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第5話 先祖の住んでいた村や町について調べる

明治中頃に作られた戸籍までたどると、江戸時代に生れた人の名前と住所が分かります。

番地までは分からなくとも、村や町の名前は分かります。

ちなみに、江戸時代以前の行政単位は、国{くに}→郡{ぐん・こおり}→郷{ごう}→町・村で、「郷」が無い地域も少なくないです。


この町や村が共同体の基本単位です。

江戸時代の人々は家に属していました。身代がある家なら、家族だけではなく、使用人や小作人も属していました。そして、家の主である家長は、百姓身分であれば町や村などの共同体に属していました。
 
武士であれば、主家に属します。

反対に属さない人は、無宿者です。博徒や浮浪者などで、明治中期の産業革命以降でなければ、こういう人々の子孫は生業が無いためなかなか続かなかったと思われます。言い換えれば、彼ら人々の子孫は稀でしょう。

さて、現在の大字{おおあざ}が、昔の町や村に当たる場合が多いです。

ところが、例えば袋井市のように、現在の大字は郷に当たり、数ヶ村を含んでいる場合があります。

当時の村は現在の小字{こあざ}ですが、地図によっては載っていません(グーグルマップなど)。

国土地理院の地理院地図には載っています。インターネットでも利用できます。

ただし、小字の境界までは分かりません。

また、取得出来た最古の戸籍が作られるよりも前に村が合併している場合があります。

とくに、明治21年から翌年にかけて、明治の大合併が行われ、町や村が整理されました。

それでも、合併前、つまり江戸時代はどこの町や村に住んでいたのかが分かれば大丈夫です。

ところが、まれに戸籍には江戸時代に生れている人物なのに、その父親の住所が、明治の大合併以降の村の名前の場合があります。これだと、江戸時代にどこの町や村に属していたか分かりません。

また、古い戸籍の住所は、現在は用いられていないため、どこに比定してよいか困ることもあります。

管轄の法務局へ行き、「旧土地台帳」を請求する手もあります。近在に多い苗字でなければ、そこまでしなくてもその分布からも推測出来ます。

江戸時代に何という町や村に属したかが分かったら、次に図書館へ行って、地名辞典をひもときます。

『角川日本地名大辞典』(角川書店)と『日本歴史地名大系』(平凡社)で調べます。どちらも参考図書のコーナーにあります。また、巻が都道府県ごとに分かれています。

これらで、その町や村がどんなところだったかを調べます。すると、おおよそ身分が分かります。

武家町であれば、武士の可能性が高いです。

城下などの町人町や在郷町ならば百姓身分です。

ちなみに、城下の場合は、町人とされる場合がありますが、実態は百姓身分です。都会の人は田舎者とは違うという心理があるので、こう自称します。

また、領主も、膝元の民として、分けてこう呼びます。百姓一揆(強訴)で、城下を守るのは、物頭に率いられた足軽だけではありません。町人も竹槍の穂先を揃えて固めました(註1)。

閑話休題。

村ならば、ほぼ百姓身分です。

当時、町や村の構成員には、二種類の人々がいました。高持{たかもち}とそれ以外です。

村なら、高持を本百姓と言います。町なら、家持ちに当たります。

高持は年貢の掛かる屋敷地や田畑を持ち、持ち高に応じて年貢や諸役を負担する一人前の人です。もちろん、家ごとなので、家長がその代表です。

もう一方は、無高と言います。

これは、村においては水呑百姓と呼ばれた小作人や被官百姓(戦国時代の所従に当たる)で、町においては裏長屋の住人たち(日雇いや零細商人などか)です。

現在でも雇用形態には、官公庁や民間の区別無く、正規雇用と非正規雇用があり、その弊害がさまざま指摘されながら、一向に改善がなされないのは、日本人はもともとこうした線引きが大好きなのです。

ところで、戸籍を遡ると、苗字だけではなく下の名前も親子で同じ場合があります。下の名前と言っても「家康」「信長」などのような忌み名や実名ではありません。

官途名のついた、「〇右衛門」「□左衛門」「△兵衛」などで、「〇次郎」「□作」「△平」の場合もあります。

同じ名前が続いていれば、その家の名前の可能性があります。高持百姓の方ならば、この名前を手掛かりに、さらに調査を進められます。
そうでなくても、江戸時代の人物の名前が、代々の名前の可能性があります。

もちろん、江戸時代を通して、転居はあります。それでも、この名前が史料で確認出来る限りは、そこの村に住んでいたことは間違いありません。

そして、その史料は、市町村史をひもといて探します。

註釈

註1 天保七年九月に三河国で起きた加茂一揆の際、拳母藩の城下を鉄砲組
         の足軽だけではなく、町人たちも竹槍を持ち寄って守ったことが、
       「鴨の騒立」(『日本庶民生活史料集成第6巻』所収)に見える。


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