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意図的な引き延ばしによる反応時間

【信号に対する反応時間は、200~300msである。被験者に100ms、意図的に反応を引き延ばすよう指示すると、結果は600~800msになる。これは、刺激を意識化するのに必要な約500msで説明可能だ。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))】


 「三番目の証拠は、思いがけず、カリフォルニア大学バークレー校の心理学の教授アーサー・ジェンセン(1979年)の一見関連性のない実験から現われました。ジェンセンは、異なるグループの被験者の反応時間(RT)を測定していました。通常のテストでは、前もって決められた信号が現れたらできるだけ早くボタンを押すように、被験者に指示していました。ジェンセンの実験の被験者が示したRTは、採用した信号の種類によって、200~300ミリ秒間の範囲でした。別の被験者グループの間で平均RTに差があったため、ジェンセンは、ある被験者が意図的にRTを引き延ばそうとすることによってある程度の差が生じる可能性を排除しようと考えました。そこで彼は、すべての被験者に、以前のRTよりも100ミリ秒間程度、意図的に引き延ばしてRTを繰り返すように指示しました。彼が驚いたことに、指示通りにできた被験者は一人もいませんでした。その代わり、被験者が記録したのは指示されていた小さい延長分よりもずっと長い、600~800ミリ秒間のRTでした。
 ジェンセンが、私たちの意識を伴う感覚的なアウェアネスの500ミリ秒間の遅れについて聞いたとき、彼は自分の奇妙な発見がこれで説明がつくに違いない、と気づきました。意図的なプロセスによってRTを引き延ばしたい場合、被験者はまず刺激に気がつかなくてはならない、と推測できます。通常のRTテストで被験者が反応した瞬間には、刺激へのアウェアネスはおそらく必要なく、そこでは反応への意図的な操作は問題にはなりません。(実際、通常のRTは刺激へのアウェアネスなしに、またはアウェアネスの起こる前に発生するという、直接的な証拠があります。)しかし、意図的に遅らせた反応の前にアウェアネスが生じるには、約500ミリ秒間の活動というアウェアネスを生み出すための必要条件が、そのぶんだけ反応を遅らせます。これで、意図的に反応を遅らせることを試みた場合、300~600ミリ秒間増えるRTの非連続的なジャンプの説明がつきます。このことが、ジェンセンの発見についての唯一、筋が通った説明となります。また、感覚的なアウェアネスにおける0.5秒間の遅れについての、さらに説得力のある証拠となります。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第2章 意識を伴う感覚的なアウェアネスに生じる遅延,岩波書店(2005),pp.63-64,下條信輔(訳))
(索引:意図的な引き延ばしによる反応時間)



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