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【第一回聴き湯会】「環境」としての銭湯(小杉湯 平松佑介さん)

まっつん:平松さん、こんばんは。

平松:こんばんは。

まっつん:銭湯再興プロジェクト(以下、銭湯再興PJ)の第一回聴き湯会を始めたいと思います。聴き湯会とは、銭湯に関わるお仕事をされている方とのオンラインでのコミュニケーションを通じて、銭湯の新しい価値であったり、銭湯ファンにできることを模索していく企画になります。イメージとしては、酒屋さんが集まって「利き酒会」っていうのをやってるそうなんですけど…

平松:なるほど!

まっつん:そういうイメージで「聴き湯」っていうふうに命名しました。銭湯好きがゆるく集まって語り合う機会になったらなと思っています。いろんな方にお話を聴いていく予定ですが、第一回のゲストとして小杉湯の平松佑介さんをお招きしました。どうぞよろしくお願いします。

平松:よろしくお願いします。

まっつん:平松さんは銭湯再興PJの発起人なんですけれども(2018年設立)、どういった経緯でオンラインサロンができたのか、あとは最近の小杉湯さんがどういう取り組みをされているのか、特にコロナ禍における取り組みなどを具体的に伺えたらな思っています。最初に平松さんからざっくばらんに話をしていただけますか?

平松:はーい。先に僕から話をして、クローズドな範囲なので皆さんからもいろいろお聞きできたらなと思ってます。



小杉湯が大切にしている3つのこと

図1

平松:改めまして、よろしくお願いします。小杉湯の平松と申します。小杉湯は杉並区の高円寺にあります。昭和8年創業になるので、今年で87年目の銭湯になりますね。銭湯としてはオーソドックスのスタイルで、番台があって待合室があります。あとは脱衣所が昭和8年の構造のまま格子型の天井になっていて、浴槽が4つですね。小杉湯にはサウナがなくて、交互浴を評価をしていただくことが多いんですけれども、水風呂が一つ、真ん中が熱湯で手前がジェット、その奥にあるのがミルク風呂です。壁絵はペンキ絵師の中島さんに描いていただいて、中央に富士山があるんですけど、本当にオーソドックスな銭湯になっています。

銭湯業界の話をすると、東京都内の銭湯の推移なんですけど、戦前が2900軒で戦後は400軒まで減っちゃいます。そこから1967〜68年がピークになっていて2687軒、つまり約20年で2200軒ぐらい増えて、そこからどんどん減っていくっていうのが大きな流れになっていまして。2687っていうのはすごい数で、現在の都内のセブンイレブンと同じぐらいあります(都内のセブンイレブンは2021年1月現在で2786店)。それぐらいどこへ行ってもあるというのが銭湯だった

なぜかっていうと…東京都の人口が戦前に700万人ぐらいだったのが、戦後は350万人ぐらいになります。それが約20年で1000万人を超えるっていう爆発的な人口増を経ていて、この時にですね、人が増える→街を作る→家にお風呂がないので銭湯を作るというわかりやすい流れだったと言えるんです。計算すると年間120軒ペースで銭湯ができていた時代になります。そこから1964年の東京オリンピックの頃にユニットバスが技術的に作られたということで、それ以降は家にお風呂を作るっていうのが急速に進んで(銭湯が)どんどん減っていくんです。

今はおおよそ500軒というのが東京都の数字ですね。全国的に公衆浴場と呼ばれるものは厚生労働省の管轄で、公衆浴場の中に「一般公衆浴場」と「その他公衆浴場」っていうふうに分かれていて、銭湯は「一般公衆浴場」で「その他公衆浴場」というのはスーパー銭湯みたいなものになるんですけど。大きなくくりの中での公衆浴場も、温浴施設全体でいくと26000〜28000というのがずっと変わっていない数字でして。なので、「一般公衆浴場」の銭湯は減っていて、「その他公衆浴場」にはスーパー銭湯とかスポーツクラブに入っているサウナとかも数に入ってくるんですけど、そういう施設が増えているという。

かつて、家にお風呂がない時代の銭湯っていうのは、いわゆるケの日ですね、「日常」の場所だったと。それが家にお風呂ができて、「日常」のお風呂っていうのは家のお風呂を指すようになりました。さっきも言ったように、温浴施設の全体数が変わっていないということは、銭湯が減って他が増えているっていうことになるので、「非日常」の体験としてのスーパー銭湯だったりというのは増えていて、温浴業界全体としては「日常」から「非日常」にスライドしていったという形になります。

