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すれ違いざまのチョコレート

教室の端っこに座り、受験勉強をする。
大学受験を控える高校3年生にバレンタインなどあってないようなもの。
高校1、2年の時のようにチョコレートもらえるかなとかいうソワソワもない。

夜8時を回り、外では雪がしんしんと降る。
北海道の田舎の高校の夜は吸い込まれるくらい真っ暗だが、
それが好きで、特に雪の降る夜が大好きだった。

高校から駅に向かう最終バスに乗る。
バスの中でも気休めに参考書を開いていると、
前に座るカップルの女性側がチョコレートを渡していた。

「あっそうか今日はバレンタインなのね。」
そう想いながら特に何の感情もない。
参考書に目を戻し、少し読み進めるとバスは駅に到着した。

帰宅するため駅からさらに電車に乗る。
私の通学は電車とバスの両方を利用する。
時間はかかるが乗り物に揺れる時間が私は好きだった。

駅の改札をくぐり電車が着くホームへと歩みを進めると、
知った顔が正面に見えた。

一つ上のたまに遊ぶことのある女性の先輩。
既に卒業して大学に入学しているから、
高校生の自分とは時間が合わず、
前に遊んでからは半年程経過していた。

久しぶりに会い、
「あっどうも」と頭を下げると、
先輩がすれ違いざまに紙袋を渡してきた。

「ハッピーバレンタイン!」
とだけ言ってそのまま去っていった。

「えっ?」一瞬何が起きたかわからなかったが、
バレンタインのチョコレートを渡されたのである。

どうやって帰る時間がわかったのだろう。
もし渡せなかったらどうしたのだろう。
えっそもそもこれ本当に私にくれようとしていたものなの。
そんな奇跡のような出来事を反芻しながら帰宅した。

何の連絡もしていなかった先輩からすれ違いざまの
一瞬にもらったバレンタインのチョコレート。

これって奇跡、それとも先輩の奇跡を装った戦術?
どちらにしてもあの瞬間の出来事は一生忘れないだろう。
先輩って私のこと好きだったのかな?

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