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【女湯事件ボ29】銭湯で初めて口にした言葉

「私、令和って初めて言ったわ。」
隣に浸かっていたご婦人は、そう話した。。

令和になるちょっと前。
その日の入浴剤は「新時代の湯」
というおめでたい湯だった。

おそらく年号が決まる前に
その入浴剤は作られていた様で
「新時代の湯」なワケだ。
確かそれはそれはスキッとした真っ青な色で、
新しい何かを期待させるものだった。

後から、、浴槽に入ってきたご婦人が
看板をみて「?」となっていたので、
私は「令和ですね!」と声をかけた。

「あぁ!そゆこと!
 令和の湯ね。
 私、令和って初めて言ったわ。」

旦那さんが亡くなってしまったので、
そのようなニュースを話す人が
今、身近にはいないらしい。

新時代の湯

その時間帯、常連さんグループはいたが、
どうやらそのご婦人は
グループには属さないようだった。
すべてのご年配の方が、
毎日銭湯でおしゃべりをしているかと言うと
そうではない。

でも、銭湯に来てこうして
「令和」と言えて良かった、

そんなことを話してくれた記憶がある。

今はもう令和4年の秋に差し掛かる。。
それでも私はたまにこうして、
令和の湯に一緒に浸かったご婦人を思い出す。

合わせて、1人で過ごすことが、
誰かに先立たれた暮らしが
どんな心細いものかと思う。。

最近銭湯に行くとそんなことばかり
考えてしまう。

やすこ。

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