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【第三回聴き湯会】リニューアルしても変わり続ける(天水湯 木越元太さん)

まっつん:銭湯再興プロジェクト運営を務めております、松下と申します。よろしくお願いします。

本日のゲストは天水湯の木越さんです。最初に、銭湯再興プロジェクトがどういう会かということを簡単にお伝えします。もともとは2018年、東京・高円寺にある小杉湯さんが中心になってはじめたオンラインサロンです。いまはある意味で小杉湯さんから離れて、当時のメンバーが主体となって全国の銭湯さんと話をする機会を作ったり、メンバー同士で情報共有しながら銭湯を盛り上げていきたいねっていうスタンスのチームです。

今回、木越さんにご参加いただく「聴き湯会」というのは、今年から新しく始めたプロジェクトです。いろいろな銭湯経営者さんの声をなかなか外に言えないようなことも含めて伺いながら、いち銭湯ファンとして何がができるのか、銭湯の魅力を拡げていくためにちょっとでもお力になれたらと思ってこういう機会を設けています。

木越:いろいろ悩みは…尽きないですね(笑)

松下:Twitterも拝見していますが、悪戦苦闘している様子が伝わってきます。

木越:だいぶしてますね。

松下:今回、木越さんからもリクエストがあって一方的にお話をしていただくわけではなく、参加メンバーとコミュニケーションを取りながらどういうことができそうかを一緒に考えていけたらなと思います。

木越:僕も銭湯に来てくださる方が何を思っているかというのは、逆に知りたいので嬉しいです!


なくしてしまうのはもったいない!

松下:申し訳ないんですけれど…天水湯さんのことを最近まで存じ上げなくてですね。

木越:たぶん改装以前は、ほとんど知られていなかったと思うんです。

松下:例のニュースミントで拝見して、すごい頑張っている銭湯あるんだなということで知ったんですけど。リニューアル自体が昨年10月とかですか?

木越:2020年9月30日までは通常営業して、そこから1か月半くらい工事に費やしまして。11月半ばに再オープンしました。

松下:木越さんご自身が天水湯を継いだタイミングはいつですか?

木越:2020年4月です。

松下:じゃあ、半年でリニューアルを決断されて。

木越:ほんとはもっと早く動き出してはいたんですけどね。見積もりを取ったりとか、そんなことやりつつ。

松下:銭湯を継いだ経緯を伺えますか?

木越:もともと天水湯が妻の実家で、お母さんとおばあちゃん、パートの人たちという女性中心でやってきてたんですけれども。年々お客さんも減るし、かつボイラーも傷んできてるし、いろんな機械の不具合もあって…ボイラーが潰れたら廃業しようかなみたいなところまでいってたんですね。それで、ちょうど苦しいときに僕と妻が知り合って、この場所をお風呂屋さんとして残すのかどうかとか話をしていて…

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写真:リニューアル前の脱衣所(天水湯提供)

でも、もったいないなと思ったんですよ。70年ぐらいずっとやってきて、機械が潰れたからそれでお終いというのは。それで、人に貸して続けられるのかとか、お風呂屋さんは辞めるけど建物だけ残して利用できないかとかいろいろ考えた結果、自分でやるのが一番現実的かなと。そう思いながらも僕も別の仕事があったので、仕事をしつつ休みの日はお風呂の掃除をしたりとかっていうのを2〜3年続けてて。

松下:はい。

木越:そのあいだに子どももできたりして、妻の育休が終わるタイミングで継ごうかなと思って、仕事を一本にして始めたのがきっかけです。

松下:もともとはどのようなお仕事をされていたんですか?

木越:大学を出てからゼネコンで営業をしていました。その後、実家が飲食店をやっているのでそこで3年ぐらい働きつつ、お風呂の仕事もしつつっていう感じでしたね。

松下:飲食のお仕事もされてたんですね。

みむちゃん、ニュースを見た感想やいまのお話を聞いてみてどうですか。なかなか大阪の銭湯に行く機会もないかもしれないですけれど。

みむちゃん:大阪…京都だと梅湯さんは入りに行ったことがあるんですけど。

木越:梅湯さんとかもね、すごく精力的に活動されていて。うちの風呂椅子のゴムを替える作業のときにちょっと手伝いに来てもらったりとか。

松下:交流があるんですね!

