曼珠沙華
私の名前は恵子、名前とは正反対でいい事なんて何もなかった。だって私には父母がいない、その代わり何故かはわからなかったが小さい頃のある情景が頭の中から広がっていくのだ。
その情景は立派な車に乗せられて、白いワンピースを着た女の人が泣きながら、
「ごめんね……」
と謝りながら私を抱き締めている。そうしてるうちにある大きな公園につく。そうすると黒く日焼けをした男の人がわたしの頭をくしゃくしゃと撫で、そしてわたしを肩車をしながら大きな公園を歩くのだ。
「このお花はなぁに?」
と無邪気に聞く私に微笑みながら女の人が、
「このお花は曼珠沙華っていうのよ、でも触っちゃダメよ毒を持っているからね?」
「オイオイ、子供を脅かすんじゃ無いよ」
すると女の人ばワンピースをヒラリとひるがえしながら、
「脅して無いモーン、ねぇ?」
と、私のほっぺをぷにぷにとつく。その後も二人はまるで恋人の様にふざけながら笑い合いながら公園を回る。でも楽しい時間は何時までも続かなく、いつの間にか男の人は私を置いて何処かに行ってしまう。女の人に手を引かれ大きく立派な黒い車に乗ると又女の人は涙を流しながら、
「ごめんね、ごめんね……」
と私を抱き締める、此処で記憶が途切れている。一緒の施設にいるよっちゃんに言ってみたら、
「お前捨てられたんじゃね?」
思わずよっちゃんに馬乗りになって泣きながら、叩いていた。よっちゃんは叩かれながらも、
「思い出があるだけマシじゃん、俺なんか赤ん坊の時此処に捨てられていたんだぜ」
よっちゃんは叩かれながらも真面目な顔で私を見ていた、でも何か色んな感情が溢れ出して職員の人が来るまでよっちゃんにまたがったまま泣いていた……。
それから幾年、私は高校を卒業したら美容院に住み込みで働く事が決まった。ある日、院長室に呼ばれて行くと、
「恵子さん、卒業と就職おめでとう。早速なんだけど貴女宛に写真とお手紙をお預かりしてるの」
私は震えながら、
「誰からですか?」
と聞くと、院長はニッコリ笑って
「貴女のお母さんからよ、部屋でゆっくり読みなさい」
震える手で手紙を受け取り、自室に入った。写真を見てハッとした、それは私が頭の中で浮かんでいた風景そのままだった──。
写真には笑顔で笑う男女の姿と男の人の肩にまたがった女の子が曼珠沙華をバックに写っていた。
次に手紙が入っているらしい古ぼけた封筒を開けてみた。そこには、
「恵子ちゃん、どんな女の子に育っているだろう?お母さんを許してね、お母さんは婚約者がいたのに別の人を愛してしまったの。そして産まれたのが恵子ちゃんなの。可愛い可愛い私の娘、でもこの手で育てる事は最後まで許されなかったの。
お母さんは今白血病で入院しています、もう会えない大事な私の娘。恵子ちゃんがその名前の様に色んな人に恵まれますように。
母より」
最後の方は涙であまり読めなかった……、お母さん!お母さん!!
「おーい、昼飯だぞ」
呼びに来たよっちゃんは私の姿を見て暫くそこに立っていたけれど、
「昼飯こっちに持ってきてやる」
ポツリと言って、部屋から出ていった。
あれから私は美容院の奥さんに可愛がられて美容学校に通い、立派に美容師としてお店で働かせてもらっている。一人暮らしだったんだけど、何故か土建会社で働いてるよっちゃんと一緒に暮らしている。
そして私のお腹にはよっちゃんと私の子供が宿っている。大丈夫よ?お母さん。私は色んな人に恵まれて今暮らしています、だから今は向こうの世界で笑っていてね。
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