そんな中で、小杉湯は小杉湯の定義づけをしていて、これがすごく大きかったなと。小杉湯のスタッフでイラストレーターをしている塩谷(塩谷歩波さん)が言っていたのが、小杉湯は「ケの日のハレ」の存在であると。日常の延長線上でちょっとホッとできる、ちょっと幸せを感じられる、心と体を整えて余白を作れる、ハレの日ではなくてあくまで「日常」の延長線上なんだという定義をしています。

これが日々のいろんな経営や運営において軸にしている考え方になっていますね。銭湯って「シェアリングエコノミー」で、お湯をシェアして番台でお金を払ってあとはセルフサービスっていうものになります。なので、人のサービスというのが介在しないっていうのが経営をしてて特徴的だなというふうに思っていて。小杉湯のお客様が平日は400名ぐらい、コロナの影響を受ける前ですが、土日が700〜800人ぐらいっていう人数になるんですけれども。基本は番台一人、裏に番頭を一人置くと運営としては回るということで、そのあたりがちょっと飲食店とか他のサービス業とは違うところだなって思っていて。

なので、「人と人とのコミュニケーション」ではなく「場所と人とのコミュニケーション」の設計をするというのが、小杉湯がすごく大切にしていることです。「ケの日のハレ」の定義づけの中で、場所と人とがどうコミュニケーションするかっていうのを考えています。この場所というのは昭和8年からの建物もそうだし、お風呂の中もそうだし、塩谷を中心に描いているPOPだったり、物販の仕方だったりとか全てに通じています。営業中もスタッフが観察しながら、場所と人とがどういう心地良い関係になるかっていうのを考えているというのが意識してやっていることですね。やってて思うのは、やっぱり人と人って評価し合っちゃうんですけど、場所は人を評価しないので「場所と人とのコミュニケーション」で運営をすると安定するっていうのもそうですし、場所に愛を込めるほどお客様もそれを感じてくれるっていうのが大きいなと思ってるんですね。

そして、「サイレントコミュニケーション」っていうのもすごくいい言葉だなと。これは小杉湯の隣にある施設「小杉湯となり」を運営している株式会社銭湯ぐらしの加藤(加藤優一さん)が言っていて。あくまで銭湯の目的は「気持ちよくお風呂に入る」ことですが、その付加価値として会話を楽しんだりとか、もっと言うと目を合わせるようになったりとか、挨拶をする人ができたりとか、そういうふうにちょっとしたコミュニティを感じられる場所だと思っています。

そこはプライベート的な場所であり、銭湯に来ている人たち同士というセミパブリックぐらいの関係でもあり、プライベートとセミパブリックの行き来になっているというのはすごくいい空間だなというふうには感じていてですね。最近はどうしてもパブリックよりプライベートに価値観がセグメントされていて、同質・同価値観の人が集まりやすくなるし、そういう情報ばかりが入ってくるようになるし。逆にパブリックっていうのは誰にとっても良い場所というのを考えてしまうので、逆に誰も使わない場所になりやすくなっちゃう。その「間」というのが抜けがちになっている中で、銭湯は「中距離のご近所関係性」を作れていると思うんですね。

うちのアルバイトの子たちは学生とか若い子が多いんですけど、みんな番台で仕事をして癒されて帰っていくんです。それっていうのは、人と人とで深い話ができるというわけでもないんだけれども、なんか挨拶をするとか、名前も肩書きも年齢も知らないけど自分のことを知っている/相手のことを知っているという存在があるという。僕もそうなんですけど、小杉湯にいると挨拶する人もいるし、高円寺の街を歩いていると挨拶する人もいるし。でも、その人が何者かを知らないっていう。ともすれば、今の世の中っていうのが名前とか肩書きがすごく重視されて、こうしなきゃいけないみたいなのを突きつけられる中で、小杉湯の中だと何者である必要性もなく、ありのままでいられるというのがすごく大事だなと感じています。近くて深くなくてもいいんだなと。たわいもない会話とかあいさつするとか、そういう関係というのが大事で。目指している空間としては「信頼と寛容」っていう言葉になるんですけど、銭湯という場所に多世代かつ多様な人たちが来る中で、お互いが信頼し合って「まいっか」ぐらいの寛容さを持てる場所をいかに作れるかっていうのは、日々模索しながらやっている状態です。


