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1 幼馴染の和さん

時刻は朝の7時をまわったころ。
朝のうららかな日差しがカーテンの隙間から差し込み、ベッドに横たわる喜多川〇〇にもわずかながらに照らしていた。

カラカラカラ
不意に部屋の窓がゆっくりと静かに空いていく。

??「よっこらしょっと…」

窓が開くと制服を着た少女が慣れた様子で入ってきた。
ここは二階でどうやってという疑問など無視するかのように、少女はゆっくりと歩みを進めると、まだ夢の世界にいる〇〇の前で仁王立ちで見下ろした。

ゆっくりと息を吸う。

そして次の瞬間

??「どーーん!」

〇〇「へぐぅっっっ!?」

宙を舞った彼女の身体は、ぼふっという音とともに仰向けに寝ていた〇〇の身体にダイブして、あまりの突然の衝撃に変な声が出た。

〇〇「な、和、心臓に悪いから毎朝ダイブするのやめてってば💦」

眼の前で覆いかぶさるように満足げて可愛らしいほほえみを向けてくる幼馴染の井上和の顔を確認しながら〇〇は苦言を漏らした。

和「かわいい幼馴染が毎朝起こしに来てくれるなんてスペイベじゃん」

〇〇「起こし方が可愛くねー」

和「えー、こうしてかわいい幼馴染に抱きしめられてるのに?」

〇〇「重いんだ―」

バシッ
和「バカっ!」

〇〇「いて、たたくなよ」

和「〇〇がデリカシーないこというからだよ」

そういいながら和はゆっくりと身体を起こす。
それにあわせて〇〇もベッドから起き上がると、二人揃って部屋からでて一階のリビングへと向かう。

〇母「〇〇おはよう、和ちゃん今日もありがとうね」

和「いえいえ、〇〇のためですから」
何故かドヤ顔をする和。

ムカつくので〇〇は無視してテーブルにつく。

和は無視するなと目で言いつつも、〇〇と並んでテーブルに腰を下ろした。

二人がテーブルにつくといつものように朝食が用意されていく。
和の家は両親が共働きで朝早くに家を出るので、ほとんど毎朝こうして〇〇の家でご飯を食べるのが日課となっていた。

もう何年も前からの光景。

和「〇〇〜、あれ取って〜」

〇〇「んー、和ー」

和「はーい」

お互いが考えていることなど、明言しなくてもわかるくらいには深い関係性であると、お互い自負している。

でも

〇母「ほんと、二人とも本当の兄妹みたいね」

和&〇〇「(兄妹…)」

そう、お互いの本当の気持ちは、それぞれ隠し続けていることだけは、まだお互い知らない。


和&〇〇「ごちそうさまー」

二人は朝食を食べ終えるとふたたび〇〇の部屋へ。

和「〇〇今日大学は?」

〇〇「今日は午後からだから一眠りしよーかな」

和「えー、豚になっちゃうよ?」

〇〇「大学生の特権だろ? 二度寝バンザイ」

和「もう、せめて送っていってからにしてよね」

〇〇「えー、今日もかよ」

和「良いでしょ、そのほうが楽だし、私がw」

〇〇「仕方ないなー」

和「(やった!)」

和を学校に送り届けるため、二人はガレージにある〇〇の家の車に向かう。

運転席に座る〇〇と当たり前のように助手席に座る和。
ここは和の特等席。
〇〇が運転するときは決まってここ。
彼の運転する姿を眺めるのが好きだから。

電車でいけば十分の距離。
車よりも時間だけでいえば早いけど、〇〇と一緒にいれるこの時間は和にとってはかけがえのないもの。

それは〇〇にとっても同じであったが、それはお互い知る由もない。

雑談に花を咲かせていると、あっという間に到着した。

和「〇〇ありがとう」

〇〇「おう」

和「迎えに来てくれてもいいよ?」

〇〇「あほ、大学だわ」

和「知ってるw じゃあまたね」

〇〇「ああ、またあとでな」

またあとで
当たり前のように、後で会えるという嬉しさ。
幼馴染といういまの状態の心地よさ。

本当はもう少し先に進みたいけど

走り去っていく〇〇の車を見送りながら、
和は密かに思いを馳せるのだった


つづく

この物語はフィクションです。
実在する人物などとは一切関係ございません。

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