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街をつくる「全ての関係者」と、より良いこの先の「下北線路祭」の形を探して。

世田谷代田駅から下北沢駅、東北沢駅間の1.7kmをつなぐ下北線路街の魅力を発信するお祭り「下北線路祭」。今年6月初旬には第三回となるお祭りが開かれ、過去最高とも言える盛り上がりの中、多くの街の人たち、訪れた人たちがさまざまなイベントを楽しみました。

3年目のお祭りを無事終えた今、関わる立場を変えながら線路祭に関わり続ける二人に、線路祭のこれまでと、これからについてお話しいただきました。

前編はこちら

神保裕香︎ ●じんぼ・ゆか
1990年生まれ、箱根育ち。新卒で星野リゾートの旅館運営と館内イベント企画・運営を経験。その後、商業施設を主とする販促プロモーションプランナーを経て、株式会社GREENINGにて「下北線路街」内の商業空間「reload」の立ち上げから施設運営を担当。2023年秋より小田急電鉄エリア事業創造部にて下北沢エリアの開発、施設管理やプロモーションに携わる。

獅子田康平 ●ししだ こうへい
1991年生まれ。2015年よりオーダーメイドの結婚式をプロデュースするブランド「Happy Very Much」、カフェレストラン「BEARS TABLE」の運営に携わり、プロデューサーとして企画から空間デザイン、現場までを担当。2020年より空間にまつわる活動を中心にフリーランスに転向。同時に、散歩社に所属し、BONUS TRACKの立ち上げから施設運営を担当。現在はクリエイティブディレクターとして活動中。

情報過多な街だからこその、線路祭と空間づくり

ーー前編では、下北線路街のまちびらきイベントとしてはじまった「下北線路祭」が、3年の時を経て街に融け出し、街の人のお祭りに向き合うスタンスも変化してきたといったお話を伺いました。ところで獅子田さんは今回、線路祭全体の空間づくりも担当されました。1.7km分の空間設計で感じたことや、大切にしていることはありますか?

獅子田:まちの空間を作ったり、装飾を施すって一見華やかそうだけど、裏側はすごいハードなんです。例えば、ここに物を置いたらすごくイベントにとって効果的だけど、世田谷区と小田急さんの管轄を跨いでいたりすると簡単にその通りにはできない。そうなったとき世田谷区や街の人の理解は不可欠ですよね。そのために、いいイベントなんだと思ってもらえるように工夫したり、ちょっとだけ無理を言ってやりたいことを通してもらったとして、結果よかったねって同じ目線で見れるように努力したり。そういう、信頼を重ねる過程を、なんとなくこの3年は考えながらやっていました。

神保:地図上では一続きに見えるし、ホームページでもひとつに見えるけど、1.7kmのあいだには道路が通っていたり、BONUS TRACKの手前にある雨庭広場は世田谷区の管轄だったりします。絵で見る街と実際の街は違うから、あたりまえのことですけどそれぞれの所有者や責任者と細かい調整が必要なんですよね。

獅子田:僕自身、ここまで街全体の空間ディレクションを担当した経験はほぼほぼなかったので、これまで自分の中で培ってきた空間づくりのセオリーみたいなものが、ある意味崩されることもありました。

ーーセオリーとは、例えばどんなことでしょうか?

獅子田:例えば、なるべく実際に現場を見て、いる人のリアルな目線を知るとか。逆に天井に目を置くように、なるべく俯瞰して空間を把握したりだとか。普段の空間づくりでは、近眼になる/ならないをバランス取りながら計画を立てるようにしてるんです。でも街全体は何回歩いても、イメトレしても、全体像を把握しきれない(笑)。

神保:特に、このエリアは細かい道が多いですし…。線路街って括りで考えると一本道のように思えるけど、「ここにちょっとわき道あるよね」とか「実は近道あったよね」とか。どこまで行っても把握しようがない気がします。

獅子田:そうなんですよね。空間づくりで一番大事なのが、企画やイベントの趣旨、思惑をどう空間に情報整理して落とし込むかだと思うんです。それがうまくできれば、良いイベントになると言えるくらいに。でも街は白塗りの展示空間とは違って、すでにいろんな情報や、人それぞれの印象を持ってる。だから、さらに情報を乗せるのってすごく難しくて。

もうそうなってくると、運営内部だけじゃどうしても成立しないので、街の人にも協力していただき、例えば今年で言えばお祭りのテーマカラーのピンクを少しでも取り入れてもらったり。僕たちだけじゃ収まりきらない制作物や環境も、「一緒に作っていく」というようなことを空間の視点でもやっていけるといいなと。

神保:もう一つ、今年は駅構内で線路祭のアナウンスを流してもらいましたね。あれも駅長と話し合い、一緒に作った演出だったと思います。

獅子田:そうですね、来年もできるといいなぁ。本当は、駅構内から線路祭が始まるような演出もしてみたいんですよ。電車に乗って来る人が、地下から地上に上る瞬間からお祭りが始まるような体験をつくりたい。

ーー空間づくりも含めて、地域にとって良い空間、ひいては良いイベントが行われるために必要なことって何なんでしょうか?