小杉湯は「環境」

図2

平松:その結果として、もう一つ定義をしたのが小杉湯は「環境」ということです。小杉湯という場所には、昭和8年から続いていて、世代を越えていろんな方たちが集まって来てくださっていて、その人たちが小杉湯に関わったりつながったり、そういう小さな共同体/生態系のようなものを「環境」と定義付けています。小杉湯がメディアにも取り上げられることが増えてきた中で、浴室でライブをやったり、いろんなイベントをやっているみたいなところを取り上げていただいていて、それはそれで一つの面にはなるんですけれども、そうした企画も集まって来てくださった方たちから持ち込まれたものが多くて。ライブやれないですかと演劇やれないですかとか、コラボレーションできないですかみたいな形で声を掛けてくれて、人と人とがつながって生まれていることがすごく多いんです。

なので、これは平松家の家訓でもあるんですけど、綺麗で清潔で気持ち良いお風呂を提供するっていうところに集約されているなというふうに思っています。小杉湯は「環境」という定義づけをした時に大きかったのは、小杉湯は場所であり「環境」であると。「環境」っていうのは意味を持たないし、主語もないし意思もない場所。それぞれがそれぞれの関わり方で、それぞれ大切にしている場所にすぎないんです。

最近のトピックとしては、小杉湯の建物が登録有形文化財に認定をされました。人が集まり、つながり、循環し、共同体になっている、そんな「環境」のような場所。その根底には、昭和8年から変わらずに続いている建物があって、変わらないお風呂屋さんをやっていて、20年後も30年後も変わらない存在である。その建物こそ大事だなと思って、いかに50年後も100年後も残せるかというチャレンジというか決意をこれからしていきたいっていう意味で、登録有形文化財に申請しました。

もう一つお伝えしたいのが、緊急事態宣言の話で。試行錯誤しながら運営していくことになるんですが、経営的にも前回(2020年4月)の緊急事態宣言でお客さんが4割くらい減っていたので。ようやく戻ってきたかなというタイミングでまた緊急事態宣言になって、一日100人くらいが減っているような状態です。

そもそも銭湯の経営って難しくて、続けるために株式会社化しているんですが(2019年に株式会社小杉湯を設立)、470円の積み重ねだけでやっていくというのはすごく大変なビジネスモデルだと感じています。そして、建物を維持していくという想いがすごく強いので、そこにもお金がかかってくる。「お客さんがたくさん来て儲かっているでしょう」みたいなイメージを持たれるんですけれど、なかなか大変だなというところがあって。日々悩みながら経営をしている、というのが率直なところです。今日はそういう普段話さないことも話せたらいいなと思っています。


私語禁止のその先に

図3

平松:今、考えていることでいうと、今回の緊急事態宣言において「私語禁止」というメッセージを小杉湯として出しました。今までは「おしゃべりを控えてください」みたいにしていたんですけれども、12月くらいにお客さんが少し戻ってきた中で一番ご意見をいただいたのが「話している人が多い」っていうことでした。

小杉湯が高円寺という多世代の人が集まる街らしく、若者からご高齢の方まで来てくださっている銭湯である中で、マスクをしない空間であることを考えた時に、どこまで経営として踏み込むべきか、考えるべきか。いわゆる感染症対策としての三密を避けるとか、換気をするとか消毒をするとか、混んでる時は入場制限をするとか大前提のことはやりながら、結果的にマスクなしで会話されてしまうとそれを気にされてしまう方もいらっしゃる。ということがあって、悩み抜いた末に今回の緊急事態宣言においては「私語禁止」っていうことを強く言うことにしました。良い面も悪い面もあったんですけれど、良い面というのも変なのですが、実際「私語禁止」という言葉は早くて強くて、僕も見回ってお声がけをしたりしているので、9割以上の方には静かにお風呂を楽しんでいただいている。

今の小杉湯は本当に静かなんです。逆に言うと、しゃべっている人がいると目立っちゃうっていうのがあって。ただ、「私語禁止」という言葉を使った時に、いろいろな音を楽しむとか、お湯の柔らかさを感じるとか、しゃべらなくても他者を感じられるとか、それによる寛容さみたいなものが今の小杉湯にはあるんです。この空間も、緊急事態宣言が出て初めて気づきや発見があったなというふうに思っています。実際、2〜3年後のことはわからないですけれども、宣言が明けたとしても小杉湯として「私語禁止」というワードを外せるかというと、それは難しくてですね。そこに対して心配になる方もいらっしゃるし、不安を感じる方もいらっしゃる。だから、「私語禁止」という言葉を使い続ける必要性はある。

