見出し画像

とある一人インハウスデザイナーの処世術

私は現在、自社サービスを手掛ける少人数の会社に一人デザイナーとして、サービスの立ち上げから関わり8年ほど勤務している。インハウスでかつ一人という状況で起こる課題や解決方法は、複数のデザイナーがいる場合とは状況が異なることが多いと思われる。

本ブログはとある一人デザイナーに起こった課題と、それをどのように乗り越えたかを書いた記事である。ベストプラクティスかは分からないが、一人デザイナーで同じような課題を持った方の参考になれば幸いだ。

課題1:デザイン対象の量に波がある。

会社の創業期には名刺や会社サイトやチラシ、サービスのデザインなど大量に制作対象がある。しかし、一旦開発が落ち着くと既存のデザインをベースにした追加のみになり、急に時間ができることがある。と思ったら、イベントや再度大きな機能開発で忙しくなるなど、デザインの対象の大きさに波がある。

これの解決策は2つある。(1)デザインすべきものを作る、(2)デザイン以外の作業を見つけるという2つの方法がある。

(1)デザインすべきものを作る

まずデザインすべきものというのは、サービスのブラッシュアップだったり、新しくメディアを立ち上げるといった提案をしてデザインの対象を産み出すことだ。
デザインはサービスのユーザビリティに関わる重要な要素であることは間違いなく、改善を続けてより良いUIにしていけばユーザー体験の向上になる。

また、作る対象は企画や社長などの依頼がなくても、デザイナー自ら提案することもできる。言われたものだけを作るのではなく、自分でデザインすべき対象を作り、それが集客につながれば、評価にもつながる。

注意点

ここで大事なのは、少人数の会社でデザイナーはデザインだけやっていれば良いとは考えないことだ。また、デザインをするためにタスクを産み出すのではなく、会社の成長に貢献できるようなインパクトのある内容であることが前提で、その対象の一部にデザインがあるという位置づけで捉えるべきである。

デザインは細かいブラッシュアップや、グラフィックなどやり出したら無限に時間を使うことができる。及第点のものを提供できていた場合に、デザインに時間をさらに使うべきか、他のことに時間を使うのかについて考えるべきだ。

(2)デザイン以外の作業を見つける

デザイン、エンジニアリング、セールス、マーケティング、SEO、PR、カスタマーサポート、経理など、企業が行う活動は多岐に渡る。少人数の会社では、自分の専門分野を中心に行うだけでは、手つかずや手薄なものが必ずあるはずだ。そして、手つかずだたっために、大きな成果を出せる可能性があるものがある。専門家レベルの100点は難しいかもしれない。しかし、元々誰もやってなかったものであれば、0点を50点や70点にすることはできるかもしれない。80点のものを81点にするより、0点を70点にした方が経営インパクトは大きい。

そこで重要なのは、会社のビジネスに良い影響がありそうで、かつインパクトの大きいもの、その中で自分で取り組んでいけそうなものを探すことだ。

それは、会社の経営会議や役員が注視しているものに目を向けると見つけやすい。会社の四半期や大きな話し合いでは、会社の現状や課題について日々話し合われている。

そういった話し合いの中で、例えば新規顧客の獲得に課題があり、社内でセールスしかしていないのであれば、マーケティングやPRなどでできそうなことはないか?既存顧客の解約が問題であれば、原因を調査したりサポートを自分でやってみて、どういうところが解約につながっているかを調査する必要がある。
また、そういった場所で話し合われた課題をベースに提案をすれば、ステークホルダーへの説得力につながりやすい。デザイナーがただ何となく思いついたのではなく、経営課題とセットにした提案は課題意識の強い経営陣に刺さるはずだ。

私も会社の四半期の話し合いで、新規顧客に関するデータや課題が共有されることが何度もあったため、リスティング広告を始め、メディアを立ち上げたりもした。他の領域に対する知見がなかたっとしても、今の時代、始めてみればネット上に参考情報が落ちている。
そして、メディアから直接アドバイスがもらえることもあり、2年後くらいには、広告は新規顧客の柱となった。デザインだけで、新規顧客をここまで増やすことはできなかったと考えられる。手つかずの領域は完璧でなくても、取り組みを続けることでそれなりに成果が出せることもあるのである。

