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ブルックリン物語#34 Alone Together「アローン・トゥギャザー」

携帯に万歩計のアプリを入れてから一日に何歩歩いたかがわかる。これが面白くてどんどん歩くようになった。

11月の中頃からだから1ヶ月ちょっと毎朝毎晩。考えがまとまらない時は、歩くとどんどんアイデアが整理されていくのがわかる。小指の痺れ、肩のこり、腰の痛みなど体の不調が歩くことによって矯正されていくのもわかる。とくに朝の街は目覚めてゆく時間帯の変化を身体全体で感じて気持ちいい。少しずつ喧騒が大きくなり、人が増え始まっていく。

夜遅く歩くのもこれがまたいい。飲んでいる人たちがバーの外でキャーキャーたむろしている。アパートの外に部屋着のままタバコを吸いに出てくる住人たち。犬の散歩をする女の子。酔っ払って道端で寝ているおじさん。月がさっきまで三日月だとタカをくくっていたらいつのまにかプックラ実った満月だったり。いちばん星がくっついてきたり。時の流れは早いなって自分の呼吸の音を聞きながら改めて実感する。

「No Cry, No Cry」

その道は初めて通る道だった。早い朝だ。彼女はその角に立っていた。ヒスパニックのスカーフを巻いた小さな愛嬌のある目のおばあさん。

「No Cry, No Cry」

何を言ってるのか最初モゴモゴしていてわからなかったが、おそらく僕が泣いているので泣かないでと慰めている風だった。しかし僕は泣いてなどいない。少しだけいろいろあって考え事をしていた。うつむいて歩く姿が泣いているように見えたのかもしれない。答えのない堂々巡りを一人二役で自問自答しながら、いつもは通らないその道へたどり着いた。ピリッとした冬の朝の空気を吸い込むだけで癒された気分になり、ちょうどその角を左に曲がろうとして、彼女に会ったのだ。

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