ただ、NOと言い続けるのは本来やりたい銭湯経営ではないですし、非常に短期的な言葉になっちゃうので。今だからこそみんなで気を遣い合って、お互いを信頼し合って、お互いが気持ち良く入れるように配慮をして、大きな声では話さない場所…教会とか神社に行った時のように声を抑えてしゃべるような空間…小杉湯としてそっちの方にいかないと、経営として難しいんじゃないかなと。このあたりは今、どういうふうに伝えていくかというのは悩みつつではあるんですが、もう元には戻れないという前提に立ちながらやっているというのが正直なところです。

そういう中でも、綺麗で清潔で気持ちの良いお風呂に入るということが、あくまで銭湯の最上位の目的だと思っているんですけれども。その付加価値として、顔なじみとの会話を楽しむみたいなところが銭湯の良さだと言われていると思いますし、それが元に戻せないかもしれないというのは大きなテーマだと思っています。もちろん、どこのお風呂屋さんも大変だと思いますし、小杉湯としても日々頭を悩ませながら経営をしているというのが現状になります。いろいろと聞いていただき、現状をお伝えできたらなと思いますので、よろしくお願いします。


聴き湯タイム

図4

まっつん:ありがとうございます。いや、すごいプレゼン。ぜひ、今日参加している皆さんからコメントもいただきたいので、実際に小杉湯に行ったことがあるよっていう方、おしゃべりできる方がいたら。

平松:ありがとうございます。もしいけそうなら、げんたさんいけますか。 

げんた:はい、げんたです。はじめまして、よろしくお願いします。僕は高円寺が地元でして。

平松:まじですか。

げんた:小杉湯にはよく行きます。特に土日の朝湯が好きで。午前中の明るいうちにお風呂に入る幸せというか、あれが好きでよくリラックスしに行っています。あと、大学時代に卒業論文で、社会学部という学部だったんですけど、銭湯のことを書いたんですね。その時に平松さんのお父様にインタビューさせてもらったことがあって。そういうわけで、利用する以外で銭湯と関わりたいという想いがずっとあって。今回、参加させてもらいました。

平松:ありがとうございます。

まっつん:すごい、そんな繋がりがあったんですね。

げんた:いつも利用させていただいてます。

平松:ありがたいです。お店で会ったら、お話しましょう。

まっつん:朝風呂、今日僕も行ったんですけど、さっき言ったように「私語禁止」ということを皆さんが理解していて、なんだか尊い空間でした。結構人がいるのに、みんなひたすらお湯を楽しんでいるという状態でしたね。小杉湯に行ったことがあるよっていう方がいらっしゃったら、もしよければミルク風呂の感想とかでいいので。

平松:順番にいってみましょうか。

まっつん:そうですね。よこちさん、お願いできますか。

よこち:小杉湯は2回ほど行ったことがありまして、タオルとかも良いものを使っていて、めっちゃいいですよね。あと、「入浴剤を売る」っていうのが他の銭湯にはないと思うのですけど、どういう意思決定でやられてるんですか。

まっつん:すごい、良い質問。

平松:ミルク風呂とかですかね。

よこち:はい。

平松:よこちさんが言ってくださっているのは、「銭湯のある暮らし便」というECサイトで、株式会社銭湯ぐらしが企画運営しているものなんですね。

株式会社銭湯ぐらしとは何ぞやというと、小杉湯の隣に風呂なしアパートがあって、それを解体するというのが決まった時にたまたま1年空き家になるということで。その時はちょうど僕が小杉湯で働き始めた頃(2016年12月)なんですけど、なんか1年もったいないよねっていうことで、小杉湯に来てくれた建築家を紹介してもらって、その人が提案してくれたプロジェクトというのが「銭湯ぐらし」だったんですよ。空き家がもったいないから、小杉湯のファンの人たちが銭湯の隣に住んで、銭湯のある暮らしを1年間してみようよみたいな。

