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推し活をサボってたら推しが押しかけてきた

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僕の名前は喜多川〇〇。
どこにでもいる普通の大学4年生。


特筆した特技とかはないし、容姿も頭脳も平々凡々な僕だけど、唯一趣味だけはあった。


それがアイドルの推し活である。

僕が推してるのは乃木坂46の4期生、筒井あやめちゃん。



ずっと加入当初から推してて、お小遣いやバイト代はすべて推し活に捧げているほど、僕はあやめちゃんが大好きだった。


でも、僕も大学4年生。
いわゆる就活戦線に飛び込まなければいけない時期だった。


これからもあやめちゃんを推すためには、しっかりとした生活基盤を確保しなくては!


ということで、涙をのんでしばらくの間就活に集中するために推し活を休止することにした。







そんで、なんだかんだで数ヶ月が経った。


なんとか無事に内定もいただくことができ、これでまたあやめさんの推し活ができる。


ただ、就活のせいでバイトも満足に入れなかったので、先立つものを確保するために、しばらくはバイトに明け暮れていた。


大学はいった頃から続けているカフェのバイト。


そこそこお洒落で、そこそこの忙しさのそこそこの人気店。

おまけに賄いがうまいという、バイト先としてはこの上ない。



店長「いやー、ようやく昼のピークも過ぎたね」


筋骨隆々としたなぜにカフェの店長をしているのかと毎回聞きたくなる恰幅のいい店長がお皿や食器をダスターで拭きながら店内を眺めながらいった。


先程までの満席だった店内も、13時を過ぎたからか人は疎らになり、落ち着きを取り戻しかけていた。


〇〇「いやー、さすがに10連勤は疲れますw」


ドリップマシンにコーヒー豆を補充しながら、冗談めかしてそんな事を言う。

ちょうど同じように就活仲間たちがバイトに入れず、隙間を埋めるようにオープンからクローズまでいろいろはいっていたらいつの間にか10連勤になっていたのだ。


店長「ははは、でも稼げたでしょ?」


〇〇「まぁ、おかげさまでw」


店長「推し活?だっけ、のためにお金貯めてるんでしょ?」


店長は〇〇の趣味を知っている一人。

バイトのお金がどこに消えているのかももちろん話して理解してくれていた。


〇〇「はい! 就活で封印してましたから。辛かった〜(泣)」


店長「泣くなよw でも無事に就活終わってよかったじゃん」


〇〇「これで安心して推し活できます!」


店長「相変わらず推しは変わってないの?w」


〇〇「もちろん! 僕は筒井あやめちゃん一筋です! これだけは譲れません!」



そう〇〇が言った時だった。


ガチャン!



