異世界転生のない世界で人生やり直し#3

僕が奥尻島に拉致されて二日目。

昨日は色々あったけど、とりあえずカフェの裏部屋に寝泊まりさせてもらうことになり、一夜を明かした。

今日からカフェの手伝いと、カフェのオーナーである宮野氏の娘2人の家庭教師をして働くことになった。

そんなわけで、今僕は、早速次女であるウタの家庭教師をしている。

「ここがわかんない」

「んー、まずはどうすれば解けそうかという方針を考えよう。分からない文字をエックスと置いて、、、」

「あ、分かった。教え方、上手だね」

「そ、そう?ありがとう」

中学2年生に褒められた28歳は少し嬉しくなった。
 
ウタは勉強は割とできる方だ。奥尻島の中学の人学年の生徒数が何人なのかわからないが、おそらく上位だろう。学校で習う基本レベルは抑えていて、高校入試の過去問をすでに解いていた。

ウタは素直だし、言うことをちゃんと聞くから非常にやりやすい。長女のマナとはエライ違いだ。

「じゃあ今日はここまでかな」

「はい、ありがとうございました」

人からありがとうと言われるのは、いつぶりだろう。子どものちょっとした世話だとしても、誰かを助けることができるというのは、嬉しいものだ。

「じゃあ、次は、、、」

「よろしく、覗きのひと」

マナはまだ僕を嫌っているようだ。

「はいはい」

「あたし、やりたいこと決まってるから、別に勉強教わる必要ないんだよね、だから、そんなにしっかりやらなくていいから」

「やりたいことって何?」

「別にいいでしょ、関係あんの?」

「はいはい、ほら、じゃあさっさと問題とけ」

マナは成績が特段いいというわけでもなく、悪いというわけでもないといった具合だった。最低限の事は理解していて、勉強にモチベーションが向いて、努力すれば成績はすぐ上がるような感じだ。

「ここがわかんない」

「ここは、余弦定理を使って解けば、、、」
 
「あ、ありがと、、」

「ちゃんとありがとうって言えるんだな」

「なっ、、馬鹿にしないでよ!」

マナはプライドが高いが、やはり素直なところもあるやつだとわかった。

「はいはい、じゃあ今日はこの辺で」

「わかった、じゃあまた明日」

マナは勉強を終えるとそそくさと何処かへ出かけていった。

家庭教師が終わっても店は割と暇だったので、カフェのイスに座って海を眺めてると、宮野が近づいてきた。

「家庭教師お疲れ様。はい、これコーヒーとカヌレ」

「あ、ありがとうございます。」

「どうだい?娘たちは」

「え、まあ、ぼちぼち」

「ウタは勉強も得意だし、宿題なんかもちゃんとやる子なんだけどね、マナは勉強にあまり関心がないんだ」

「やりたいことがあるって言ってました」

「そうなんだ、マナはプロのサーファーになりたいらしいんだ」

「プロ、、そうなんすね」

久しぶりに誰かの夢を聞いた気がした。それもまだそれが実現するのか分からない、不確定な状況の夢。

それと同時に、高校生の自分から見た将来というのはすでに訪れていて、夢破れたという結果が今の僕だということを、改めて実感する。

「まあ、勉強はほどほどにやってもらいたいものだがね」

宮野は笑いながら言う。

「いいですね、やりたいことがあって、まだそれを実化できる可能性があるって」

「君にはもうそれがないと?」

「ないですよ、9年続けても無理だったんです」

「10年目には実現したかも知れない」

「かもしれない、はいくらでも言えます」

「そうだ。医者でなくても、君の人生は輝いているかもしれない」

宮野画像さしこみ

「そうですね、でも、引っ張られちゃうんですよ。叶わなかったこととか、無駄にした時間のここととか、払ってもらったお金のこととか。簡単にはじゃあまた次を探そうってなるのは、難しいですよ」

「そうだね、でもいまここにいることが、その一歩かもしれない」

「そうなると、いいんですけどね」

話は終わった。暇なので散歩をしていると、海でサーフィンをしているマナが見えた

「かっこいいな」

思わず、声が出た。

「家庭教師されてるのは、俺のほうかもな」

サーフィンを終えて砂浜に上がってきたマナと目があった。

声は聞こえなかったが、口のうごきで、見てんじゃねえ、と言ってるのが分かった。

僕はうるせぇといい、カフェに戻った。


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