とある一人の男が占い師になるまで #11 ~信用金庫職員編~
先日、信用金庫に入社して以来、最大のピンチを迎えてしまった男。
何とか先輩職員のお陰で窮地を脱出したが、自分のせいで支店の全職員に迷惑をかけてしまった事により、男は改めて仕事の厳しさを痛感したのであった。
そして入社から半年が経ったある日、またしても男の心を揺さぶる出来事が起こる。
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「10月1日付の異動対象者は以下の通りです」
早いもので信用金庫に入社してから半年が経とうとしていた。
4月ほどではないが、10月というのも一般的に人事異動の多い時期だと言える。
そして来たる10月1日、この日は各支店に10月1日付の人事異動発表の通達が回ってきた。
(まさかとは思うけど、自分が対象とはなってないよな…)
入社1年目の職員がたった半年で異動となるケースはほぼないと言って良いが、それでもやはり不安な気持ちはあった。
恐る恐る通達に目を通してみると……。
『良かった! ない!』
まあ当然と言えば当然なのだが、内心ではかなりホッとしていた部分もある。
ふと、M支店の職員で異動対象者となっている人がいるかどうかを確認してみると……
「!!」
なんと、私に本出納業務を教えてくれていたベテランの先輩女性職員の名前が記載されていたのだ!
実際のところ、彼女はM支店での勤務がそこそこ長いので、恐らく今回異動になるのではないかと支店内でも噂されていたのだが、やはり今回異動の対象となっていたようだ。
他にも、支店長の次に支店で権限を持っている次長も異動対象となっていた。
次長に関しては、少々苦手にしていた部分もあるので、私としては特に何も感じる事はなかった。
『異動か……』
信用金庫に勤めている以上、恐らく避けては通れない道なのだろう。
ふと、私は小学校時代に経験した2回の転校を思い出していた。
子供心ながら、「新しい環境に適応しなければいけない」というプレッシャを感じていたのを今でも鮮明に覚えている。
私にとって、新しい集団に馴染むというのは、かなり苦手な方だと言えるだろう。
先輩職員たちから何度か聞かされていたのだが、M支店はかなり雰囲気が良い方で、人間関係がギスギスしていて雰囲気の悪い支店もたくさんあるとの事なのだ。
異動が発表された日、その先輩職員は元気がなかった。
彼女もまた、M支店の雰囲気を気に入っていたのだろう。
その証拠に、彼女にとってM支店での勤務が最後となる日、締めの作業が終わった後、皆の前で彼女が挨拶をしたのだが……。
「私はM支店が大好きです……」
挨拶の途中で彼女は泣き始めていたのだ。
ふと、私は7月に退職した男性の先輩職員の事を思い出していた。
彼もまた、最後の挨拶の時に泣いていた。
私はこれまでM支店でしか働いた事がない。
なので、他の支店と比べてM支店がどれだけ雰囲気が良いのかピンと来ていないところもあるが、確かに私にとっても、全く気の合わない同期生たちよりは、M支店の職員たちの方が一緒にいて居心地が良い。
それを考えると、このM支店というのは特別なのかもしれない。
ふと、私の頭の中に大きな不安がよぎった。
『私は他の支店でやっていけるのだろうか……?』
仕事ができるできない以前に、他の支店の人たちと上手くやっていけるのかどうかというところに物凄く不安な気持ちが芽生えていたのだ。
普通は上手くいくはずの同期生たちとでさえ、上手くいかなかった私だ。
たまたまM支店という特別雰囲気の良い支店に配属されたから半年間仕事を続けてこれたものの、もし他の支店に配属になってしまったら、私は信用金庫での仕事を続けられないのかもしれない。
身近な先輩の異動という一つの現実を突きつけられたこの日、私はまた一つ、信用金庫で働き続ける事に対して大きな不安材料が増えてしまったのであった。
To Be Continued ➤
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