鹿狩りの寓話
「シカを待ち伏せしている間に、ウサギが何度も姿を現す。そこでウサギを捕まえてしまうと、シカは姿を見せなくなる。シカを捕らえるためには、猟師同士が協力して待ち伏せしなければならない」・・・ルソーの「鹿狩りの寓話」をゲーム理論に展開したものが、こちらの図になります。
シカを捕まえた報酬を(山分けして)5点とします。猟師にとっては「シカ5点 X シカ5点」と「ウサギ1点 X ウサギ1点」のふたつの最適戦略(ナッシュ均衡)が存在します。
相手がウサギを捕まえて帰ったのに、自分だけ手ぶらで帰ることが続けば、自分もウサギを捕まえるのが自然な反応です。こうして「信頼感」と「不信感」による均衡から、ふたつの最適化戦略が成り立ちます。
より確実に、両者が「シカ5点」を得るには、どうしたら良いでしょうか?
1.お互いにシカを狙うことを事前に確認し合う。(ビジョンの共有)
2.捕らえたウサギを没収する取り決めにする。(ペナルティーの設定)
などが考えられます。こうしたルールの見直しや、運用の工夫による状況の改善を「パレート最適化(またはパレート改善)」と言います。
猟師同士が「ウサギ1点 → シカ5点」で合意すれば、Win-Winにパレート最適化できます。シカを確実に獲れるようになれば、猟師は毎日狩りに追われる必要がなくなり、時間を他にも有効活用できるようになります。それによって、集落全体がより豊かになるかもしれません。
仮に、猟師同士で問題を解決できない場合、どうすればよいでしょうか?
領主に働き掛けて、コミッショナーとしてルールの策定に協力してもらうことなどが考えられます。ウサギを捕まえる「不信感ゲーム」から、協力してシカを捕まえる「信頼ゲーム」に変わることで、領主のメリットも間接的に増えるはずです。
現実のビジネスでは、開発現場には物理的・技術的な制約が多く、その調整がプロジェクトマネージャーの重要な任務です。言い換えると「交渉材料が多い」ため、パレート最適化を「合理的に進めやすい」側面があります。
しかし、相手が「非・現場」になると少し状況が変わります。「現場の問題は現場の責任」といったドライな分業体質だと、解決の糸口をつかむのが難しくなります。そういった場合は、領主(経営層)を巻き込んで、協力してもらうことが必要になります。
ある脳科学の研究で、脳の血流をfMRIで観察したところ、「近い将来」を考える場合と「遠い将来」を考える場合では、脳が活性化する部位が異なっていたそうです。そして、うつ病患者には「近い将来」を考える脳の部位が、常に活性化している異常が見られました。
つまり、目先のノルマだけを与えると不安ばかりが高まり、ついつい「目の前のウサギを捕まえてしまう」傾向につながってしまいます。まずは組織として、ビジョン(遠い将来の成功イメージ)を掲げて「協力してシカを捕まえる」イメージを共有しておくことが大切です。
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