それをやった結果、銭湯のある暮らしというのが日常のなかで余白を感じられてすごくよかった。働き方とか暮らし方が多様化している中で、暮らしの中で余白を感じられるのはすごく大切で、自分たちがこの1年で感じたことを伝えていきたいよねっていうことで。アパートは壊すことになったけど、銭湯ぐらしというプロジェクトは続けたい。じゃあどうやって続けようかってなったときに、せっかく色んなメンバーが集まってきていたので株式会社化することで続けてみようってなったんですね。その株式会社銭湯ぐらしが運営しているのが「小杉湯となり」で、銭湯ぐらしは小杉湯のファンが集まって繋がって、自分たちが体験した銭湯のある暮らしを伝えたいチームなんですよ。

前回の緊急事態宣言の時に銭湯に行けない人がすごく増えてしまっていて、自宅でも銭湯のような体験ができないか、小杉湯でやっているお風呂をオンラインで届けようということでやり始めた、というものになるんですね。だから、あれは小杉湯自体がやっているのではなくて、小杉湯のファンの人たちが集ってやっているものとなります。

よこち:そうだったんですね。

平松:そうなんですよ。若干ややこしい(笑)

まっつん:ファンによる運営だったんですね。じゃあ、よければ順番に一言ずつ。次はたにもとさん。

たにもと:はじめまして、たにもとと申します。よろしくお願いします。お話、メモが止まらなくて楽しく聞かせていただきました。

感想になっちゃうんですけど、たわいもない話をすることが今とても大事っていうふうにおっしゃっていて。プライベートと会社とか社会との間に銭湯という空間があって、あまり知らないけれどよく見かける人と挨拶をするっていう感覚が特に東京とか都市部だと少ないし、今の時代、知らない人には話かけちゃいけないっていう教育もされてる中で、それがすごく懐かしい感覚だなというふうに思って。私は大分県の田舎で育って、小学校の行き帰りの道とかで近所の人に会った時に全然知らない人だけど「こんにちは」とか言いながら歩いていて、そういうのを思い出してなんかあったかいなと思いました。

平松:なるほどな。たしかに!

まっつん:良い話。じゃあ、次はみむちゃん。

みむちゃん:運営のみむちゃんです。(平松)佑介さん、お疲れ様です。

平松:はーい、お疲れ様。

みむちゃん:よく話してるから何を聞こうって感じではあるんですけど。さっきのスライドを見ててふと思ったことがあって。

中距離のコミュニケーション…おばあちゃんたちとかってお風呂で友達に会ったりとか、「今日早かったね」みたいなことをよく言ってるなと思って、そこへコミュニケーションを取りに来てるんだなとは思うんですけど、なんか私はあんまりお風呂で知り合いに会いたくなくて。ただ、友達に広めたりとか、その後に一緒に「ご飯行こうよ」とかっていうの好きなんですけど。純粋にお風呂に入るときはサウナとか自分のペースで入りたいなとか思うから、知り合いと合わないでひたすら自分と向き合ってたいんですよ。だから、年代によってお風呂に対するコミュニケーションの求め方が違うのかなと思って。それを中間にしたのが、「中距離のご近所関係性」なのかもしれないですね。通ってたら顔見知りはできちゃうし、って思いました。

平松:ちょっとした挨拶とか天気の話とか、それぐらいがちょうどいいのかなとは思うけどね。小杉湯は交互浴をする人が多いので、おのずと長い話にはならないっていうのも含めていいんだろうなっていうのは感じてます。

まっつん:お風呂に求めているものが各自いろいろある中で共存しているっていうか、なんとなく一緒にいるのが寛容なのかなとも思いますけどね。

平松:なので、それをこれからどうしていくかっていうのは結構悩ましくて。少なくとも半年、もうちょっとなのかもしれないけど…「会話をしないでください」ってお願いをしなきゃいけない中で、やっぱりお声がけをするのも疲れちゃうし、スタッフも疲弊してきちゃうんで、ずっと「ノー」を言い続けるのはしんどいなっていうのがあって。だから、そうなった時にしゃべらなくても人とのつながりを感じられる、目を合わせて会釈するっていうだけで十分みたいなところはその関係性には含まれていると思うので、今はそれを感じてもらう時期なのかなとは思っていて。

みむちゃん:「サイレントコミュニケーション」の良さも感じられる機会になったから、そういう意味ではポジティブに考えられますね。

平松:そんなんだよね。「緊急事態宣言だから」みたいになってしまうと、それは「緊急事態宣言」というワードが取れちゃうと元に戻っちゃうんで。なかなか、すぐには元に戻せないっていう現状があるから。だからこそ、銭湯という場所が本質的にどういう場所なのかということに向き合い続けられるかが大事だなって思っていますね。

