見出し画像

とある一人の男が占い師になるまで #22 ~信用金庫職員編~

渉外係に配属され、日々の集金業務に時間を割かれていたが、少しでも自由な時間を捻出するために、男は思い切って業務の効率化を実行した。
集金日を減らしたり、集金から自動振替への変更をお願いしたりと、お客様に頭を下げつつも、何とか了承を得て自由な時間を少しだけ捻出する事に成功した。
これで営業活動に時間を費やすと思いきや、男は思わぬ行動を取るようになる。

......................................................................................................................................................


『それにしても暑いな……』

信用金庫に入庫してから2年目の夏を迎えていたが、内勤業務(本出納業務)で迎えていた1年目の夏と、外勤業務(渉外業務)で迎えている2年目の夏とでは、同じ夏でも雲泥の差があると言って良いだろう。

たとえどんなに暑い日であっても、日中はバイクに乗って集金活動や営業活動を行わなければならず、辛うじて半袖のYシャツを着る事は許されていたが、ネクタイ着用は必須で、しかもヘルメットをかぶって動き回っているのだから、ただ単に外回りをしているだけでも汗だくになってしまう。

「暑い中ご苦労様」

この時期は今まで以上にねぎらいの言葉をかけてくれるお客様が多く、中には冷たい飲み物を出してくれるお客様もいらっしゃって、これだけが唯一の救いだと言っても良い。

しかし、それでも体力はかなり消耗してしまう。
本来ならば、余裕のある時は営業活動を行って、少しでも数字の獲得に貢献しなければいけないのだが、その気力が湧かない。

結果的に、涼しい喫茶店で寛いでしまったり、昼食の時間を長めに取ってしまったりと、一言で言えば「サボり」のような事を、私は自然と実行するようになっていた。
つまり、業務の効率化によって捻出した自由時間を、「サボり」の時間に割くようになってしまったのだ。

しかし、サボれるというのは、ある意味外回りの仕事の特権でもある。
実は、渉外係に配属されたばかりの頃、支店長からこんな事を言われていたのだ。

「渉外係になったら、サボれるようになれ!」
「サボれない渉外は、ハッキリ言って使いものにならない!」

当初はこの言葉の意味するものがよく分からなかったが、今なら何となく分かるような気もする。
恐らく、「外回りの仕事をする以上、ある程度自由な時間を捻出できるようにならなければいけない」という事を言いたかったのではないだろうか。

『まあ、支店長が「サボれ」と言ってるのだから、サボって良いだろう』
……と、都合よく自分に言い聞かせるようにして、サボれる時はできるだけサボるようにしていたのだ。

それに、ハッキリ言ってしまうと、私は外回りの仕事をしていく過程で色々なお客様のところへ訪問していくうちに、徐々に他の仕事に興味を持ち始めていたというのもある。

まず一つ目は、経理の仕事だ。
元々私は日商簿記検定2級を取得しており、財務3級100点を取得した過程で、改めて経理や財務の仕事に対する興味が湧いていた。
そして、訪問先の法人で経理の仕事をしている方々と接していくうちに、私も「そちら側の人間になりたい」と思うようになってきたのだ。

二つ目は、税理士の仕事だ。
実は訪問先のお客様の中に、税理士の先生も一名だけいらっしゃる。
その先生と深くお話をする機会はないが、やはり専門性の高い仕事をされていて、何となく憧れに近いようなものを感じている。
日商簿記検定2級の延長線上として、税理士試験に挑戦したいという気持ちも芽生えてきていた。

三つ目は、公務員の仕事だ。
こちらも訪問先の一つとして市民センターがあるのだが、その職員のうちの一人とよく話す関係になっていた。
彼は私よりも少しだけ年齢が高い男性職員なのだが、実は彼も別の信用金庫に働いていて、その後公務員へ転職したという事なのだ。
公務員試験に合格する必要があるが、当時の私からすると、信用金庫職員よりも公務員の方が楽に思えたからだ。

四つ目は、行政書士の仕事だ。
これに関しては、訪問先のお客様に行政書士の先生がいる訳ではないが、当時の私のイメージでは、士業の資格の中では比較的難易度が低い方で、しかも独立できる資格として、興味を持ち始めていた。

そんな訳で、私の中では、この暑い中汗だくになって必死に集金業務をしている自分が惨めに思えてきており、モチベーションそのものが下がってきている状態の中で、他の仕事をしている人達と接する機会も増えてきている事から、徐々に「仕事を変えたい」と思うようになってきていたのだ。

そして、その気持ちが益々強くなってくるような出来事が、これから立て続けに起こるのであった。

To Be Continued ➤



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?