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相次ぐテレビアニメの放送延期

今年に入ってからテレビアニメの放送の延期が続いています。今日も『痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。2』の放送延期のアナウンスが有りました。これで今年に入ってから1月スタートのTVアニメ6作品の放送延期が発表されたことになります(ちなみに延期された6作のうち5作品は自分も見ているので残念です)。

コロナの影響が大きくなった2020年は当然ながら制作や放送の延期が多く発表されましたがこの時期は放送開始前のアナウンスで放送時期をずらす対応が多かったと記憶しています。理由としても密室での演技のため感染リスクの高い声優さんへの対応や収録の体制の変更が大きかったとも聞きます。昨年もいくつかの作品が総集編や特番を挟んでスケジュールを確保したり1話からの再放送でリスタートする例がありました。

しかし今回はかなり異例で、1クールの間にこれだけ多くの作品が同時期に影響を受けるのは初めてです。自分はテレビ作品の制作は離れてしまっているので現在は状況を詳しく知る立場にはないのですが、それでも昨年後半から年末にかけて「かなり状況がヤバい」という話は漏れ聞こえていました。制作スタッフの感染の影響はもちろんですが、海外、主に中国の状況が相当まずいという話でした。
その頃の中国国内は感染が爆発的に広がっていた時期で、日本のアニメ制作の下請けを行っているスタジオもスタッフが感染のために出社できなかったり、そもそも外出禁止でスタジオが稼働できない状況だったりとかなり厳しい状況だったようです。また1月は春節のため例年生産力が落ちるので、毎年この時期は戦々恐々としているところにコロナのダブルショックで相当に混乱していたことは想像に難くありません。

そもそも現在日本のアニメーション業界は素人目にも制作本数が明らかに過多で、適正なキャパシティを大幅に超えていると言わざるを得ません(どれくらいが適正かという論議はあるでしょうが)。本来なら制作不能な本数を制作できるのは海外への外注があるからです。現在放送されている番組のエンドクレジットを見ると多くの作品で多数の外国人スタッフの名前があることが見て取れますが、かなり以前から日本のアニメーションは海外の制作キャパシティに依存している状態です。今回の放送延期の多発はアニメ業界のサプライチェーンとも言える外注構造が崩壊した事が原因の一つとは言えそうです。各作品のアナウンスでは詳しい状況は語られていないのでそれが原因だとは断言はできませんが今回の異例の自体を鑑みると、かなりの影響はあったと見てもいいのではないでしょうか。
今回は放送中の作品の延期ですが、4月から放送予定だった作品の中にも放送時期をずらしたり放送は決定しているものの変則的な放送形態になったりと、まだ影響は尾を引きそうです。

今のアニメーションの制作はギリギリのラインでなんとか回しているのが当たり前で、余裕も余力もないことが大半です。制作には非常に多くの人材と時間がかかりますから予め余裕のある制作体制で臨んでも不可抗力や多くのトラブルで遅れることは織り込み済みですが、それでも今回のような想定が難しい問題が発生すると一気にスケジュールや予算が圧迫されてしまいます。
資金のある座組の作品や人気作品、質の高さで話題の作品も一見しただけではわかりませんが、どこも同じようにギリギリのところで制作しています。むしろクオリティの高い作品ほど同じ時間で仕上げると考えれば現場には相当な無理がかかっていると見るのが妥当でしょう。
一部のスタジオではクオリティ維持のために無理な本数を止め、限られたリソースを有効活用する方向にシフトしています。しかしそれも予め人気作品を制作できるという見込みのもとに成立する限定的な対応です。

今や日本のアニメーションは関連も含めて2兆7千億円もの市場規模に成長し、国を超えた人気コンテンツとしてもてはやされることも多くなりましたが、その足元の脆弱さはこの業界が抱える構造的問題を内包しつつ何十年も変わらずくすぶっています。
そんな状況でもこれだけ隆盛しているように見えるのは多くの作品の魅力とそれを支える制作者の皆さんの努力と挟持の賜物なのですが、今回の相次ぐ制作遅延を見るに、いつまでもそれに頼っていていいものかと思わざるを得ません。

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