みむちゃん:ありがとうございます。

まっつん:そういえば今日、熱湯の方にみかんが入ってましたよね。あれは、ハナウタカジツさん(銭湯再興PJメンバー)の方から手が上がった感じですか。

平松:ハナウタさんとは、SNSがきっかけで繋がった感じだね。小杉湯においては、いかに気持ちの良いお風呂をお客さんに提供できるかというのを日々考えていて。例えば、冬至にやるゆず湯とかこどもの日にやる菖蒲湯とか「薬湯」と呼ばれるものって、業務用の入浴剤とはまた違った気持ち良さがあるので。そういったものをもっとお客さんに提供できないかなと考えた時に、農家さんとか生産者さんから流通させられないようなものを譲っていただいて。それをお風呂に入れさせてもらって、番台の前で果物を販売するっていうことをやっているんですね。

だから、その循環の中で生産者さんと一緒に気持ちの良いお風呂をお客さんに提供するっていうのを3年ぐらいやっているっていうのがまずあります。それが、結果的に生産者さんを応援ってわけじゃないけど繋がればいいなと思いますし、何よりもお風呂に入れているものの顔が見えて安心できるっていうのが大事だなって思って。そういう「もったいない風呂」っていうやり方を小杉湯は取ってます。

まっつん:なるほど。それと「私語禁止」に関して、お客さんからご意見いただいたりとかっていうことはありますか。

平松:「私語禁止」に対して、今は緊急事態宣言が出ているのでそこに対して反対する人っていうのはいなくて、基本的には皆さん協力していただいているっていうのがまずあります。当然、しゃべりたいっていうのはあるので、そこに関しては今は我慢をしてもらっている感じではあるんですけれども。じゃあ、緊急事態宣言が明けたからといってしゃべっていいのかっていうと、やっぱり難しいなと思っていて。しゃべっちゃダメなんで来ないでくださいっていうことになると、今度は経営が難しくなっちゃうので。話せないっていう中で、今までとは違うかもしれないけど銭湯をすごくいいよねって思ってもらうにはどうすればいいかみたいなことはやっぱり考えていかないとなと思ってやってるという感じです。


今、銭湯に集う若者たち

まっつん:そもそも、この銭湯再興PJというものができたのが2018年の春なんですよね。そこから3年ぐらい経つんですけど、発起人としての平松さんから今後このプロジェクトがこういうことをしていったらいいんじゃないかとか、あるいは銭湯の側からこういうことをしてくれると助かるなっていうことがあれば聞いてみたいです。

平松:もともと、銭湯再興PJは「アップデートをしていこう」っていうところが名前を付けた理由にもあるわけなんですけども。落合陽一さんの『日本再興戦略』(幻冬舎、2018年)っていうのが出たタイミングでもあったので「再興」という言葉を使ったっていうのもあったんですが。「アップデート」っていうのはすごくいい言葉だなと思っていて。昔ながらのことや今までやってきたことを否定するわけではなくて、これまでやってきたことを大切にしながらも長く続けていくために変化をしていくということは、87年続いてこれから50年も100年も続く銭湯を目指していくとなるとすごく大事になってくると思うんですね。だから、日々やっていることとして、いかに小さなアップデート積み重ねられるかっていうのをすごく大切にしているという意味も込めています。

当時はオンラインサロン界隈みたいなところがざわざわし始めたタイミングだったのもあり、小杉湯の塩谷と共に、色々な人を紹介してもらって「やってみようか」ぐらいでやり始めたっていうのがきっかけでした。やってみて良かったなって思うのは、小杉湯に関わりたいとか、銭湯にもっと関わりたいみたいに思ってる人たちがすごく多くいたことが可視化できたこと。手を上げる場所があるっていうのはすごく大事だと思いました。当時、すでに「東京銭湯」というメディアにいろんな人が集まるようになっていたりとか、関西の方では湊くんが梅湯をやってとか、そこで新しく若者が関わってきたりとか、銭湯業界のことをもっと知りたい関わりたいって思う人たちが手を挙げられる場所があるっていうのはすごく大事だと感じたんで。引き続き、これが3期目ってことになるんですけど、運営はもう僕がやるのではなくてまっつんとかみむちゃんとか1期のメンバーが続けてやってくれているというのはすごく良いことだなと思っていて。

