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【ゼロから学ぶNVC #4】NVCの要「ニーズ」とは?(現場で使えるワーク付)

ニーズと境界線の話 - いじめのカラクリ

連載#3は、「観察力を鍛えよう/違いに気づこう」ということで、私たちが無意識に持ってしまうフィルターを外して現実を捉え直す「観察」、そして一つの現実からさまざまに生じる「感情」についてお伝えしました。

1日に一度の「観察」タイム、チャレンジされていますか?

これまでNVCの4要素「観察」「感情」を一緒に学んできて、今回は3つ目の要素である「ニーズ」について詳しくお伝えします。「ニーズ」といじめは非常に関係が深いと考えており、今回はいじめのカラクリについても触れてみたいと思います。

「ニーズ」とは、性別や年代・生まれた地域などに関係なく誰もが持っている「生命を維持し、豊かにするために大切にしたい想いや価値観」のことでしたね。

それでは一体、「ニーズ」といじめにはどのような関係があるのでしょうか?

「全ての人は一瞬一瞬、自分のニーズを満たすために行動している」と気づく

●罰することが暴力の根源

皆さんの周りには「いじめ」の問題はあるでしょうか?
もしあれば、それらの問題にどのように対応されていますか?

2022年11月に文部科学省から発表された資料によると、2021年度のいじめ認知件数は615,351件。社会全体としてまだまだ大きな問題として存在しています。

身の周りで対応に迫られておらずとも、子どもたちに、どうこの事実を伝えていくか、どのような関わりをすれば減らしていけるのか、考えている方は多いのではないでしょうか。興味を持ってこの記事を読んでくださっている読者の方の中には、「いじめ」を容認している人はいらっしゃらないと思います。

「いじめをなくしたい」「世界に蔓延する暴力をなくしたい」 そんなことを考えるときに思い出していただきたい言葉があります。

Punishment is the root of violence on our planet.
誰かを罰することは、この地球上の暴力の根源です

Marshall Rosenberg(マーシャルローゼンバーグ)の言葉

マーシャルのこの言葉を聞くと、秩序や効率性のニーズを満たすため、ルールを強いることがある先生は、少々身構えてしまうかもしれません。

「校則を守れなかったら反省文」「誰かをいじめたら停学、退学」このような戦略を使っている学校は、まだ多いのではないでしょうか。

●いじめのカラクリ

いじめの原因には、例えば「容姿が気に入らない」「相手が間違っている」「自分の方が優れていると思う」「自分の言う通りにしない」などといったものがあるようです。これらは全て、相手を決めつける「批判」「評価」です。

しかし相手を決めつけることに端を発したいじめに対し、「いじめはいけないことだから」という道徳的価値判断によって「悪い」と断じて罰することも、相手を決めつける「批判」「評価」と全く同じ構造であることに気がつきますでしょうか。

さらに、どんなに大人が「いじめはいけない」と声高に叫んでも、私たちの日常にはこの構造があふれています。多くのメディアで、悪を倒す者は正義の味方として描かれています。子どもたちのアニメにも、単純な勧善懲悪のストーリーが多いように見受けられます。

民族紛争がなくならないのも、この構造が繰り返されているからです。「私の大切な家族を殺したあいつらが悪い!」と怒り、同じく暴力によって相手側に仕返しに行く。この場合、悪を倒す正義って一体どちら側にあるのでしょう?

さまざまな行為に「良い」「悪い」のレッテルを貼り、「良い」に該当すれば褒め、「悪い」に該当したら罰を与える。「どうして悪いことなんですか?」と子どもたちが尋ねれば、「悪いものは悪い!」と、到底納得のいかない答えを言ってしまったりする。

そんな大人を見続けた子どもたちは「悪いことをしたら罰される」と恐れを抱き、自分の判断基準は外側に求めなくてはならないと考えるようになるかもしれません。と同時に、「悪いことをした人を罰することは正義なんだ」ということも学んでいくのです。

すなわち、誰かが決めた「正しさ」から外れた人には、罰を与えてもいいのだと、暴力を正当化する思考を手に入れます。

いじめや暴力がいつまでもなくならないのも、至極当然のことだと思いませんか?

●褒美と罰を使わないための新たな視点

「いじめをなくしたい」「暴力をなくしたい」と本気で願うのならば、これまでとは別の方法が必要なんだということに気づいていただけるでしょうか。でも、本当に「褒美と罰」を家庭や教室の中で使わないことはできるでしょうか?

「褒美と罰」を使わないというチャレンジのために、次のような視点で現実を捉え直してみるといいかもしれません。

あらゆる行動は「ニーズ」を満たすために行われ、全ての人は、一瞬一瞬「ニーズ」を満たそうと最善を尽くし続けている

例えば、授業中のおしゃべりも、友達が嫌がることを言ってしまうことも、全てが「ニーズを満たす行動」として当てはまります。

一体どんなニーズを満たそうと、授業中におしゃべりしたり、友達が嫌がることをしてしまうのか?ぜひ下のニーズリストを眺めて考えてみてください。

「どんな人の、どんなニーズも大切にする」を実現するために必要なこと

●他者尊重のための自己コントロール力

「人は、一瞬一瞬ニーズを満たそうとしているのだから、それを尊重するのが大切なんだな」

そう頭で理解しても、相手の一挙手一投足にイライラしてしまう。ついこれまでどおり力を振りかざし、「次やったら校長室行きだからな!」なんて声を張り上げてしまう。

このように相手の行動という刺激に反応してしまう状態を克服できない場合、他者の話を素直に聴き、受け止めることが困難になります。この状態はすなわち、NVCの実践が困難になっているということです。

