子どもをテーマにした音楽作品の数々
芸術家にとって“子ども”は憧れの存在です。
社会の決まりごとや固定観念にとらわれず、感性が豊かで自由な発想ができる“子ども”。
ピカソは晩年になって「この歳でやっと、子どもらしい絵が描けた」と漏らし、より自由な作品を残していますし、日本の画家、猪熊弦一郎は熱心なおもちゃ収集家でした。音楽の世界でも、“子ども”は多くの作品のテーマとなってきました。
今回は、そんな“子ども”や“おもちゃ”にちなんだクラシック作品をご紹介します。
“子ども”と名の付く作品
クラシック音楽の題名の中には、“子ども”と名の付くものが多くあります。
まず思い浮かぶのは、シューマン作曲のピアノ曲集《子どもの情景》でしょう。
この作品は、13曲から成る曲集です。その第7曲「トロイメライ」は非常に有名です(筆者にとってはトラウマ曲です※)。
※筆者のトラウマ
「トロイメライ」は、昔に行った(行かされた)サマーキャンプで消灯の時に鳴っていた音楽。今聞いても当時のサマーキャンプの夜のことを思い出し、ゾッとします。。。
この作品は“子ども”という言葉が題名に入りますが、“子ども”のために書かれた曲ではありません。妻、クララがシューマンに語った「時々あなたは子どものように思えます」という言葉の余韻の中で作曲した、と、シューマンの書簡から読み取れます。各曲の題名も「鬼ごっこ」「木馬の騎士」など、子どもの遊びを想起させるものが多いですが、随所にシューマンとクララの愛が仄めかされています。
“子ども”と言えば、ドビュッシー作曲《子どもの領分》もまたピアノ曲で有名な作品。6曲から成る組曲です。
この作品は、ドビュッシーの娘、エマに捧げられています。6曲それぞれがドビュッシーらしい工夫と技巧に満ちた作品で、それぞれに音で描かれた情景が浮かんできます。
第6曲「ゴリウォーグのケークウォーク」では、ワーグナーの《トリスタンとイゾルデ》の愛の動機が、パロディとして引用されています。(※引用音楽についてはこちら)
他にも“子ども”と名の付く楽曲は、
ビゼーの《子どもの遊び》
ムソルグスキーの《子ども部屋》
マーラーの《子どもの不思議な角笛》
など、たくさんあります。
特定の“子ども”のために作られた作品
前述の《子どもの領分》は、ドビュッシーが娘に寄せて書いた作品ですが、同じように、作曲家が自身や知人の子どもに向けて作った曲は多くあります。
ラヴェル作曲《マ・メール・ロワ》は、彼の友人の2人の子どもが演奏をするために書かれたピアノ連弾用の組曲です。5曲から成り、それぞれにおとぎ話にちなんだ題名が付けられています。
この作品はラヴェル自身によって管弦楽編曲されており、さすがは“管弦楽の魔術師”、非常に臨場感のある情景描写がなされています。第2曲「おやゆび小僧」の薄暗い森の描写などは、思わず身震いするほどです。
その後、ラヴェルはこの作品をさらにバレエ音楽として編曲しました。
フォーレ作曲の組曲《ドリー》は、作曲者の友人(愛人?)エンマの娘、エレーヌの誕生祝いに書かれたピアノ連弾作品です。6曲から成り、特にその第1曲「子守歌」は有名です。
“子ども”のための教育的作品
前章での例は特定の子どもに向けられた作品でしたが、不特定多数の子どもたちに向けた教育的内容を持つ作品も多く作られています。
代表的なものには、プロコフィエフが作曲した、子どものための音楽物語《ピーターと狼》があります。
この作品では、物語の各登場人物に、楽器とメロディが割り当てられます。小鳥はフルート、アヒルはオーボエ、オオカミはホルン、ピーターは弦楽合奏…、といった感じです。
物語の進行に従って、聴く人は、それぞれの楽器の音色についても学ぶことができるという仕組みです。
ブリテン作曲《青少年のための管弦楽入門》も、《ピーターと狼》のように、オーケストラを若い人たちに知ってもらおうというコンセプトの作品です。
パーセルの主題をもとに変奏という形で各楽器を紹介し、最後に圧巻の全オーケストラによるフーガが演奏されます。
一つの音楽としても非常に完成された作品です。
“おもちゃ”をテーマにした作品
最後に、
子どもの大好きな“おもちゃ”をテーマにした作品をご紹介します。
“おもちゃ”と言えば、まず思いつくのが《おもちゃの交響曲》。
アンゲラーという人が作曲した、と言われていますが、レオポルド・モーツァルト(モーツァルトのお父さん)が作曲したという説もあります。
この作品は3楽章から成る小さな交響曲で、“おもちゃ”が楽器編成として組み込まれていることが何より特徴的です。おもちゃのラッパや太鼓、ガラガラ、カッコウ・ウズラ・雌鶏などの笛が指定されています。
また、チャイコフスキーの有名なバレエ《くるみ割り人形》にも、楽器として“おもちゃ”のパートが加わります。
ストーリーもおもちゃが重要なテーマなので、いたるところに“おもちゃっぽさ”が出ています。
実際におもちゃを使っていなくても、おもちゃっぽい響きのする作品というのもあります。
アメリカの作曲家、アンタイルの《バレエ・メカニック》は、おもちゃ箱をひっくり返したような作品。ピアノとパーカッションの硬質な響きが、カラクリ仕掛けを思わせます。
フランスの作曲家、ミヨーの《2台のピアノとパーカッションのための協奏曲第2番》も、オルゴールを聴いているかのような作品です。
コダーイの組曲《ハーリ・ヤノーシュ》の第2曲「ウィーンの音楽時計」もまた、ぜんまい仕掛けのからくり時計をモチーフにした作品。
“おもちゃ”と言えば忘れてはいけない1曲がイェッセル作曲《おもちゃの兵隊の観兵式》。題名を聴いてピンと来る人は少ないでしょう。
しかし聴けば誰もが「ああ、この曲ね!」と思うはず。某有名テレビ番組のテーマ曲です。
ここまで、“こども”や“おもちゃ”を題材にした作品を紹介してきましたが、共通して言えることは、
聴いていて、誰もが楽しい気分になれる、
ということでしょう。
大人もたまにはこういった楽しい音楽を聴いて、童心に帰るもの良いかもしれませんね。
Text by 一色萌生
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