ。
なんて、感慨深げに思っていると未央奈の顔と耳がほのかに赤くなっている気がした。
焼きそばは店員のおばさんのいったとおりニンニクが強かったがすごくおいしくて、濃い味付けがよりお酒を進めるには十分だった。
日本酒にハマった未央奈と〇〇は日本酒をどんどん追加で注文する。
気が付けばテーブルの上には徳利が何本か並んでいた。
未央奈「ウフフ、でもこうやって〇〇さんとお酒を飲んでるって、やっぱりなんだか変な感じ」
〇〇「はは、それは俺もかな。あの未央奈とこうしてお酒を飲む日が来るなんて思ってなかったからなー」
先ほどまでの楽しい雰囲気から、思い出をさかのぼるようにしながらしっぽりとした空気でお猪口を傾ける。
未央奈「こうやって一緒にお酒を飲むと、なんか私もようやく〇〇さんと同じところに立てたんだなって、感慨深くなるな…」
〇〇「大げさだよ。それに未央奈のほうが当時からずっとすごかったじゃん。マネージャーとしてずっと思ってたよ?」
未央奈「そうじゃなくて、あのとき私は子供だったから…」
未央奈はなにか続きを言おうとして、それを飲み込むように再びお猪口を傾ける。
未央奈が言いたいことってどういうこと何だろう。
〇〇も少しだけ酔いのせいで思考が回らなくなりかけた頭で考えていると、再び未央奈の声が聞こえてきた。
未央奈「…ねえ、〇〇さん、私大人になったよね?」
〇〇「…うん、もちろん」
〇〇「それじゃあさ、私も〇〇さんの隣に並んでもいいのかな…?」
未央奈はその透き通るような瞳で、まっすぐに〇〇を見つめたまま言葉を紡ぎだしていた。
〇〇「…もう、未央奈は立派な大人の女性だよ。俺なんかじゃ逆に不釣り合いなくらいにね」
未央奈「そんなことない。〇〇さんはあの頃からずっと素敵だった。でもあの頃の私は子供だったから、〇〇さんの背中を追いかけることしかできなかった」
未央奈はお猪口を持つ手をテーブルに下げながら言葉をつづける。
未央奈「私が卒業するときに行った言葉、覚えてる?」
〇〇「…ああ、”大切な人にしっかりと伝えられるように頑張る”だろ」
未央奈「フフフ、どうやらまだ伝わっていないみたいだから、そういう意味では私もまだまだってことですね…」
彼女の言う言葉の意味がなんとなく分かる。
彼女の伝えたいことも伝わっていた。
それでも、〇〇は未央奈のために、あえて少し違うニュアンスの言葉を返す。
〇〇「そうだね、未央奈はまだまだこんなところで立ち止まる器じゃない。俺は、未央奈がもっともっと成長した姿を見たいって思ってるよ。だから、今はまだ俺がその妨げになっちゃいけないなとも思ってる」
未央奈「…ありがとう。私、頑張るね。しっかり〇〇さんに認めてもらえるような成長した姿を見せられるように。それで、私の気持ちがしっかり伝えられるように」
〇〇「…うん、楽しみにしてるよ」
未央奈「フフフッ、〇〇に伝わるその時まで、伝え続けるから覚悟してね」
そういうと未央奈は今日一番の微笑みを〇〇に向けて、再びお猪口を少しだけ傾けるのだった。
おわり
※この物語はフィクションです。
※実在する人物などとは一切関係ございません。
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