獅子田:世の中には、無数にイベントがあるじゃないですか。でも小さい頃から行ってて、なんやかんや今でも行くイベントってなんだろうなと思ったら、地域のお祭りだなと。公園でやっているような、地元の人に対して行われるお祭り。

地元の人が提灯を出してたり、そこには町内会の人が出店してたり、近所の少年野球チームの子たちが店番していたり、それを取りまとめる実行委員がいたりして。その友達やご近所さんたちが、その地域にいる関係者をまた増やして、その人たちのテンションが上がることをひたすら繰り返してる。線路祭もそれに割と近い、というか同じことをやろうとしているんだなと思います。

ーー線路祭の空間づくり、まだまだできること、やりたいことがたくさんありそうですね。

獅子田:やりたいことはたくさんあるんですが、ひとつはBONUS TRACKの開業当時から散歩社としても掲げている、環境問題へのアプローチでしょうか。イベントが大きくなればなるほど、考えていきたい課題です。今年はその取り組み策として、イベント後にバッグブランド・HEADQUARTERSとコラボしてアップサイクル商品をつくりました。線路祭で使用した資材をトートバッグやペンケースにしていただいたんです。

6月22-23日に行ったBONUS TRACKのイベント「めぐるるる『循環を巡るマーケット』」で販売

神保:散歩社さんからアップサイクルを提案していただき、制作から販売までもものすごく早く動いてくださいました。ポスターやマップ、ターポリンなどの掲示物をたった2日くらいで撤去しなくちゃいけない葛藤って毎年あって。それがこんなかわいいプロダクトになって、凄いことだなと思います。

同じく資源の循環でいうと、今年は特にメインビジュアルがすごく好評で、地元の方からも、来場者からも「このポスターもらえませんか?」と言っていただいたんです。 だいたい受付でそういったご意見を伺うので、担当している小田急がすぐに社内で検討し、プレゼントしようと決められたのも良かったです。

一番手前が今年の線路祭ポスタービジュアル。

ーー地元の人や来場者の手元に、アップサイクルという形でイベントの思い出が残っていくのはすごく素敵ですね。

三年を経て、線路祭のこれまでとこれから

ーー来年以降、どんな線路祭にしたいですか。

神保:そうですね、去年より今年、今年より来年と、そんなに規模を大幅に拡大したいわけではないんですけど、参画できる人が増えたらいいなと思いますね。すでに地域・商店会の企画はたくさんあるんですけど、さらに線路街から街の方に滲み出していけたらいいなと思います。

あと企画者の目線でいえば、線路街全体が開業して三年目で、各施設の運営方法がだいぶ分かってきたタイミングなのかなと思うんです。施設としての周期が一周し、新たなアクションをやっていこうという時期だとも思うんですよ。そのためにも線路祭として、各施設からの意見を取り入れたり、再び施設運営の担当者で議論するのも面白いなと考えていますね。そういうことがやっていけると、線路街の施設同士でコラボレーションが生まれたり、いい流れが作れるのかなと。

獅子田:街全体を使ったこれだけ大きいお祭りなので、 やっぱり最高のチームで最高のものを作りたい。そういうものを人生で数回作れたらいいなと思ってるんですけど、線路祭はそういうことができる催しというか、物事だなと思っています。

今年の開催時は、普段からBONUS TRACKでごみ収集を夜中してくださってる業者さんや、ヤマト運輸さんとも色々事前にすり合わせをしたり、挨拶したりして、お祭りにも遊びに来てもらったんです。イベント後には「この方法のほうがゴミの回収がしやすくなるから、来年はこうしましょう」とも提案してくれて。

お祭りってどうしても日中の催しに目が行きがちだけど、搬入や撤収、後片付けに関わるような、イベントの地盤を固める仕事がたくさんある。その人たちが縁の下の力持ちとして支えてくださってるから、気持ちよく終われて、来年もいいイベントができる。だから僕は、その方達も含めて境目なく、いいチームを作るためにはどうしたらいいんだろうと考えています。

神保:私もreloadにいたとき、線路祭とreload開業一周年の時期が近かったこともあり、開業に関わってくださった方たちに対して個人的に線路祭にいらしてくださいというお声がけを行っていました。設計士さんや内装管理の方、施設点検をしてくれている方…全員ではないですけど、お休みの日なのに遊びに来てくれて。「いい街になったね」「いい施設になったね」と声をかけていただいたし、その方たち自身が関わった施設の良さを肌で感じられる機会になったのではないかと思っていて。

今年の線路祭でいえば、ご協力いただいた警察署や消防署、世田谷区の担当者にもちゃんとお知らせして、フィードバックをいただけたり、体感していただける機会を設けるのは大事にしたいなと思いました。

ーー街って、実は本当にいろんな人がいろんなレイヤーで関わっていて、支えていることを忘れないでいたいですね。

神保:そういう人たちが楽しめないと、全然面白くないので。同じ街の違う界隈、と思われないよう、自分の住んでる街、自分が仕事をしている街のお祭りとして、境目なく遊びに来てもらいたいです。あと、欲を言えばもう少し早くから取り掛かりたい!(笑)

獅子田:毎年、6月頭や5月末って地域の運動会や音楽フェスと日程が被るから。そういう日程を避けたりあれこれ調整していると、結局結構ギリギリになっちゃうんですよね。

神保:もう少し余裕を持って企画して、当日も他の施設の催しを観に行くぐらいの余裕が生まれたらいいなあと思います。自分たちが楽しめないと、線路街や線路祭に訪れる人たちがどう楽しんでるかなんて、わからないですからね。

取材・執筆:ヤマグチナナコ/撮影:村上大輔/編集:木村 俊介(散歩社)

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