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戦前の日本にも存在したカラー写真ーモノクロ写真の彩色版を作る時には注意を

 太平洋戦争当時、アメリカ軍はカラーフィルムによる記録映像を実現しており、数々の戦地で撮影を敢行。終戦直後の日本の様子のカラー映像もよく知られています。
 翻って日本はどうか。カラー写真技術がまだ一般向けではありませんでしたが、実験的に撮影がされるぐらいにはなっていました。収蔵している当時の雑誌「科学朝日」から、明確に「天然色撮影」を記してある写真を探し出しました。

カラー写真を掲載した科学朝日1942年5月号と12月号

 まずは、5月号に掲載された「鯉」の写真をどうぞ。文章は鯉の説明ばかりですが、見開き4枚の写真中、3枚は天然色撮影と明記してありました。

右下以外の3枚が天然色撮影
こちらも天然色撮影です。写真撮影に明記
これぐらいの再現性がありました

 12月号では、天然色撮影の現状を解説しています。その一番手に、潜水艦の軍艦旗掲揚場面を1ページ大で掲載しています。説明に依りますと、太平洋戦争開戦前に潜水艦に同乗し、猛練習の様子を撮影したとあり、午前8時の軍艦機掲揚場面を「さくら天然色フィルム」で撮影したとあります。まだ実験的な段階での撮影であり、日本軍による軍艦のカラー写真は極めて貴重ではないかと思います。

さくら天然色フィルムで撮影
キリン、水鳥、蘭、ラクダも登場

 ただ、特集ではまだ色彩の再現について「天然色写真フィルムが、わが国において実用の域に未だ到達していないことは悲しむべき現実である」と現状を認めつつ、前掲写真のように、ある程度のものはできていたことも理解できます。

カラーフィルムの特集記事

 その状況について、記事では「科学的実験方法としての精度を有する天然色フィルムの完成に着々として邁進しつつある」とし、このページの鉱物写真もその一つの成果としている。そして「今日天然色フィルムにおいて世界に覇を争うドイツとアメリカに対抗するに足る日本の独創的技術の確立が今日ほど要望される時はない」と〆ています。

 この後、戦局は悪化の一途をたどっており、カラーフィルムの登場どころか、普通の写真撮影フィルムまで供給が滞ったのが実情でした。新聞各社も、フィルムの確保に、特に地方紙は苦労したようです。
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 それでも、このような技術があったことは、覚えておくべきでしょう。試験的にせよ、ある程度の数のカラー写真が撮影され、こうして雑誌などに掲載されていた事実。最近、中の人も含めて、多くの人が行っているAIの自動学習を活用した戦前モノクロ写真の自動色付けや加工の場合、そのようにして作った写真であることを明記しておくことが、万一の歴史的写真との混同を避ける大事な配慮だと思います。

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