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また“あいつ”と乾杯する日までには。

彼との出会いは、今から10年以上前、僕が大学に入学した当初まで遡る。確か、同じ授業の初回説明を受けたことがきっかけだったと思う。

結局、その授業は、僕らの所属する学部では、単位認定されない授業だというコトが分かり、受講はしなかった。そんな感じで僕らは出会った。別にこれは、ここからの話には深く繋がりはしない。

そこで、なんとなく意気投合した何人かで、彼の実家で呑むことになった。彼の実家は坂の上にあった。その坂を登っていく時間すら、楽しいヒトトキとして記憶している。

僕らは、ドンキで仕入れたお酒やら、つまみやらを持ち込み朝まで語り合った。何を話していたのかは覚えていない。きっと、誰それちゃんが可愛いだの、誰々が気になるといった話やら。これから、どのサークルに入るだのの話だったかと思う。

その後、彼の実家に訪れることはなく、僕と彼は、卒業までに、大学のそばにある安居酒屋で、だいたい25メートルプール1杯分くらいのビールは呑んだ筈だ。

ビールが1杯100円ちょっとだった(途中で200円ちょいになった時には一大ニュースとなった)。ただ、つまみはその分高かったので、そこに行く前にはラーメン屋に立ち寄るか、セブンのおでん等でお腹を満たしていた。

あの小説に出てくる二人はひと夏で呑んだ量なので、そこまでの量を、呑んでいた訳ではないと思っている。ちなみに、車をぽしゃらせた事はない。

僕は、お酒は好きで、酒場も大好きなのだが、決してすごくお酒に強いという人間ではない。酒の強さで言うのであれば、彼は人一倍、酒に強かった。そんな彼に僕はいつも救われるばかりだった。

大学を卒業したその日、僕はこれから彼が住むというアパートに泊まらせてもらった。それが学生最後の彼との思い出だ。

それから3・4年はふたりとも、社会の波にもまれたことと、物理的な距離の問題から一緒に呑むことはなくなった。また、一緒に呑むようになるのは、僕が新卒で入った会社を辞めて、神奈川に戻ってきたタイミングだ。

神奈川に帰ってきた僕は、寿町の簡易宿泊所の一区画をゲストハウスとして運営し、町に新しいヒトの流れをつくるという仕事に携わった。月に一回、従業員や宿泊者、そして近くに住んでいるヒトを巻き込んだ呑み会を開いており、その会に僕が彼を誘った。僕らはそのまま、4畳一間に二人で寝た。

その後は、半年から1年に1回程あって、二人の近況報告をしながら呑むことが増えた。僕は単純に、二人で会う為の口実が欲しかっただけだったのかも知れない。

話す内容は、徐々にリアルになり、それぞれの暮らし方やこれからの夢や目標を話す様になっていった。

そして、ちょうど去年の今頃、二人して入籍を目前に控え、その当時、僕と彼女が住んでいた町にある焼き肉屋で呑むこととなった。彼と焼き肉屋に行くのは、これで3回目だった。その日のビールは、特別に美味しく感じた。二軒目からは、彼の奥さんも交じり、4人で呑むことになった。

あまり、お酒をあまり呑まない彼女には申し訳ないなと思ったが、僕の恥ずかしい学生時代の話を聞いて、楽しんでいたみたいだ。

そして、その年の12月に彼は、結婚式を挙げた。楽し気な二人がとても印象的だった。

今年の4月には、僕の結婚式に彼も参列してもらう予定になっていた。その前までには呑みたいね。と言っていたが、コロナ禍の影響で僕の結婚式は延期となり、外で会って、呑むことが難しい期間が続いた。

僕自身も、この期間で考えるところがあり、住まいを変えた。そこで、彼に住まいを変えたことを伝えると、彼はこのタイミングで家を購入していた。

それにもビックリしたのだが、お互いにこれから住む場所がとても近いことにも驚いた。どうやら、長い間、お互いの思いを共有していたコトから、感性も近くなっていた様だ。

そんな彼と久しぶりに呑む約束をした。状況が刻々と変わる中、居酒屋で呑むことは難しいかもしれない。そんな時には、昔を思い出して、ラーメン屋でラーメンを食べた後に、どこかで缶ビールを買って家で呑んでも良いのかな。なんて思っている。

また、“あいつ”と乾杯するまでに、僕らはどんな日々を過ごすのだろうか。

ちなみに、延期となった結婚式は12月に挙げる予定である。そのときは、心の奥からの笑顔で乾杯が出来る世界になっていることを祈るばかりである。