銭湯業界にいる身として、しかも僕の場合は1980年生まれで、生まれた時からすでに斜陽産業だったので。出会った人に「実家が銭湯です」って言うと、必ず返されたのが「大変だね」なんですよ。実際、大変なんですけど、その中で両親もすごく楽しそうに働いていたし、僕のおじいちゃんの代から地域に愛されている銭湯なので、世の中が持っているイメージと僕が見ている風景とのギャップを感じていて。とはいえ、36歳の時に継ぎたいと思って会社を辞めて、こうして働き始めているわけですが、銭湯を継ぐっていうのは孤独な戦いみたいにずっと思っていて。社会から切り離されて、それでも頑張んなきゃいけないみたいに思ってたんですね。子どもの頃から、ずっと「大変だね」と言われ続けていたから。でも、蓋を開けてみると、若い世代に改めて注目をしていただいていたりとか、これまでも僕の父親の世代の人たちとか銭湯組合で頑張ってることもすごくあるんだけど、皆さんが頑張って続けてくださったおかげで、銭湯でもいろんなことがおこなわれるようになっていたりっていうのはあんまり想像していなかったんです。

だから、一番最初に銭湯再興PJをやって思ったのは、こうやって集まってくれること自体にすごく価値があるんだって。そもそも誰も見向きもしない業界だと思ってたので、「関わりたい」とか「知りたい」とか思ってもらえる未来を僕は想像していなかったので。だから、こういうオンラインサロン的なものができて、直接的に銭湯の廃業を食い止めるというような大きなことを成し遂げる必要はないというか、そこを目指さなくてよくて。銭湯っていうキーワードで集まった人たちが、今はできないかもしれないけど一緒にいろんな銭湯を回るでもいいし、今(Slackの)チャットでおこなわれているような自分が行った銭湯を共有するでも僕は全然ありがたいなって思いますし、良いことだなって思うし。本当にちょっとしたことでいいので、自分が関わる範囲でアクションを起こしてくれる人たちが前はいなかったので、そういう存在自体がすごく大事だなっていうのは思っているから。こうやって1回目は僕が出たんですけど、他の銭湯経営者がどんなことを感じているのか、考えてるかっていうのを皆さんが知るだけでも全然いいと思うんで。そういう銭湯っぽい、変に頑張りすぎず続いていくプロジェクトになる方がいいんじゃないかなと思ってます。

まっつん:ありがとうございます。そうですね。僕も今回、続けてやってみたいなと思ったのは、やっぱりそういう「緩やかに集まれる場所」っていうのを作りたいという想いあったので、あまり気を張りすぎず、それこそ銭湯を楽しむようにコミュニケーション取りつつ、いろんな方のお話を聞いていきながら自分たちにできることを考えていけたらなと思っています。

今日は第一回聴き湯会ということで、小杉湯の平松さんにゲストで参加いただきました。次回も予定をしておりまして、2月は銭湯再興PJ卒業生の金春湯 角屋文隆さんにお話を聞く予定です。実際にプロジェクトメンバーだったところから、脱サラして家業を継ぐというストーリーを聞けるかと思います。

平松:素晴らしい。

まっつん:金春湯の番台で働かれている方もメンバーに入ってくださっているので。

みむちゃん:今日は番台にいて、忙しくって参加できないそうです。

平松:そうなんですね。

まっつん:そこはすでに繋がってるんですね、それと、当面は30人でメンバーは変えずにやってこうかなと思ってます。

平松:うん、いいと思います。

まっつん:今日せっかく貴重なお話を伺ったので、何かしらの形で発信しつつ、こういう活動をしてますよっていうのもできたらなと。編集の方だったりとかいらっしゃるので、その辺も一緒にできたらなというふうに思っております。

では、第一回の聴き湯会はこれで終了にしたいと思います。平松さん、今日はお忙しいところありがとうございました。ぜひ、皆さんも小杉湯の朝風呂へ。

よこち:8〜12時とかっすか、朝風呂って。

平松:朝8時から、休憩を挟まないので深夜1時45分までです(笑)

まっつん:お昼前ぐらいが狙い時ですよね。

平松:10〜11時ぐらいから昼の2〜3時ぐらいが空いてますね。

まっつん:それでは、終わります。皆さん、ありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

図5

開催日:2021年1月31日
執筆・編集:たにもと、まっつん
バナーデザイン:みむちゃん

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