木越:うちの使わなくなった骨董品じゃないですけど、そういうのを持って帰ってもらったりとか(笑)

松下:いま、わっきーさんにもご参加いただいていて。ぜひコメントをいただきたいなと思います。大阪にお住まいなので。

わっきー:はじめまして。私は大阪に住んでいるので、今度ちょっと足を運んでみたいなと思います。

木越:ありがとうございます。ほんと改装してから、これまでは常連客ばっかりだったのが新規のお客さんも増えましたし、色んな地域から来てくださる方も増えたので。

松下:そうなんですね。改装はどういったところがメインで変わったんですか?

木越:お客さんから見てわかりやすいのが、まず番台式からフロントになりましたね。それと浴室のほうだとサウナを作ったのと、高濃度炭酸泉を付けました。ただ、正直なところ今回の改装はお客さんが見えるところは「附属の改装」というか。メインは裏の機械のリニューアルで。ボイラーだったりタンクだったり、そういう機械の更新と、燃料を重油からガスに変えて。

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写真:リニューアル後の浴室(天水湯提供)

松下:ニュースでも「ここ漏れちゃいけないんですよ」っていうようなことを仰ってたんですけど、あれをまず変えたかったということですよね。

木越:はい。油も高いので、燃料の効率化というかコスト面のスリム化も期待して。

松下:改装から半年が立とうとしています。新しいお客さんも来ているという話だったんでしたが、数としてはちょっと増えている?

木越:増えてますね。1.4倍ぐらい。

まっつん:すごい。結構増えてますね。

木越:コロナ禍と言いつつ、11月に改装してからずっと上がり続けてますね。数も売り上げも。

みむちゃん:サウナがあるから増えたという感じですか?

木越:サウナもそうですし、炭酸風呂いうのも東京だとだいぶ馴染みになってきてるじゃないですか。ただ、大阪のほうでああいうタイプの炭酸泉って、正直うちだけなんですよ。スーパー銭湯はありますけど、一般の公衆浴場としては。

そういう設備を新しくしたのもあるし、あとはSNSもかなりでかいなと思います。接客面もだいぶ変わりましたんで。1回来てくれた方がそれで終わりじゃなくて、2〜3回と来てくれるようになったのが現状につながってるんじゃないかなと思います。

まっつん:スタッフさんは基本的にご家族で回されてる感じですよね?

木越:そうですね。いまは最少人数でやってます。これからどうなるか分からないですけど…

みむちゃん:高濃度炭酸泉って、導入するのはやっぱり高いですか?

木越:高いです。お湯自体が弱酸性になってるので、普通の浴槽のネジとかタイルだとすぐに傷んじゃうらしいんですよ。だから、それは全部変えないといけないし。あと、あれって普通のお湯に炭酸ガスを注入してるんですね。だから、ボンベ代が月々上乗せされます。なんで、炭酸ガス代だけで年間40〜50万ぐらいかかっちゃいますね。逆に他のお店がしにくいから、差別化にはなるんですけど。


お風呂屋さんを続けるモチベーション

まっつん:ニュースのなかでもあったように、東京の喜久湯さんなどいろんなお店と交流しながら色々と実験的にやられてますよね。どういうきっかけがあったのかを伺えればと。

木越:そうですね。もともとこの仕事を始めて最初に思ったのが、銭湯の仕事って大変なことは大変なんですけど、かなり時間に縛られてるというか。何時までにこれをしないといけないとか、大体同じような時間に同じお客さんが来たりする仕事なんですよ。慣れてしまうと変化が乏しいというか…これを続けているといつかモチベーションの低下につながるなと思って。これはまずいなと、何か新しい仕事を自分から作っていかないといけないなと思ったのがきっかけですね。