目の前のカウンターで少しばかり大きな音がした。


いたのは目深に帽子をかぶった女性。

こぼしたりしたわけではないようだけど、手にしていた食器が手元が狂って音がなったらしい。


大丈夫かな

そう〇〇が心配して視線をその女性に向けた瞬間、彼女と視線が交差した。


そして、思わず声を上げそうなくらい驚いたが、必死でその声を飲み込んで、ハッと口に手を当てた。



あやめ「久しぶりだね、〇〇くん」



そこにいたのはなんと〇〇が推している乃木坂46の筒井あやめだった。



〇〇「え、あ、僕の名前…なんで?」



あやめ「? なにいってるの? いつもミーグリとかで話してるし、名前も呼んでるでしょ?」



驚きで心臓がバクバク

まさかの推しの登場に加えて、自分の名前を覚えてくれていた嬉しさに感情が錯綜する。


〇〇「え、あ、そ、そうですよね」


自分でも笑えるくらい挙動不審な受け答え。



あやめ「てゆーか、話したいことがあるんだけど」


その瞬間、空気が重くなった。

あやめの声色が冷たくなったからだ。

怒っている

それくらい〇〇にもわかるくらい怒ってますオーラが滲み出ていた。



〇〇「あ、はい、でもいま仕事中で…」


店長「あぁ、いいよいいよ、ちょうど時間もいいし〇〇くん休憩入っちゃってー。お友達と話してきていいからさ!」



先程までの近くで二人の話を聞いていた店長が気を利かせてそんな事を言う。

どうやら店長は彼女の正体に気づいてはいないらしい。


〇〇「あ、ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて…」


普段なら喜ぶのだが、身に覚えのない怒ってますオーラを推しから向けられているこの状況では素直に喜べないが、諦めてあやめのもとに向かった。



休憩に入った〇〇は自分の分のドリンクと、あやめの分のドリンクを手に、店の奥のほうの空いているテーブル席へ移動した。


〇〇「よければどうぞ」


あやめの前に自ら入れたブラックコーヒーを置く。


あやめ「ありがとう、〇〇くんが淹れてくれたの?」


〇〇「は、はい」


そういうと、あやめはコーヒーカップを両手で持って一口飲む。


あやめ「おいしい」



ふわっとした優しい微笑みに、〇〇は少しだけ安堵したのも束の間。

コーヒーカップをテーブルに置いたあやめは再び怒ってますオーラを醸し出しながら〇〇に対峙した。


刹那の沈黙


推しにあからさまに怒ってますオーラを向けられるのはファンとして辛い。


しかも全くと言っていいほど身に覚えがない。


しかし、ここは謝るしかない。


〇〇「あの、なにか僕が怒らせてしまったようで、ごめんなさい」



〇〇は誠心誠意あやめに謝る

テーブルにつきそうなくらい頭をさげていたので、あやめの反応はわからない。


やがて彼女は少ししてから口を開いた。


あやめ「〇〇くんは、私がなんで怒ってるかわかる?」


〇〇が顔を上げると、あやめは怒っているというよりも少し悲しそうな表情を向けていた。

その表情に、先ほどよりも心が痛む。


〇〇「ごめんなさい、わかりません…」



あやめ「〇〇くん、最近ミーグリとかライブにも来てくれなくなったよね」



〇〇「ごめんなさい、ちょっと就活があったから終わるまで推し活封印してたので…」



あやめ「うん、さっき店長さんとの会話聞いたから知ってる」


〇〇「あ、はい…」


あやめ「なんで言ってくれなかったの?」


〇〇「え、いや、そこまで言わなくてもいいかなとおもって…」



〇〇がそう言いかけた瞬間だった



あやめ「…寂しかった」



〇〇「……え?」


思わず聞き返してしまう



あやめ「〇〇くんが急にいなくなって、寂しかった」



こんどははっきりと聞き取れる声で、吸い込まれるくらい真っ直ぐな瞳でそう言うあやめに、〇〇は言葉を返せなかった。


あやめ「いつも欠かさずに来てくれる〇〇くんが来なくなって心配だった。体調悪いのかなとか、何かあったのかなとか」


あやめは言葉を続ける


あやめ「それが何ヶ月も続いて、もう私のこと嫌いになっちゃったのかなって…」


〇〇「それは違う!」


次第に声が小さくなるあやめの言葉に反応した〇〇が、思わず声を上げる。


〇〇「就活で行けなかったのはごめんなさい。でも、僕があやめちゃんを嫌いになるなんてこと絶対ありません」


あやめ「〇〇くん…」



〇〇「あやめちゃんが乃木坂に加入した時からずっと大好きで、ライブでもミーグリでも乃木中とかでも、あやめちゃんのおかげでたくさん元気をもらえたんです。だから、僕は今までもこれからもずっとあやめちゃんのことが大好きです」



あやめ「…わたしもね、〇〇くんからたくさん元気もらってたんだよ」



〇〇「…え? 僕がですか?」


あやめ「加入してまだまだ右も左もわからなくて、いっぱいいっぱいだったときに、〇〇くんがいつも励ましてくれた。握手会とかでも他の人が一方的に思いを伝えてくれるなかで、〇〇くんは短い時間の中で私の言葉を聞いてくれて、励ましてくれた。それがすごく嬉しかった…」




あやめ「〇〇くん、私のこと好きって言ってくれたよね」


〇〇「はい…大好きです」


あやめ「ふふ、私も〇〇くんのことが好き」


〇〇「え…? それって…」


まさかの推しからの一言に驚く〇〇。


あやめ「今はこれ以上はダメ」


〇〇「え…?」


あやめ「私はまだ乃木坂を続けたいから、〇〇くんにも応援してほしい」


〇〇「…それはもちろん。僕はあやめちゃんを応援し続けます」



あやめ「ありがとう。でもね…卒業したらそのときは……私と付き合ってくれる?」


推しからのまさかの一言に、〇〇は静かに頷くのだった。















後日


あやめ「こんにちは~」


店長「いらっしゃいませ!」

〇〇「いらっしゃい、あやめちゃん」


あやめ「ふふ、〇〇くん、いつものね」


あれからあやめは〇〇のカフェに時間があれば来るようになっていた。

もちろん事前に〇〇に連絡してから。


ファンと推しのアイドルの不思議な関係は続いていた。



〇〇「おまたせしました〜。ドリップコーヒーとフルーツパフェです」


あやめ「わー! ありがとう、美味しそう〜!」


あやめはそう言いながらスマホで写真を撮ると、早速コーヒーを一口啜ってからパフェを頬張る。


推しのアイドルの姿に眼福の〇〇。


〇〇「それにしても、あやめちゃんもすっかり常連さんだね」



〇〇の何気なく発したその言葉に、あやめと店長が同時に不思議そうな顔をする。



店長「なにいってんの。あやめちゃんは結構前からこのお店の常連さんだよ」


〇〇「え、ええーーー!? 嘘!? マジっすか?」


店長「マジっす。いつもお昼時ちょっと前に来てくれて、混む前に帰ってたよね」


あやめ「えへへ、はい」


〇〇「マジか…全然知らなかった…」


店長「まぁ、あの時間〇〇くんはお昼の仕込みとかでバタバタだから、無理もないけどね」


〇〇「くっ、それでも推しが来てたなんてなんたる不覚……!」


あやめ「ふふふ」



〇〇は知らないのである。

あやめが密かに〇〇に想いを寄せる中、偶然SNSのエゴサしてたときに〇〇のアカウントを見つけて、カフェの宣伝をしてるのを見てから、こっそりと通っていたことを。


〇〇がこのことを知るのは、また別のお話。


あやめ「(ふふふ、〇〇大好き)」






おわり


※この物語はフィクションです。
※実在する人物などとは一切関係ございません。







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