見出し画像

ブルックリン物語 #85 「Come Rain or Come Shine ~降っても晴れても」

救急車のサイレンが響き渡る。

その音は、コロナのあの大変だった時期に頻繁に走っていた救急車よりも、大きく切り裂くような悲鳴のように聞こえるのは、
僕だけだろうか。

NYはコロナと共に生きる、戦争のある現実とともに,
生きざるを得ない。

窓を開けて風の道を作り、朝コーヒーを淹れる。

自分の朝ごはんが終わってからも、ずっとおやつをおねだりして動き回っていたぴが、お気に入りのクッションの上でスヤスヤ丸くなる。

パパは6月末で終わる最後の日経のコラムを1本書いて編集の方へ送る。日経の編集者の吉田氏はレスポンスが早い。ずっと半年間、毎回書きあげて送ると5分後にはもう返事が来ている。だから僕もそんな彼をびっくりさせようと次々にネタを自分から引っ張り出しては書く。

「ストックとしては、シンパシーの友情、リストランテの憂い、と2本ありますが、今週末はどうされますか?」(連載は土曜日なのだ)

で僕は返事がわりに、3本ほどまっさらなものを書きあげ、速攻で「どんなもんだ」とばかりに送る。

「80年代の曲たちもこんな風にできてたんですね。あまりに早くてびっくりしました。この中の1個、これなんてどうでしょう?  ちょっと字数を合わせて、僕が調整しました。ちょうど今週末にいいと思います。」

「おお、いいですね。じゃあ、今週末はこれでいきましょう!」
「オッケー、じゃあゲラができたら送ります」
「よろしく」

とまあ、こんな具合だ。

こうやってどんどんネタが塗り変わり、ストックはいつしか忘れ去られる。あと1ヶ月で連載も終わるなと思う寂しさがにじみ出した頃に、書い貯めたコラムが2本ほどあった。しかし「降っても晴れても」というストリーミングをやったあと書いた新しいものに入れ替わった。そしてあと一回、

いよいよ最終回。

始めた頃は僕がどれくらいかけて書くのかわからない吉田氏は心配そうに

「半年分書きためて最初に送られてくる方もいらっしゃいます。何が途中あるかわかりませんから。もちろん2、3編書いてその都度補充する方もいますよ」

僕は後者を選択した。しかし褒められると木に登る。「いいですねえ」と吉田氏に言われると、「じゃあ、こんなどうだ?」とまた新作でびっくりさせようとする。まるで子供が親の注意を引こうと手の込んだいたずらするようなものだ。

こんな僕たちだが、さすがに最終回だけは慎重だった。

ここから先は

5,747字 / 13画像

¥ 150

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?