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とある一人の男が占い師になるまで #7 ~信用金庫職員編~

歓送迎会の挨拶にて、新卒にも関わらず、「理事長を目指す」などとビッグマウスな宣言をしてしまった一人の男。
その後、特段大きな問題もなく、男は日々M支店で本出納業務をこなしていたが、そんなある日、何気ない会話のやり取りで男の気分が落ち込んでしまうのであった。

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「それじゃあ、休憩に入って」

一緒に本出納業務を担当している先輩職員に声をかけられ、私は昼休憩を取る事になった。

既に季節は5月の中旬頃に差し掛かっていた。
少しずつ仕事を覚えていき、できる仕事内容も増えてきたが、相変わらず先輩職員に注意されたり叱られたりする事も多く、日々切磋琢磨しながら業務をこなしていた。

M支店は2階建ての建物となっており、1階が店舗で、2階に休憩室と応接室、そして渉外業務担当者たちの部屋があった。
私は近くのコンビニで昼食を買い、2階の休憩室へと入っていった。

ふと、そこには私の1年先輩の女性職員がいた。
配属日初日に私に声をかけてくれた先輩だ。
彼女も休憩中らしく、テレビを見ながらお昼ご飯を食べていた。

『お疲れ様です』

「お疲れ様~!」

これまでも何回かお昼が一緒になる事があり、軽く会話を交わす事はあったので、これは特段珍しい出来事ではなかった。
今日もいつも通り、彼女と何気ない会話をしていた。
しかし、彼女が私に一つの質問をしてきた事で、私の心は凍り付いてしまったのだ。

「山内君は、同期の人たちと飲みに行ったりしないの?」

『!!!』

同期の人たちの飲みに……?
あの同期の連中と飲みに……?
行く訳がない……。
行ってたまるか……。
いやそれどころか、むしろ一生顔を会わせなくていい!

同期生についての会話は、当時の私にとってはタブーだった。
「同期」という言葉を耳にするだけで、私の気分は萎えてしまっていたからだ。

『うーん、飲みに行きたいんですけど、みんな忙しいみたいで、なかなか行けないんですよね~』

もちろん、大嘘である。
本当は同期生たちと打ち解けられないから、飲みに行きたくないだけなのだ。
というより、既に私の知らないところで同期生たちが飲み会を開いており、私が誘われていないだけなのかもしれない。
しかし、その事を正直に言うと、彼女の私に対するイメージが悪くなってしまうのではないかと思ったので、咄嗟に思いついた嘘でごまかしたのだ。

「そうなんだ~」

『○○さん(彼女の名前)は、同期生たちと飲みに行ったりするんですか?』

「うん、行くよ!」

はあ~、やっぱりそうなのか……。
きっとそれが普通なんだろうな……。
同期生たちと合わないなんて、きっとこの世で私だけなんだろう……。
なんで自分だけ同期生たちと合わないんだろう……。
やっぱり、私ってダメな人間なんだろうか?

そんなネガティブな思考が頭の中をグルグルと駆け巡っていった。

「それじゃあ、私戻るね!」

『あ、はい、お疲れ様です』

もちろん、彼女は何も悪くない。
恐らく、私が同期生たちと打ち解けられていないなどとは考えもしなかったのだろう。

結局、その日は食欲が一気に落ちてしまったせいか、彼女が去った後、私はせっかく買ったコンビニ弁当を全部食べ切れないまま、お昼休憩を終えてしまうのであった。

To Be Continued ➤




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