そこで、他者の話に耳を傾け、その意見を尊重できるようになるために【刺激への反応で行動しない/乱れを元に戻せる】自己コントロール力を養うことも大切なステップとなります。

子どもたちについては、感情のコントロール、認知力ともに発達段階にあるため「反応してしまっても仕方ない」と考えましょう。大人が寄り添うことで、感情を認知したりコントロールしたりする力を育んでいくことができます。刺激に反応した子どもと接するときには、次の【The3Rs】の図を参考にしてください。

この【The3Rs】の図は、トラウマケアの分野で活躍される神経科学者ブルース・ペリー博士の提唱する、外部の刺激に反応してしまった子どもに寄り添い、彼らがその出来事から学ぶことをサポートするための3ステップが記載されています。

反応した子どもに寄り添う【The3Rs】

【The3Rsの3ステップ】

(1)Regulate(レギュレート/整える)
穏やかな声で話しかけ、必要に応じてボディタッチを含め、子どもの神経システムが安全を感じられるよう促します

(2)Relate(リレート/つなげる)
子どもたちの感情やニーズを言葉にし、その反応が起きたことを認めることで、子どもの落ち着きを更に促すと共に、子どもたちとのつながりを作ります

(3)Reason(リーズン/思考する)
冷静さを取り戻してから、共に出来事を振り返り、次に生かすにはどうしたらいいのかを話し合います

人は、神経システムが反応している状態では理性的な会話や思考をすることができません。大人の場合も同様ですので、ぜひご自身の自己コントロール力アップのためにも3Rsを参考にしてみてください。

●人と人との境界線 - どんな人の、どんなニーズも大切に

さて、自己コントロール力をアップさせるもう1つのポイントは「人を思い通りにすることはできない」と知ることです。

私たちは皆、この世界で自分の生命をどのように生かすか、その選択権を持っています。しかし、先述した「褒美と罰」を多用すると、この選択する力を弱めてしまう可能性もあります。

なぜなら、AさんがBさんを「褒美や罰」でコントロールしようとすると、Bさんは恥や恐れから行動するようになり「『自分の命をどういかしたいか』という内なるニーズにつながった選択」ができなくなるからです。

特に、実質的に大人に守られることで生きている子どもたちにとって「褒美や罰」を与える大人に従うことは、ある種生きる戦略となるもの。「『褒美や罰』を与えることで、彼らが自分の生命とつながる機会と力を奪ってしまっていること」に自覚的でありたいですね。

本来であれば、どんなに「褒美と罰」を与えられたとしても、その人自身が「自主性」「選択」「自己表現」などのニーズを大切にしたいと願えば、NOを言う選択肢はいつだって存在します。それは、私たちに生まれつき備わっている力であり、権利だからです。

誰もが『ニーズに基づいた選択権』を有していること」を理解すること。そうすると、人との境界線を意識できるようになります。NVCの実践において、自他のニーズを尊重する行為には、この境界線を大切にするイメージが助けになると思います。

老若男女関係なく、誰のどのニーズも平等に大切にしようとするのが、NVCにおけるニーズの考え方でした。NVCの考え方で境界線を理解するならば、「他者の境界線を侵害せず、同時に、他者に自分の境界線を跨がせない」ということです。他者のニーズを大切にしないのも暴力。自分のニーズを大切にしないのも暴力ですからね。

だから「あらゆる行動はニーズを満たすために行われ、全ての人は、一瞬一瞬ニーズを満たそうと最善を尽くし続けている」というのは、決して「子どもたちの全ての行為を受け入れましょう」ということではありません。

もしも、ある行為が他者のニーズを侵害している場合、その行為は暴力的なものだと捉えられます。ここで大事なのは、本人のニーズと他者のニーズ、両方を同等に尊重する必要があるということです。

以下のイラストの様子は、教室でよく見られる風景かもしれません。

例)授業中におしゃべりする子がいる場合に、教室にあるそれぞれのニーズ

授業の最中、ついつい周りの子に話しかけてしまったり、大きな声で話始めたりする子はいませんか?

そういった子のニーズに寄り添いながらも、「秩序を持って効率的に授業をしたい」先生のニーズ、そして「静かな空間を求めている」「学びに向かいたい」という子どものニーズも平等に大切にすることを念頭に言葉かけができるといいですね。

それぞれが大切にしたいと思っているニーズの例は、以下の通りです。

【おしゃべりする子】
見てもらうこと、聴いてもらうこと、楽しさ、遊びなどのニーズ
先生
秩序、効率、能力、効果的であること、一貫性、聴いてもらうことなどのニーズ
周囲の子どもたち
学び、成長、目的、空間、理解することなどのニーズ

自分と他者の境界線を感じるためのワークの紹介

ここから、自分そして他者の境界線を意識し、それぞれの境界線を守れるようになることを主目的とした「バウンダリーバブル」というワークをご紹介します。とても簡単にできるワークでオススメです。

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