月に2回ぐらいやっている変わり湯の材料も自分で見つけてきて、農家さんとか色々なつながりを持ってやるなかで、東京の喜久湯さんに出会ったんです。ネットのインタビュー記事を見ているとすごく好青年だなと思って、何か一緒に仕事できないかなと。それで、今回の「銭湯で旅行気分を」というような物々交換をして「変わり湯」を楽しんでもらうイベントを思いついて。改装期間中に「こんなことしたいんですけど、一緒に仕事しませんか」って、実際に会いに行ったんです。

まっつん:喜久の湯さんもお若いんですよね。

木越:そうですね、30代前半だと思います。その道中で東京浴場さんにも寄って、「2店舗でやるよりも3店舗のほうが楽しいよね」ということでお声がけさせてもらったんです。結局、自分のモチベーションをどれだけ維持するかが根本なんです。

まっつん:もちろんお客さんに楽しんでいただきたいっていうのはあるけれども、自分がどうにか続けられないと…というところですよね。

木越:そうなんです。ほんまにそれが一番怖いなと思って。自分が楽しめないとお客さんも楽しくないというか。そうなると結局、売上が落ちて自分たちの首を締めていくし、負のスパイラルに陥るのかなというのがあって。逆にいまは、忙しすぎてどうしようかなっていうのはあります(笑)。

まっつん:やればやるほど(笑)。

木越:正直かなり抱えてて…だから、次はそれをどうしようかって思ってて。

げんた:いまはお一人でやられてるんですか?

木越:SNSとか企画自体は、基本僕が一人でやってますね。

まっつん:広報兼企画…兼現場監督、みたいな。

木越:かつ、経理もやりつつみたいな感じです(笑)。

みむちゃん:大変…

木越:でも、経験値がかなり積めますね。まだ一年かって思うぐらい濃いです。

まっつん:そうか。正式に継いでからはまだ一年…

木越:そうですね。その割にはいろんなことが起きてます。


SNSで裾野を広げる

まっつん:「変わり湯」以外にやったことがあれば伺いたいです。

木越:そうですね…本当にいろいろやりすぎてて。

たとえば、このあいだ暖簾を変えたんですよ。今まではごく一般的な暖簾を何も考えずに付けてて。でも、最近若いお客さんが来るようになると、SNSで外観(の写真)が上がることが多くなって。みんな同じ暖簾を使ってて楽しくないなと。

それで、新しくオリジナルの暖簾を作ったら、それがえらく好評ですね。それがきっかけで京都の銀座湯さんが「うちも作りたい」と声を掛けてくださり、その暖簾を作ったりとか。ちょっとずつそういうふうに広がりもあったりして。

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写真:オレンジが映える暖簾(天水湯提供)

まっつん:SNSをちゃんと活用されながらやっているからこそ、そうやって写真をアップしてくれてる人がいて、ただその写真がちょっと味気ないから変えてみようかっていう流れなんですよね。

木越:お客さんにどう来てもらうかなって考えたときに、昔だと家にお風呂がない環境だったので、週6回来てもらうようなお客さんがほとんどだったと思うんですよ。僕はいま32ですけど、生まれた頃には家にお風呂があるのがすでに当たり前だったので、これからお客さん増やそうというときに「毎日来てくれるお客さん」を狙っていくのは正直きついと思うんですよね。その人の生活パターンも変えないといけないし。

だから、「毎日来てくれるお客さん」を1人見つけるんだったら、「週1で来てくれるお客さん」を6人、あるいは「2週間に1回来てくれるお客さん」を12人に増やしたりとか、そういうほうに意識を向けたほうがええかなと思って。

まっつん:めっちゃ面白いです。

木越:そのために、SNSで裾野を広げようというのが僕の作戦なんです。結局そういう人(2週間に1回来るお客さん)って、言うたらお風呂屋さんに慣れてないじゃないですか。たぶん、自分へのご褒美のために来たりすると思うんですよ。ってことは、お風呂上がりにジュース飲んだりとか、シャンプーとかも借りてくれたりするじゃないですか。普通に毎日のように来はるお客さんに比べて単価が上がるというか。そういうのもあって、こまめにSNS やってるというのが実際ところです。

