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ミスチルの背中を見ながらライターの山を登っていた――sentenceLIVE #6 イベントレポート(有料動画つき)

「Webライターとしてお仕事をしたいけれど、どんな風にキャリアを積めばよいのだろうか」

そんなお悩みの声をsentence内でもよく見かけます。私もそう思い悩む一人です。

書くことが好きで、仕事にすると決意した。しかしどんな風に進んでいったらよいのか、地図の全体像の前に、進む方角すらよく分からない。ただただ目の前のことに取り組む日々。

あるいは「すでにWebライターとしてお仕事を受けているけれど、この先どんな風にキャリアを描いていったらよいのだろうか」「今はよいけれど、5年後のことを考えると不安になる」という声をWebライターをしている人の間でもよく聞きます。

8月19日に行われたsentence LIVE第6弾『カツセさん、Webライターが小説を書いてみて、人生どうなりましたか?』で、カツセマサヒコさんはそんな私たちにとって示唆に富むメッセージをたくさんくださいました。

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謙虚な姿勢で繊細な微笑みを見せつつ、少し鼻にかかった甘く響く声で、言葉を繰り出すカツセさん。その芯ある言葉の数々をみなさまにもお伝えします。

当日はカツセさんのご友人であり、ライター・編集者として活躍する長谷川賢人さんもトークに参加。モデレーターはsentence運営の西山武志さんが務めました。

参加者のみなさまのツイートは「#カツセナイト」で下記のリンクからご覧ください。

https://twitter.com/i/events/1296256376658780163

「幹と枝葉」でスキルセットを考える

カツセさんのライター・編集者としてのキャリアのスタートは、転職先の編集プロダクションにて。前職でやっていたのは総務の仕事。趣味でブログは書いていたものの、業務としての編集やライティングは未経験の状態でした。

編プロに入ったカツセさんは、取材音源の文字起こしから、地道にスキルを磨いていきます。記事を書かせてもらえるようになってからは、グルメやエンタメ、ビジネスなど、真面目なものからおもしろ系まで、がむしゃらにあらゆるジャンルの取材・執筆に挑戦していきます。

「駆け出しの頃は、どんな仕事でもほとんど受けていた」と語ったカツセさん。その理由を、次のように話していました。

カツセ:「仕事が仕事を連れてくる」と思っていたんですよね。目の前の仕事を一所懸命にやっていれば、その仕事が次の大きな仕事を連れてくるはずだと。この考え方は、今でも変わっていません。

あと、僕は自分のスキルセットを「幹と枝葉」のイメージで捉えていて。「幹」はインタビューの技術や文章力など、基礎となるライティングスキル。「枝葉」はそこから派生する、専門性や独自性のあるスキル。たとえば「楽曲のレビューが書ける」とか、「妄想で文章が書ける」とか(笑)。

未経験でこの業界に入った当時は、とにかく「幹」を太くしないと、と思っていました。それに、「自分がどんな枝葉を伸ばしていけばいいのか」も、まだ見当がついていなかった。なので、選り好みをせずに多様な仕事をして、いろんな経験を積みながら、自分の適性を探っていましたね。

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ゲストのカツセマサヒコさん

小説を出版後、瞬く間に重版が決まり、トークイベントにも引っ張りだこなカツセさん。そんな彼にも、がむしゃらにあらゆる記事を書いていた下積みの時期があったのだと思うと、励みになります。

「物語を書くこと」は、伸ばそうと決めて丁寧に育てた枝葉だった

コツコツと幹を育てていったカツセさんは、やがて枝葉の行く先を見出していきます。Twitterでの妄想ツイートが人気を呼び、その延長線上でコラムやショートストーリーの執筆依頼が来るように。そして2018年、ついに小説の出版の話が決まりました。しかし、それまでにも出版の依頼は、いくつかあったのだとか。

カツセ:ツイートのまとめ本やエッセイ本の出版の依頼は、小説の話が来る前から、数本もらっていたんです。けれども、それらはすべて断っていました。先のことを考えてみたときに、それらの本を出しても「自分が変わらなさそう、キャリアが広がらなさそう」だと感じたから。

本って、僕にとっては大きな存在で。どうせ出版するなら、それで人生を変えたいと思っていたんですよ。その力を一番持っているのは、小説じゃないかな、と。今までやったことのない小説を出版できたら、その先の人生は少し変わるかもしれないし、自分もそこに挑戦してみたい。

だから「出版の話は、小説で来たら受けよう」って決めていたんです。そのために、「物語を書く」ことに繋がる仕事を積み上げていこうと思って、周りに「こういうことを書いてみたい」と公言して、ストーリー性の強いコラムやショートストーリーを書く案件を、積極的に引き受けていきました。