課題2:グラフィックの引き出しや飽きへの対処。

サービスが立ち上がると、統一感のためにトーン&マナーを揃えたデザインが求められる。しかし、そうすると新しいグラフィックをデザインする機会も減ることになる。

受託の会社であれば、案件ごとにコンセプトや世界観が異なるため、都度異なるデザインをすることができ、経験になる。インハウスでもブログやイベントのバナー作成などもあるが、突発的であることも多い。

インハウスデザイナーの共通の悩みとして、同じテイストのデザインをすることに飽きたり、異なるデザインをしたい欲求は出てくる人が多いように思う。そういった場合はやはり、副業で別のサービスを手伝う、もしくは知人とサービスを作るのどちらかが良いだろう。

デザイン的な欲求を叶えるために、業務をこなすというのは本質的ではない。そういった欲求を解消したいのであれば思い切って、他のサービスに関わるのが良い。

また、デザイナーがいなかったチームでデザインするととても有難がってもらえることが多く、モチベーションにつながる。デザイナー以外のメンバーが片手間で作ってきたのだとしたら、統一感や動線設計の整理、グラフィックなどを提供でき、バリューを出しやすい。
そして、私が以前関わったサービスにはチーム内に弁護士やデータ分析の専門家や投資家がおり、意思決定のプロセスや考え方など参考になることも多かった。

課題3:複数デザイナーがいる会社が気になる

最近はサービスデザインにおいても、デザインの重要性が認められつつある。1つのアプリであっても複数のデザイナーがいるようなケースも珍しくなく、デザイン系のイベントではデザイン組織やデザインシステムなどに関する発表が注目されている。
しかし、一人しかいない状態で組織の課題は発生しない。デザインシステムも一人しかデザインしない中で、作り込む工数を大きくかけても、複数人がいる会社と比べるとメリットが小さい。

デザイナーが複数人いるような会社であれば、デザインの業務量は多く、作られるデザインを揃えるために、時間を使っていくのは許容されるかも知れない。一人デザイナーは、デザイン関連にリソースをどこまで割くかは、複数デザイナーがいるような会社とは別の状況にあるということを意識するべきだと思う。

課題4:ステークホルダーへの説明の難しさ

デザイナーが一人しかいないということは、デザインを説明する対象はデザイナー以外になる。制作会社ではクライアントのため、工数をかけてでも良いデザインをするというのは前提となっている。そして、デザインを社内の他のデザイナーもしくはアートディレクターに見てもらうというのが一般的だ。
そのため、ある程度デザインの知見の持った人にみてもらえる。デザインの話から始めることができる。
しかし、一人デザイナーは、他のメンバーから「そもそも何でこれだけ時間をかけているのか?」「どのくらい成果が出るのか?」といった視点で見られるのが基本である。これまで、上司やアートディレクターが説明してくれていたかもしれないビジネス上のニーズを、デザイナーが一人で説明する必要がある。

そういった時に、デザインの細かいこだわりを話しても、話が通らないケースもある。ここで役に立つのが、デザイン以外の領域での知見だ。マーケティングだったり、ビジネスを理解した上で話すことで説得力が増す。
ビジネス視点での説明がステークホルダーに有効となる。そのため、これまでの課題で対応してきたことが、とても役に立つ。

終わりに

一人インハウスデザイナーの話を書いたが、会社の事業やメンバーの人数・スキル・状況によってどういったことにリソースを使うのが最適解は異なる。
ただ、デザイナーがデザイナーでいようとするよりも、デザインを1つの武器として持ちつつ、経営側の視点に立って会社に必要なことを何でもやっていくという意識が大事だと思う。
そうすればデザイナー以上に、成果を出せるデザイナーになれるのではないだろうか。他の一人インハウスデザイナーの方の話や記事があれば読んでみたいので、オススメあれば教えてください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?