まっつん:単価が上がるっていう話があったんですけど、入浴料は当然決まっているわけですよね。それ以外の部分でどういうふうに単価を上げるというか…

木越:逆にね、いまは僕はそこに力を入れてないんですよ。結構いろんなお風呂屋さんがTシャツを作られたりとか、グッズを販売されているじゃないですか。それは後々そうなるかもしれないんですけど、それよりもいまはまず来てもらうっていうのが一番売上につながるかなと思うんですよね。

Tシャツを売ってその分の利益がいくら残るか分からないですけど、それやったら一人でも二人でも来て入浴料分の売上が上がったほうが固いかなと思って。一人当たりの売上を上げるためにグッズとかを売ったりとか、ジュースをもっと高いのにしたりとか、備品をもうちょっといいのにしてとかもあるんですけど、それは来年以降の目標にしてて。今年はとにかく人に来てもらうにはどうすればいいかっていうのを考えてやってますね。

まっつん:なるほど。

木越:もうちょっとうちのネームバリューが上がればそういうふうにしたらいいんでしょうけど、まだそこまでじゃないので。

まっつん:いまはとにかく来てもらうことが優先で、少しずつもお客さんが増えてきているっていう状況ですね。

木越:そうです。お客さんがどこ行こうかなーってなったときに頭の中で選択肢に入れてもらえるような、そのためにSNSをやったり露出を増やすってことをやっています。

まっつん:あのオレンジの暖簾が頭に浮かんでくれればいいわけですよね。

木越:そうです。どこへ行こうかなってなったときに、改装するまではその選択肢の中にも入れなかったんですよね。その人がいろんな銭湯へ行くなかで、その中の一つとして天水湯をどう入れてもらうかというのが前からの課題で、いまも悩んでるところでありますけど。

みむちゃん:そういう意味では。サウナがある銭湯ってだけで魅力がちょっと上がるような気がしてます。

木越:それがね、面白いのが…東京だとサウナがあるのが特別かもしれませんが、大阪ってほとんどの銭湯にサウナがあって。

みむちゃん:えー、逆に!

木越:そうそう。こっちだと銭湯のなかにサウナがあるのが当たり前というか。でも、東京の銭湯っていうのはサウナはオプションみたいな考え方があると思うんですね。けれども、大阪はほとんど全部に付いているので、なかなかそのあたりの差別化が難しくて。

みむちゃん:そうなんですね。なんか『サ道』が流行ったから、家だとサウナってなかなか持ってる人はいないから、サウナがあるから外のお風呂に行こうっていう気持ちになると思ってて。

木越:大阪でもサウナブームは来つつあるって感じで、正直まだ東京ほどではないんですけど…じわじわと。東京に住まれてるから分かりにくいと思うんですけど、やっぱり大阪から見たらすごいですよ。東京の勢いというか。サウナもそうですし、お風呂屋さん自体も2ヶ月に1軒ぐらいは改装されているじゃないですか。正直こちらだと全然考えられないですからね。

まっつん:いま「サウナイキタイ」を見てるんですけど、ちょこちょこ(投稿が)増えてるんですかね。昨日も投稿があったりとか。

木越:めっちゃ増えてます。リニューアルから80件ぐらい…ありがたいです。逆にいまちょっとプレッシャーですね。

だから、今日もサウナで実験してます。いまは設備が新しいのでヒノキの香りがするんですけどね、やっぱりどんどん劣化していくじゃないですか。掃除もしてるんですけど、その香りがなくなっていくスピードに追いつかないので。で、この前、喜久の湯さんがTwitterに上げてたんですけど、「コウタくん」っていう入浴剤みたいなこういう…1個100円くらいしてちょっとコストかかるんですが。あれを樽に一つ入れて20ℓぐらいの水で溶かしたらアロマ水ができるんですけど、それをいまサウナに入れているんです。サウナの熱でその水分が蒸発して湿気になるじゃないですか。それで香りをもうちょっと出そうかなと。

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写真:清潔感のあるサウナ室(天水湯)

まっつん:鼻がスーッと通って気持ちいいですよね。営業中にやられてるんですか?