カツセさんが伸ばそうと決めた「物語を書く」という枝葉。それは140字のツイートから始まって、少しずつ仕事に繋がり、書く長さも段々と伸びていきました。「スキルを幹と枝葉で捉える」「仕事が仕事を連れてくる」というカツセさんらしい仕事の向き合い方、積み重ね方が、最終的に小説出版の依頼を引き込んだのだな、と感じました。

目の前の仕事に、常に全力で取り組むこと。先を見すえて、引き寄せたい仕事に繋がる小さな挑戦を、自ら積み重ねていくこと。

この両輪が、カツセさんを今いる場所まで運んできたのだと、私は思います。

「自分にとっての幹は何か」
「これから伸ばしたい枝やつけたい葉や実、咲かせたい花はどんなものか」

この例えを自分の立場に置き換えて考えてみようと思います。

みなさんにとっての幹、枝葉は何ですか。
たどり着きたい場所は、どんなところでしょうか。

小説は書き続けるけど、「気軽に仕事を頼めるライター」でもあり続けたい

小さな挑戦を積み重ねて、待望の小説制作の仕事を引き寄せたカツセさん。出版の話が決まってから、どんな思いで作品を書かれたのでしょうか。

カツセ:書く前からひとつだけ決めていたことがあって。それは「誰かの記憶に触れる物語をつくろう」ということ。読んだ人たちが「ここに書かれているのは、自分のことだ」って感じてくれる話にするのが、目標の一つでした。

ここで、話を聞いていた長谷川さんが「狙い通り、すごく感情移入したよ」と笑いながら、感想をシェアしてくれました。

長谷川:『明け方の若者たち』では、カツセくんが日々Twitterで磨いてきた短文のキレがいかんなく発揮されています。リズムがよくて、その勢いで読み手の心を一気に物語の世界に引き込んでいく力がある。いつの間にか登場人物に自分を重ねてしまって、気づいたら泣いてましたよ(笑)。

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ゲストの長谷川賢人さん

友人でもある長谷川さんからのコメントに、カツセさんも嬉しそうに答えます。

カツセ:あらためて言われると照れるね(笑)。出すまで、ホントにどんな感想が来るのか不安でしたけど、たくさんの読者さんから「ストーリーに没頭していました」「普段、本ってあんまり読まないんですけど、これは一気に読んじゃいました」って声をもらえて、とても嬉しかったです。「届けたい人に届けられたな」って感じがして。

『明け方の若者たち』の評判は想像以上に広がり、発売前に重版を重ね、1か月後までに6刷りに。作家デビュー作としてはなかなか類を見ないほどの大ヒットを記録しました。

しかし、小説の好調な売れ行きとは裏腹に、カツセさんは「ぜいたくな悩みかもしれないけど」と前置きを置いて、こんな話をしてくれました。

カツセ:小説という新しい幹ができたことによる影響が出ているというか……僕自身は仕事を選んでいるつもりはないのに、「あの人は小説を書いたから、もうPR記事の案件は気軽に頼めないよね」などと周りの見方が変わってきて、ちょっと仕事の波が引いている気がするんです。
僕は今後も小説を書き続けますが、だからといってライターの仕事をやめるつもりはなくて。作家業だけで食べていくって、本当に大変なことですし、ライターとしていろんな人にインタビューすることで、また違うアイデアの種がもらえたりすることもあるんです。

今後もライターとしての仕事を続けていくために、「気軽なお兄さんですよ」というスタンスを保って、周りが声をかけやすい状況をつくっていきたいと語るカツセさん。そこから話題は、「いかにライターとして、今後10年生き延びていくか」という、仕事人の生存戦略の話に移り変わります。長谷川さんは、プロインタビュアーの吉田豪さんのエピソードを引き合いに出しながら、インプットの大切さを指摘します。

長谷川:吉田豪さんは30代の頃に、直接仕事に関係のない本もたくさん読まれていて、それが40代以降の仕事の財産となったそうです。これからの10年で学んだものが、次の10年の財産になるんですよね。

カツセ:確かに仕事って、過去の積み重ねから生まれてくるものですよね。「今できること、今ある知識」だけに頼っていたら、いつか枯渇してしまう。先輩たちを見習って、インプットはずっとし続けなくちゃなと、あらためて思いました。

そうおっしゃるカツセさんの表情は、きゅっと引き締まって見えました。

違う山の上にいる憧れの背中を追いながら、ライターの山を登っている

業界の先輩の話から繋がって、長谷川さんがふと思いついたように「カツセくんって、ロールモデルにしているライターさんとかいるの?」と聞きました。これに対するカツセさんの返答は、とてもユニークで、らしさの光るものでした。

カツセ:僕にとってのロールモデルは、時期によって変わったり、複数いたりするんですけど……そのうちのひとつがミスチル(Mr. Children)さんなんですよ。中学生の頃からずっと好きで、憧れているアーティストです。できることなら、彼らのようにカッコいい存在になりたいと、真剣に思っています。

