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給糧艦「間宮」搭乗員座談会(上)ー40畳分の「間宮ようかん」作り。戦時下の軍隊迎合記事が貴重な記録に。

 戦前の代表的な女性雑誌「主婦之友」。当時の風俗や世相を伝える資料として収集しております。並べて読んでみると、戦時下の生き残り策か人々の関心からか、日中戦争開戦以後、年々、軍関係の記事が増えていきます。そして太平洋戦争目前の1941(昭和16)年6月号。こんな特集記事が!

主婦之友1941(昭和16)年6月号
「海のお台所」の見出しが主婦向け雑誌らしさを残します

 「海のお台所 特務艦乗組員の座談会」と題して7ページにわたって特集を掲載していました。「間宮ようかん」を始めとする甘味の供給はもとより、艦隊を動かす「人」のために存在した、ある意味戦争を底から支えた間宮の内情が、主婦向け雑誌ならではの視点でまとめられていました。戦争とは人が行うことという当たり前のことがユーモラスでありながらきちんと伝わると考え、すでに著作権が切れていることでもあって、全文転載することとしました。なお、原文では間宮の名称は伏せられていますが、ここでは艦名を入れて紹介し、適宜漢字とかなを置き換えて読みやすくしました。
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 海のお台所 特務艦乗組員の座談会 (ここから転載開始)
 出席者 下津清・一等主計兵曹 田井いさお(注・漢字変換できず)・二等主計兵曹 永中穂之美・三等主計兵曹 田中明・一等主計兵 引田英明・二等主計兵 吉見信一大佐・呉海軍人事部第三課長 前田周三機関少佐・呉海軍人事部 昭和16年4月12日
 <畳40畳の練り羊かん>
 記者 揚子江遡江作戦や海南島作戦を初め、今事変(注・支那事変=日中戦争)での帝国海軍の目覚ましい働きには、全国民が深い感謝をささげておりますし、また一朝太平洋に事あったときにはと、無敵艦隊の活躍に絶大の期待と信頼をかけております。ところで私ども家庭の台所を預かる主婦として、一番心にかかりますことは、海軍の方々の活動の原動力である食事のことでございます。何か月もはるかに陸を離れて戦闘していられるところへ、食糧はどういう風にして届けられ、どんなにして調理されるか、艦隊の方々の胃の腑はどんな様子に満たされているかということをぜひうかがいたいと思っておりましたところ、たまたまお台所軍艦として有名な特務艦間宮が入港していると聞いて、その海のお台所の様子を承りに、大急ぎで東京から参りました。
 吉見 台所艦が海での人気は大したものだが、とうとう陸からも人をひきつけましたね(笑)
 前田 母親の乳房のようなものですからね。
 田井 どの特務艦でも、機材や米麦などの食料品を運搬するのが任務ですが、この間宮のように、米屋八百屋肉屋はもとより、豆腐屋こんにゃく屋もある、アイスクリーム屋ラムネ屋真水屋まであるというのは、他にはありませんよ。
 下津 風呂屋もやり、洗たく屋もやっております。
 吉見 艦隊の中央市場のようなものだな。
 記者 その中央市場の繁盛ぶりを一つ…。
 下津 海軍もやはり統制の波に抗することはできませんね。牛肉や鶏肉、魚肉、豚肉などの肉類や、野菜、漬物なども積んでいますが、各艦から要求するものの半分くらいしか供給できないこともあります。
 記者 その牛や豚だの、鶏は、生きて歩いているのをお積みになるのですか(笑)
 田井 以前はそうしていましたが、このごろは縦真っ二つに切ったのを冷凍していきます。
 永中 一方、豆腐とこんにゃくは、それぞれ豆腐室、こんにゃく室で、係の者4人が1日に1万丁くらいを、うどんは一人で1日に2千束作ります。
 下津 次に菓子を作って、甘い物好きの水兵さんを喜ばしておりますよ。洋菓子、芋パン、アンパン、切パン、焼きまんじゅう、もなかに羊かん…。
 引田 ここにその羊かんを持ってきましたから、味わってみてください。(笑)間宮の菓子は有名ですから…。
 記者 まあおいしゅうございますこと。こんなおいしい羊かんは、市中にはとても売っておりません。
 下津 市中のものと同じ大きさで、1本4銭8厘で分けていますが、1日に4万5千本くらい作ります。
 吉見 畳何畳くらいかな。
 引田 40畳であります。(笑)

うらやましい羊羹室

 下津 もなかは1日に普通2万個、冬になると5万個くらい作ります。大きな軍艦だと、1艦だけで1回に4千個も注文がありますから、これでも全部の要求にはなかなか応じられません。このもなかが、5個入り1袋で4銭8厘。
 記者 お菓子はたいてい4銭8厘でございますか。
 下津 そうですよ。材料費だけなら4銭6厘くらいですが、2厘だけ利益を得て、それを酒保の収入にして、包丁とか流し箱とか、いろいろな備品を買うのにあてます。
 田井 ラムネはラムネ室で、1日に1万4千本くらい作っております。値段は1本1銭。アイスクリームは市中で食べる1人前を2千人前くらい作ります。これは1個4銭です。
 永中 このほかに、洋酒、あらゆる種類の缶詰、たばこなどを格安に分配しています。
 <冷蔵庫異変>
 記者 それだけたくさんの肉や野菜を、完全に貯蔵して各艦へお渡しになるのは大変でしょう。
 田井 それが一番の問題です。間宮には完備した大きな冷蔵庫がいくつもありましてね。厚さ30センチもある扉で外界と遮断して、ここへ全部品物を格納します。
 吉見 冷蔵庫の温度はほぼどれくらいかな。
 永中 牛肉魚肉の冷蔵庫は零下12度くらいです。中をとおっている鉛管にちょっと手が触れても、しみついて離れません。
 田中 冷蔵庫の入り口にこういう張り札がしてあります。「扉を閉めるときは、必ず庫内に向かい、シメルゾと大声にて3呼すべし。凍死の恐れあり。(笑)
 田井 以前はよく閉め込まれましてね。閉じ込められたある主計兵は、じっとしていれば凍え死んでしまうから、駆け足で一生懸命庫内を走り回り、ときどきともっている電燈を体にくっつけて暖を取ってはまた走り回って、救い出されるのを待っていたそうですよ。
 前田 なにしろ扉を早く閉めないと温度が上がるから、まごまごしていると閉め込まれるのだな。
 田井 しかし現在では、庫内から事務所へ通じるベルがつけられましたから、その心配はよほどなくなりました。事務所で執務していると、ときどきこいつがジンジンとけたたましく鳴ります。すぐに電話で「第何号庫に閉め込み人あり。ただちに救出ッ」と連絡します。(笑)それっというので駆けつけて扉を開けると、やっこさん、ガタガタふるえながら出てきますよ。(笑)
 浜西 各艦の作業員が、糧食を受け取りに本艦へ来て、夏など入りかけは涼しいものだから、もの珍しげにあちこち見ているうちに、入口が閉まってしまうのですね。閉め込み人は、だいたい夏に多いようです。
 田井 一航海に、たいていは5、6人は閉められますよ。
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(中)に続きます。

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