木越:そうです。前から色々と実験はしてるんですけど、大阪もぼちぼちサウナブームがやってくるなかで、ブームが来てからやっていたら遅いので。それまでにちょっと手を打っとこうかなと思って。

みむちゃん:銭湯を経営されている方に聞いてみたかったんですけど、私たちみたいな銭湯好きに求めてることというか、お風呂に入る以外にどんなことをしたら銭湯のためになるんだろうって思って。

木越:どこのお店に行ってもそうなんですけど、まずは純粋にお風呂を楽しんでもらって。それを拡散というか、SNSもそうやし周りの人に「良かったよ」とか、そういうふうに広げてもらえるのが一番ありがたいなと思います。そのために、店側は一生懸命掃除もするし、新しいこともしたりしますし。僕はSNSやってますけど、やっぱりお店としてなかなか手が回らないところもあるので、拡散してもらえるとめちゃくちゃ助かります。

みむちゃん:分かりました。頑張って発信します!

木越:そうそう。結構、励みになるんですよね。

みむちゃん:銭湯経営者の方に「ありがとう」って伝えたいけど、なかなか言えないんですよね。直接、番台で言うのも恥ずかしいし(笑)。

木越:そうですよね。やし、銭湯の番台って、なんか無愛想なイメージじゃないですか。言いにくい雰囲気ありますよね(笑)。

まっつん:日々、忙しいでしょうし。げんたさんもコメントありますか?

げんた:サウナイキタイ の口コミとかもやっぱり参考にされたりとか、何か改善されたりとかされるんですか?

木越:めちゃくちゃ見てますよ。1日に何回エゴサーチすんねんってぐらいしてます(笑)。

げんた:いま僕も見てますが、すごい経営の参考にはなりますよね? 気づきだったりとか、お客さん目線じゃないと分かんないことだったりとか。プラスもマイナスも含めて。

木越:ありますあります。たとえば、サウナイキタイである方が「サウナ室に若い人が多くてなかなかゆっくりできなかった」みたいな口コミをされてて、ちょうどその方と若い人らがバッティングしてしまって、次に来たときに「ちょっとまた騒がしくなるけどごめんね」みたいに声かけたりとか。なので、めっちゃ見てます、口コミは。

げんた:何回も書いてくれてる方もいますね。

木越:そうですね。この方は…でも改装してからですね。来はったのは。

みむちゃん:改装するとやっぱり目立つというか、行ってみようってなりますもんね。

木越:そうですね、(お客さんの入りが)全然ちゃいますね。


フロント革命

木越:あと、番台式からフロント式にしたこともあって、若い人がめっちゃ増えました。今まで1人で来てた人が友達とか家族とか、団体で来るようになったりとか。

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写真:リニューアル後のフロント(天水湯提供)

まっつん:番台式をやめようと思ったのはなぜですか?

木越:天下茶屋って民泊がたくさんあって、当時は外国人の方が多かったんですよ。番台式のときは外国人の方が扉を開けた瞬間に中が見えるので、その状況を見て帰ってしまうこともあって…これはちょっとまずいなと思って。若い子もやっぱり裸を見られるのは嫌だし。これから来るお客さんのことを考えたら合ってないなと思ってやめようと思いました。

でも、フロント式にして良かったのは、お客さんと話をする機会がめちゃくちゃ増えたことです。今までなら扉を開けてすぐに番台があって、お金払ったらパッとお風呂に入るじゃないですか。帰る時もパッと出るんですけど。うちはいま、入り口からフロントまで2mくらいあるのかな。その程度の距離でも、そのあいだに一言、二言しゃべるんですね。それが次にもう少し長い会話になったりとか。

