見出し画像

第五章 表と裏。 陽と陰。

小説 「陽は沈み、陽はまた昇る」

作・ぼくもう疲れたよ 旋律雛印

第五章 表と裏。陽と陰。

「さて?お次は、あの方かの?」 
琥珀は優しく花にそう問いかける。

花もすでに琥珀の千里眼の様な言動には驚きもせず、こう答える

「あいつはちょっと、難しい奴・・・」

「だって こっちの言う話にさ

『そりゃお前!阿呆だな? 
そんな奴はぶっ飛ばしちまえばいいんだよ!』

あいつこうなんだよ!」

「でも、気にかかるんじゃよな?」 
琥珀は笑いながら花の話を聞いています


「うん。その後に、『何かあっても絶対に来るんじゃねーぞ?』って大笑いして言うんだよ」

「それって、また来いよ?って事でしょ?」 
花が口をへの字に曲げて琥珀を見ています。


琥珀はうんうんと頷き、花と夕日に暮れる道を並んで歩いていきます。

雷もまた2人の会話をフンフンと頷きながら、後を着いて歩いていきます。

三人の影が長くなる秋の夕暮れ時。

一行は次なる仲間を迎えに前へと歩んで行きます。


___

此処は、雅が捉えられている寺の奥にある洞穴。

月明かりも無い今夜は、怖いと感じるほど真っ暗な場所です。

そこへ人影が・・・・・

辺りの様子をうかがいながら、
1人の少年が洞穴に近づいていきます。

「よし、誰もいないぞ。」

「ねーちゃん!ねーちゃん!居るんだろ?」
声をかけながら洞窟へ入って行く。

そう、この少年は、雅の弟、名を「呼虎(ことら)」 
猟師の見習い修行中です。
 

雅が捕られられた事を知って慌てて山奥から村へ戻って来たのです。

「こ。。呼虎かい?」 暗い洞窟の奥から 雅の声がします。

「来たらだめよ!奴らが戻ってくるよ!
逃げて、はやく!」


雅の元気な姿にほっとしたのか、

呼虎は笑みを浮かべます。

「今、助けるよ!柵から離れて!」

『ドーーーン!』呼虎は、
持っていた猟銃で鍵を壊しました。

「はやく逃げよう!」雅の手を掴み、
洞穴から救出しました。

そのまま2人は、山奥へと走っていきます。


——

銃声に飛び起きた見張りは
慌てて洞穴へ駆けつけますが
すでに2人の姿はありません。

それを知った安珍、鬼の形相で
手下を怒鳴り散らします。

「てっ、てめーらっ!なんて事を! 
あいつが逃げたら、大変な事になるんだぞ!」

手下達は、小さくなってこう言います。

「だってよぉ?見張れとは言われたけど、鍵かけてあるし、、」
「呑んじまってたし、眠いしよぉ〜、、」

目を擦りながら大あくびをする手下もいる始末に、

「言い訳はいいんだよ!」 手下の知恵の無さに呆れる安珍。

すでに手紙は花へと送る手はずを済ませた安珍は、
次の手を模索します。

「やっぱり、あいつを抑えておくか、、」 
眼光鋭く落語部屋の方角へと、目を向けます。

翌早朝、安珍は落語家 南の元へ自ら訪れます。

「おーい?ナンさん、いるかーい?」 

昨夜とは打って変わって優しい声色の安珍。

「はいはい、何のご用でしょう?こんな朝から、、」

南が奥の座敷から顔を出します。

奥から味噌汁のいい香りが漂ってきます。

「これから 朝飯かい?」 
「美味そうないい匂いだな」 

敵視されない様に構えない安珍の姿に、
南は油断をしてしまいます。

「一緒に食べていくかい?」
「で?こんな朝からどんなご用で?」

安珍は笑みを浮かべながらこう告げます、

「先日の騒動よ? 芋虫が来て言っただろ?隣村の話のよ?」

「あれは、うまく話がついたよ。安心しな。」

ほっとした表情の南に続けこう告げます。

「でよ?この件、今後一切
関わらないで欲しいんだ」

頷く南に、安珍は続けます

「これ以上かかわると、ろくな事はないからな。

あんたも騒動はゴメンだろ?」

責任を取らされると聞いていた南は、

その言葉を素直に聞き入れ

「わかったよ。
もうこの話は、私からは言わないし、
他言もしないよ」

深く頷く安珍。

「これで、落語部屋に集まる衆を
抑えたも同然だ。。」
心の中でそう呟くと

雀が鳴き、朝日挿す道を満悦そうに
悠々と帰っていきます。


—-

「おじさーーん! 居るかい?」
花が玄関先で声をかけます。

「うるせーなぁ、、なんだよ?」
頭をボリボリ掻きながら髭ずらの男が現れます。

名を「武蔵(むさし)」
花に「そんな奴はぶっ飛ばしちまえ!何かあっても絶対に来るな」と言った人物はこの男のこと。

「まぁた おめーかっ!来るなと言ったろぉ?」
と顎髭を擦りながら、花とその一行をひと睨みすると
玄関で胡座をかきます。

「ん?? あんた、琥珀さんかい?」
「そっちの坊さんは・・・神宮寺さんとこの坊さんか・・」

雷は頷くと手を合わせ、武蔵に会釈をします。


琥珀を知るこの武蔵もまた、落語部屋に出入りし、
神宮寺和尚の事ももちろん良く知る人物なのです。


「お久しぶりだねぇ。武(たけ)さんよ。 元気だったかい?」
ずいぶんと親しげそうに琥珀が語ります。

「なんでぇ〜? また、あんたがここに?」
わざと訝しげに問う武蔵。

「この子の、お守り役みたいなもんかねぇ・・・のぅ?花よ?」
ニヤリと笑みを浮かべる2人に、

「ま、、また知り合いなの? 」
花は、神宮寺和尚の時の事を思い出し、

「世間は狭い・・・って事か・・・」と呟きます。

琥珀は、花に聞こえないように
武蔵にそっと耳打ちをします。

「落語部屋の事、
 あんたから、村の衆に抑えきかせといておくれ、宜しく頼むでの。。」

察した武蔵は、
うんうんと大きく頷くと
「おうよ!任せな!」と二つ返事で応えます。

「言う事聞けねぇ奴は
 ぶっ飛ばしてやるからよ!」

そう威勢良く声を張る武蔵。

頼みましたよと
武蔵の肩をぽんぽんと叩く琥珀。


「何を話したんだよ〜? 教えてよ!」
可愛く地団駄を踏む花を、
2人は微笑ましく見つめます。

「下ごしらえじゃよ、下ごしらえ」
とだけ言い、
琥珀は、後ろ向きで手を挙げ、
武蔵に挨拶の仕草をすると
スタスタと歩き出します。


琥珀は今回の騒動で、
安珍達が村人へ、有ること無い事を
吹聴している事を察し、
その噂話の打ち消しを武蔵に依頼したのです。


—-

—第五章 完

—-

いよいよ仲間も集まり、
いざ安珍の企みを打破すべく、
一行は向かうのであった

—-

次回

第六章 『お天道様は見ている』

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?