尼僧の恋6「メール」
返事はいらないと手紙に書いたくせに、本当は死ぬほどその返事を求めていました。
せめて届いたか否かくらいは知りたい、などという身勝手な願望は、恋愛偏差値低めの21才の女には抗いがたい強さがありました。
大学在学中だった私は、用事を作って大学の図書館に行くと、PCからメールを送るにいたります。
もはや支離滅裂で訳が分からない。
カッコがわるいったらない。
返事はいらないんじゃなかったのか。
ふったんだからもう済んだ話じゃないのか。
というか師匠にバレたら怒られるんじゃないのか。
それらの葛藤を瞬間的に跳ね返して余りあるほど、彼を思う気持ち、というよりは失った恋をどうにかしたいという気持ちが私を支配していました。
もはや彼の面影に重ねて、片思いしかしてこなかった哀れな自分を救済しようとしていたのかもしれません。
送ったメールは案外すぐに帰ってきました。
彼は生来の無精者で、郵便受けなどめったに確認しない男でした。
今は出先で、帰ったらすぐ探して読むからと返信がきて、私はそれを読んで脱力しました。
そう、そういう奴だよあいつは。
途端に笑えてきて、なんだかそれまで清姫よろしくトグロを巻いていた情念から、ぷしゅーっと空気が抜けてぺたんこになっていくような感じがしました。
腹立たしさと可笑しさと、たぶんどうしようもない愛しさで、
ばかやろう、郵便受くらい毎日確認しとけ!!
と、出家前の自分のように、微塵も色気のない返信をして、その日は寺に帰りました。
後日、後輩からのメールの返信が届きます。
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