まっつん:入り口からの距離が伸びたことで、話をするきっかけができるんですね。

木越:向こうもしゃべらざるを得ないし。でも、そのおかげでお客さんと店との距離が近くなるので、すごく良かったです。改装する前は気付かなかったんですが、意外とこういう効果があるんだなと。

みむちゃん:番台って少し高いところにあるから、目線も合わないんですよね。

木越:そうなんですよ。

げんた:確かにちょっと見下ろされている感じがありますね。

みむちゃん:向こう側が見えちゃいそうだしね。

木越:そうそう、慣れない方は敬遠しちゃうじゃないですか。

みむちゃん:私は結構、番台があるタイプの昔ながらの銭湯が好きなんですけど。友達を誘うときに、スパみたいな所なら来てくれるけどTHEお風呂屋さんだとちょっと遠慮しちゃう子とかもいて。フロント式だと誘いやすくはなりますよね。

木越:そうなんです、それがさっき言った団体さんにつながるんです。だから、細かいところが今となってはすごくメリットになってます。ほかにも、シャワーもカランも替えたんですけど、替えたら水圧がかなり強くなって。やっぱり水圧強いと気持ち良いですからね。

げんた:ありますね。すごい好きな銭湯なんだけど、あそこ水圧弱いんだよな〜みたいな。

まっつん:シャワーの角度がね、合わないところとか。

げんた:ボタン押したらシャワーが出るけど、すぐに止まっちゃうとか。

木越:それめっちゃ分かります。うちも以前はボタン式だったんですが、僕もボタン式が苦手で…だからもう無駄遣いされても良いからレバー式に替えました。そうすると、お子さん連れの方とかも洗いやすいし。そういう細かいところをお客さんも見ているので。

げんた:コスト掛かるんだろうなっていうのはすごく分かるんですけど…それにしても(水の出る時間が)短くないか、みたいな。

木越:5秒ぐらいで切れる所とかありますもんね。そこで水道代をケチらず、結局それ以上にお客さんが来てくれてプラスになればええかなと。

まっつん:カランはレバー式なんですね。

木越:はすぬま温泉さんとかと同じタイプで、東京の銭湯でよくあるゴツめのやつですね。シャワーもオーソドックスなレバーです。

あと今回、鏡も替えまして。前は壁があって、鏡に穴を開けてボルトで締めていたんですけど。それをやると、交換するたびに業者さんに穴を開けてもらう必要があって。それって、お金も掛かるので。鏡取り付け用の金具を付けて、それだといつでも自分で替えられるし。鏡が汚い銭湯ってよくありますけど、あれはちょっとストレスだなと思って。

げんた:鏡って、どのくらいの頻度で取り替えるんですか?

木越:いや、普通はほとんど替えないです。だから汚くなっちゃうんですけど。先のことを考えて替えやすいようにしました。これなら1枚3,000円くらいで替えられるので。業者さんに頼んだら、1枚10,000円とかしますね。うちはリニューアル時に替えましたが、長くても2年くらいで替えようと思っています。常にキレイな状態にしといたら、磨く必要もなくなるじゃないですか。

みむちゃん:清潔感って大事ですよね。

木越:本当に大事です。だから、僕も自分で洗剤も作ったりしつつ、業者さんに頼らずに安くどれだけキレイにするかっていうのが課題でやってますね。

みむちゃん:クエン酸を夜中に入れておくとキレイになるとか、そういうのを情報交換できる場があったら良いですよね。

木越:僕、昨日クエン酸の洗剤を自分で作ってやったんですけど失敗しちゃって。今朝、東京浴場さんに連絡して、「酸性洗剤ってどんなん使ってる?」って教えてもらってます。東京浴場さんも小杉湯さんから教えてもらったんですよね。最初に小杉湯さんがTwitterで動画上げてはって。いろいろ考えながら、いろんな汚れに対応した洗剤を使っていかないとあかんし。それはそれで楽しいですけど。

みむちゃん:もともと銭湯が好きだったんですか?

