見出し画像

介護する人の深層心理。人の心は弱く儚いもの

看護+心の専門家の視点で書いています。認知科学・脳科学・人間関係・コミュニケーション等を介護や健康問題に応用しています。

*  *  *  *  *  *  *  *  *  *

親の介護をしようと決めたとき。
それは「愛」だったのではないでしょうか?

施設に行きたくないって言うから。最期は家がいいって言うから。もし施設で感染症になったら二度と会えなくなるかもしれないから。…だから私が家で見てあげよう、と思ったのではないでしょうか?

ところがいつの間にか、介護はやらなければならないことになっていきます。介護する人のしんどさは、‟やらなければならないこと”で24時間埋め尽くされていくことではないでしょうか。なぜ、そんなふうに変わってしまうのでしょう?



介護しているほとんどの人が気づいていないことがあります。あなたは普段、看護師やケアマネ、介護士などの専門家からこんなふうに言われていませんか?

「ちゃんとしていますね」
「いつもきっちりされていますね」
「がんばってますね」
「すばらしい介護されていますね」
「お父さん(お母さん)も幸せですね」…

一見、誉め言葉であるひとことですが、実はこの言葉が介護する人の心をがんじがらめにしていきます。もちろん看護師やケアマネや介護士は、本当にきちんと介護をしているご家族に対し、労いの言葉をかけているのだろうと思います。

しかしながらこうした言葉を言われると、介護する人は手を抜くことができなくなります。次もまた良い評価をもらわないといけない深層心理が働いて、完璧を目指す介護が出来上がっていく恐れがあります。そのスピードは結構速いです。

そしてほとんどの場合、両者ともその心理作用に気づいていません。



昨年11月に開催した「心から看る介護と認知症」のお話会で、看護師さんからコメントがありました。
「『ありがとうございます』も言ってはいけないんですね。評価のつもりではなく、感謝の気持ちで言ってるのですが…」と。

本来、介護は家族が行なうものではないです。日本と同様の超高齢化国のフィンランドやスウェーデンでは、親との同居率は4~5%です。一方日本は50%を越えています。しかもフィンランドでは【子の親の介護義務禁止】が法的に定められているのです。

介護は国が担い、専門家が行なうべきで、家族が介護のせいで自分の人生を犠牲にすべきではありません。ただ、日本は整備が追い付かず、家族が介護を担ってしまっています。中にはそのことに気づいていて、感謝の気持ちで「ありがとうございます」と、家族に労いの言葉をかける専門家もいます。

ですがお礼を言われると、どうでしょうか?やはりちょっと嬉しい気持ちになるのではないでしょうか。それは深層心理で承認欲求が満たされるためです。承認欲求はすべての人にある基本的な欲求で、今自分がここに居ることの価値=存在価値なので、手を抜いたりラクをしたり…ということが出来なくなっていきます。

とくに介護離職をしてしまった場合、社会生活で承認欲求が満たされることがなくなるため、介護で褒められることで自分自身の存在価値を感じるようになっていく恐れがあります。すると徐々に、介護が支配になっていったり、コントロールになってしまったり、何がなんでも言うことを聞かそうとしてしまったり…と、介護する人も介護される人も悪循環にはまっていくことになります。



介護する人は、そうした無意識的な作用が深層心理にあることに気づき、介護で承認欲求を満たさない努力をする必要があります。早いうちから手を抜けるところは手を抜いておくようにしましょう。介護は横着していいし、出来る範囲でいいのです。時にはサボってもいいし、寝坊して「やーん、まだ何も準備できてなくて…すみませーん」と、不器用な家族でいいのです。専門職ではないのだから。

そして看護師、ケアマネ、介護士等の専門家は、家族の介護について言葉をかけるのではなく、家族が介護以外のこと(地域活動や趣味など)を行なったときに「それはいいですね!」「続けてくださいね!」「それでいいんですよ~」と伝えることだと思います。

一方、保険外の訪問看護は時間制限がないため、私たち看護師が訪問している間、ご家族は別の部屋で休養していてもいいですし、勉強や趣味の時間にしたり、お友だちに会うなどお出かけすることもできます。大半の時間をご家族が介護しているのですから、ご家族の心の状態が安定していることが最も大切だからです。



たぶん、人の心って弱いものです。誰かから誉めてもらったり、ありがとうと言ってもらうと、嬉しくなってもっと頑張ろう!と思ってしまうのです。そうした心の満たし方は一瞬で過ぎ去る儚いものですが、精一杯尽くしてしまうんですね。

そしてもし、自分で自分の弱さを認めることができれば、この状況から抜けることができます。自分の弱さを認めるということは、最大の強さだと思います。自分自身を尊重しながら、ゆる~い介護ができるよう、上手に『バランス』していきたいですね。


5月16日(木)14時~企業の人事課・労務担当者様への講座を行ないます。
「介護・がんで悩む社員への関わり方セミナー」
企業の人事課・労務担当者さんはどなたでも無料で参加できます。


もし、ひとりで抱えきれなくなったときは相談してくださいね。

心の介護相談室

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?