だから、すごく意識しているんです。ミスチルが今の自分の年齢のときにどんな音楽をつくっていたのか、インタビューでどんな発言をしていたのか。それと自分の現在地を照らし合わせて、もっと頑張ろうって思ったりする。「ミスチルだったら今頃何をしているだろう、どう判断するんだろう」って、よく考えたりしてきました。


ロールモデルに置いた人になりきって、目の前の物事について考えてみる。カツセさんはそうやって、これまでの仕事の選び方や作り方、そして自分の在り方を調整してきました。

カツセ:今回出した小説も、ありがたいことに売れ行きは好調で、素直に嬉しいなと感じる一方、僕はやっぱりどこかで「まだまだだ」って思っているんです。周りからは「もっと調子に乗ってもいいのでは?」って冗談交じりに言われるんですけど……1冊1,500円の小説が何万部売れたって、ツアーをやる度に8,000円のチケットで数十万人を動員できるミスチルを目標にしていたら、調子に乗りようがないんです(笑)。

あと、僕は「noteで有料記事を書かない」「オンラインサロンはやらない」といったマイルールをつくっているんですけど、それらもミスチルの音楽に向かう姿勢から学んだことです。彼らの楽曲はいつだって外に開かれていて、だからこそ普遍性を持ち、時代を超えて多くの人の心に届いている。僕も物書きとして、そういうものがつくれたらいいなと思っています。

「ライターなのに、真面目にミスチルを目指すなんて、まったくの別世界だし、おかしくない?」と思う人もいるかもしれません。けれども私は、カツセさんの真摯な語りを聞いて、それは全然おかしいことじゃない、むしろ素敵なことだと感じました。

長谷川:カツセくんは、自分とは違うジャンルの山を登っている人の背中を見ながら、ライターの山を登っているんだね。業界にとらわれず、憧れを特別視せず、参考になりそうな要素は、貪欲に自分の思考や言動に取り入れている。だからこそ、いま幅広いフィールドで活躍できているんだなあと、今の話を聞いてあらためて感じました。

おふたりの話からたくさんの熱をもらえた本イベントは、大盛況のうちに幕を閉じました。

私の登りたい山、目指したい背中は何だろう?

私は地方出身で、現在も地方在住です。アーティストや著名人はもちろん、“都会の人たち”も、どこか「自分とは違う世界の住人」と無自覚に思ってしまっているところがあります。

もちろん、必ずしも目標を自分の外におく必要はありません。しかし、私の場合、それは謙虚なわけではなく、視野が狭いだけなのかもしれないと感じました。だから一度「自分だったらどうだろうか」と振り返ってみるのは良さそうです。

いま自分がWebの仕事をメインにやっているからといって、Webの世界だけを土俵だと思いこまなくていい。目標は叶わなくても高めに設定することが、大事なのかもしれない。今回のイベントに参加して、私はそんな風に考えるようになりました。

自分がなりたいもの、憧れている人、生きたい世界観を、どう自分に落とし込んでいくのか。まずしっかりと、自分の目標を認識し直すことから考え直していきたい。

そのためにもまずは、目の前のことをしっかりやる。一つひとつの仕事を丁寧にやって、いいものをつくり、結果を出す。自分が決めた目標を達成するために、コツコツ積み上げていく。

そっか、考えることはたくさんあるけど、やるべきことは結局シンプルなんだ。

カツセさんと長谷川さん、おふたりの話から私は、今後長らく登り続けるための勇気をもらいました。

イベントの内容をもっと知りたい方へ

この記事でお伝えできたのは、本イベントのほんの一部です。ほかにもたくさん、いい話がされています。「イベントの様子をもっと詳しく知りたい」という方は、本noteを購入いただくと、当日のアーカイブ動画をご視聴いただけます。(記事末尾に動画URLを記載)

また、ライティングコミュニティ「sentence」の会員になると、このイベントだけでなく、sentenceが過去に企画したイベントのアーカイブ動画をすべて視聴できるようになります。

過去にはこんなイベントも開催されています。

「一通りのイベントのアーカイブ動画を見てみたいな」と思った方、ぜひsentenceへの入会をご検討いただけたら嬉しいです。sentenceにはイベントの動画だけでなく、書き手向けにさまざまなコンテンツが用意されています。一緒にライティングを学び合いましょう!

この記事を書いた人:黒木萌さん
1987年宮崎県延岡市生まれ。2018年から地元でライターとして活動を始める。関心領域は子育て/教育/福祉/包摂(インクルーシブ)/まちづくり/家族/コミュニケーションなど。のべおか読書会・読書キャンプ in 須美江・旅する個人図書室「ひらく」・ノベオカ一箱古本市など本に関するイベントも多数主催。
Twitter:https://twitter.com/moe_kurogi
note:https://note.com/hirakumoe

編集:西山武志、sentenceメンバー

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sentence オフィシャルHP:https://sentence.inquire.jp/sentence
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