木越:それが全然なんです。いまのお店自体ももともと地元ではあるんですが、「こんなところにお風呂屋さんあったのか」くらいの認識だったんで。

まっつん:でも、すごく研究熱心に他のお店にも行かれたり、掃除も実験してやってみたりされてますね。

木越:自分が思う以上に頑張ってないと、周りも頑張ってるので。自分が3歩進んでいるつもりでも、周りも3歩進んでいたらプラマイゼロだしと思ってやってます。


我々は何を求めて銭湯に行くのか

まっつん:木越さんから逆に聞いてみたいことがあれば、いかがですか?

木越:東京っていろんなお風呂屋さんがありますが、何を基準に選んではるんですか?

みむちゃん:じゃあまっつんから!

まっつん:そうね、ちょっと考える時間がほしかったけど…

どれくらいの頻度で行くかって考えたときに、週1〜2回通う銭湯もあれば、月1でちょこちょこ行くという2つのパターンがあると思っていて。頻繁に行くほうは当然家から近いというアクセスの良さですし、いつ行ってもキレイなすごく好きな銭湯でもあるんですけど。そこもお若い方がやられているので、行くと元気が出るし。で、もう一つの月1で行くほうは、例えば小杉湯とか金春湯とか。小杉湯さんだと、もったいない風呂っていうのをやっていて、その日その日で違うお風呂に入れたり、番台の前で果物とかを販売していたり、そういう自分の知らないものに出会える場所として行ってるところがあります。いつ行っても違うもので出迎えてくれるけど、お風呂はいつも通りめっちゃ気持ち良いという。お風呂も入るし、お酒を飲むときもあるし、お土産を買って帰ることもあるしみたいな感じですね。

木越:なるほど、いつ行っても変わってるっていうね。

まっつん:変わってるし、変わってないというのがポイントかもしれないです。

木越:勉強になる…

まっつん:げんたさんはどうですか? 我々は何を求めて銭湯に行くのか。

げんた:例えば、自分で考えたときに行く銭湯って、自分のなかでベストワンだけに行くかというと、またはベストワンばかりも行くかというと、そうでもないような気がしていて。まっつんさんも仰ったように、近いところが頻度高くなるのはありますけど…それでも4〜5個くらい頭の中に出てくる銭湯の選択肢があって。そのなかでどれを選ぶかというと、施設がすごく良いからとか、番台の人が優しいとか、今日は友達と行くからこういうところが良いとか、決してハード面だけではなかったり。そのときの自分によって、行きたい銭湯って違ってくるんです。露天風呂があるからここかなとか、サウナが良いからここ、今日は近くが良いなとか。そのなかの選択肢の一つに入っていれば十分というか、ベストワンにならなくても銭湯好きの人はいくつかを回して行く人は多いのかなと思いますね。

まっつん:ちょっとすみません…プレイボーイみたいな発言ですね(笑)。

げんた:(笑)。でも、僕の銭湯選びはそういう感じです。

まっつん:あ、でもわかるかもしれない。

みむちゃん:わかるわかる!

げんた:小杉湯が地元にあって好きなんですけど、混んでるんですよね。例えば、朝湯なら空いてるから行こうと思うけど、夜だったら別の銭湯に行くとか。そういう選択の仕方もあるので、そのタイミングタイミングで。あまり参考にならないかもしれないですが。

木越:いや、めちゃくちゃ参考になりますよ。

まっつん:ナンバーワンにならなくても良いわけですね。

げんた:何かひとつ、ちょっとしたことでも気に入ってもらえるポイントがあれば、「今日はここに行こう!」みたいなことがあると思いますね。

まっつん:その5人のうちの1人になれば良いわけですね、天水湯さんも!

げんた:すごいプレイボーイ発言ですね(笑)。

みむちゃん:でも共感しかない!

木越:それはたしかに分かりますね。

げんた:値段という選択がないので、そういう選び方になるのかも…

まっつん:みむちゃんはどうですか?

みむちゃん:いまのげんたさんの発言に全共感しつつ、私は「好きな銭湯は?」と聞かれたときにどう答えるかしばらく考えていた時期があって。古き良き銭湯も、スパみたいな銭湯も全部好きなので…それぞれの良さがあるから。どこへ行っても、建物を楽しむとか、浴槽の種類を楽しむとか色々な楽しみ方ができるんですけど。

じゃあ普段、どうやって行く銭湯を決めるかというと、ナンバーワンではなくてどこに行くかを決めるとなったら、やっぱり一番は「近さ」で。出かけるというよりも、ちょっとコンビニに行く感覚で行けるかどうかがすごく大事だと思っていて。そこを私は「ホーム銭湯」と呼んでるんですよ。逆に、いつもと違う路線に乗ったりしたら、そのあいだにどんな銭湯があるかをGoogleで調べて帰りに寄って帰ろう、って思ってるんですよ。出かけるときに行く銭湯をマークしておいて、そこに行ってすごく感動したらまたそのために行ったりするんですけど。サウナが良いなとか、この浴槽が良いなと思ったり、混んでるから空いているときに行きたいというのもあるだろうし、そのどこかの頂点にいれば思い出すというか。

まっつん:すみません、なんかすごい恋愛の話のように聞こえてしまって(笑)。

みむちゃん:(笑)。でも、やっぱり近くに住んでる人がホーム銭湯にしたいと思えたら勝ちですよね。

げんた:売り上げとしては一番貢献度が高いですよね。

木越:そうなんですよ、やっぱり地元の人がメインなのでね。でもすごいわかるな。

みむちゃん:私、ホーム銭湯が戸越銀座温泉なんですけど、夜中1時までやってるんですよ。だから、仕事が12時ぐらいまでに終わっても駆け込みで行けるんです、温泉に。
仕事が大変なときも「私には温泉があるし」と思って頑張れる…

木越:良いですね。普段はこういう銭湯好きの人と話すことってそこまでないので。お店のなかでしゃべるんですけど、やっぱりお客さんも来てバタバタしながらなので。めちゃくちゃ参考になりますね、お店づくりの。

まっつん:じゃあ、わっきーさんからも是非。

わっきー:私は銭湯のスタンプラリーというのをやっていて、友達としゃべるために銭湯に行くようになって。なので、空いている銭湯とかしゃべりやすい銭湯に結構行ってました。清潔さだったり、番台の人が優しいとか、アットホームな感じだったら行きたいと思いますね。あと、今日の夜、(天水湯に)行かせてもらおうかなと思っています(笑)。

木越:マジですか、ありがとうございます!

わっきー:めっちゃ行きたくなったので。

木越:僕は18時半〜0時まで番台にいるので、いつでも来てください。

わっきー:そのあいだに行きます!

木越:ぜひぜひ。

まっつん:今日の会で、完全にわっきーさんの5本の指に入りましたね(笑)。

一同:(笑)

木越:でも、今日は楽しかったです、ホンマに。もっと緊張するかと思ったんですけど、意外とリラックス出来て。

まっつん:良かったです! ありがとうございます。

みむちゃん:せっかくつながれたので、今後もチャットしたり交流したりできたら嬉しいです。

まっつん:銭湯再興プロジェクトでは、Slackを使ってやりとりしていて。そこに小杉湯の平松さん、金春湯の角屋さんにも入っていただいているので、木越さんも良ければ入っていただいて。ちょっとしたご相談ごとなどでも活用いただけたら嬉しいです。

木越:ありがとうございます、ぜひ入らせていただきます。

まっつん:木越さん、最後に何かコメントをいただけますか。

木越:こういうことをきっかけにもっとお風呂が広がっていったら良いですし、お客さんに楽しんでもらうのがお店にとっては一番ですし、頑張り甲斐にもなるので。皆さん、お風呂にいっぱい行ってもらえたら嬉しいです。今日は本当にありがとうございました!

一同:ありがとうございました!

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開催日:2021年3月27日

執筆・編集:げんた、たにもと、まっつん
バナーデザイン:みむちゃん


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