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#5「わざわざ人の手が時間をかけて作ったものを発信したい」(前編)

日本酒の枠を超え、色とりどりの分野で活躍する「ニホンジン」を訪ね、
日本の輪を広げて行きます。それはまさに「和の輪」。
第5回のゲストは、陶芸家・鈴木麻起子さんです。

鈴木麻起子さん(左)と薄井一樹(右)

鈴木麻起子さんは茨城県笠間に拠点をおいて活動している陶芸家。
2003年に独学で制作活動をはじめ、2006年に自身のブランド〈Pot Blue〉を設立。
2009年より〈La Maison de Vent(風の家)〉にブランド名を改名。
仙禽とは、鈴木さんのテーマカラーでもあるターコイズブルーとコラボした熟成酒「Turkish」(限定品)が生まれて以来のお付き合いで、すっかり意気投合。
今回は、鈴木さんのアトリエをお訪ねして、あらためてお話を伺いました。

薄井 最初に会ったのはコロナ禍の自粛モードの中で、2020年だったと思いますけど。
 
鈴木 ユナイテッドアローズさんの企画でしたね。
 
薄井 食とお酒と器のコラボレーション。自粛モードだったけど、すごくワクワクして、なによりも麻起子さんの陶器のこの色に合わせて、作った仙禽が「Turkish」っていう名前になって、なかなかの作りごたえのあるお酒になったし・・・
 
鈴木 私も仙禽さんの蔵に伺わせていただいて、実際にお酒作りを見せてもらって、試飲もさせていただいて、そこから「Turkish」が生まれていくのを見届けてもう感激しました。初めての経験だったし、酒蔵って本当に神聖な感じがして、足を踏み入れた時に背筋がのびるような感じがしました。
 
薄井 日本酒って、かつては地元の陶器で飲むのが普通でした。仙禽の場合は栃木県ですから、益子焼ですね。今は結構自由な飲み方をするようになりまして、僕は前職がワインのソムリエだったってこともあって、ワイングラスの方が香りが嗅ぎやすいとか、あとはファッショナブルだと思ってた次期もありました。でも、3年前に麻起子さんの作品に出会って、陶器ってやっぱり土ってこんなに良いものだったんだなって、すごく再認識をしました。
 
鈴木 光栄です!
 
薄井 さすがに会社のテイスティングでは、いろんな器をいますが、家でプライベートで飲む時はもう完全に麻起子さんの作品で飲むようになりましたね。

仙禽の熟成酒「Turkish」(限定品)とともに

 鈴木 私も仙禽さんのお酒に出会って変わりましたね。私の中では日本酒って敷居が高くて、「よし、日本酒飲むぞって」って買ってきていただくって感じだったんですけど・・・日常よく食べるカキフライとかのフリットに良く合うので、普段に飲むお酒なんだって、認識を変えました。
 
薄井 気軽に身近に感じてもらえて嬉しいです。白いTシャツにジーパンみたいに、毎日履ける、生活に必ずあるもの、っていうのが目指すところです。麻起子さんの作品も、そういうところがあって、僕の好きなところかなぁ。凄く高いものじゃないし、生活にフィットするんですよね。
 
鈴木 今、私が陶芸でやろうとしてることは、伝統工芸ですから、昔ながらの先人たちの培ってきた技術を用いながら、新しい今っていうものを作る、今に合ったものを作っていくっていう・・・それが私のやるべきことなのかなと。
 
薄井 仙禽の目指す酒造りと同じです。仙禽も、昔ながらの伝統的なトラディショナルな製法をとるし、使う道具も古いものを使いますけども、でも、飲むのは現代の人だし、現代の生活、ライフスタイルがありますから、現代の人がやはり飲んで美味しい、そして、現代の生活にフィットするような、そういうお酒でありたいって思ってるので。
 
鈴木 一樹さんの弟さんの、杜氏の真人さんともお話させていただきましたが、陶芸の中に近しい部分、共通する部分を感じることが多くて、仙禽さんに勝手にすごく親近感を持ってしまいました。
 
薄井 お互いシンパシーを感じるものがあるってことですよね。麻起子さんの作品はクラシックなんだけど、でもリングがすごく細くて、日本酒だけじゃなくて、ワインもおいしく飲める思うし、色んな飲み物に対応できるようになってる。すごいなと思うのが、重ねられることによって、収納しやすいのですが、そのままテーブルの上に置いておいても、オブジェになるので、進化してるんだなあと、思いました。
 
鈴木 私も仙禽さんのお酒を通じて、日本酒っていうものにすごく興味を持ったので、私の器を通して、陶芸っていうものに、全然興味なかった方の目にとめてもらう、入り口になってくれたらいいなと思ってます。
 
薄井 器を作るときはどんなことをイメージするんですか?
 
鈴木 使ってくださる人が、どんな人で、それを使うことによってその人に喜んでもらえる、嬉しくなっちゃう、幸せになっちゃうような器?
 
薄井 僕の器を作っていただいた時は、僕の顔を思い浮かべて作ってくれたんですか?
 
鈴木 そうです! 私の中で一樹さんって凄く都会的でエレガントでとか、そういった印象があったんですね。
 
薄井 全然そんなことないですよ(笑)。
 
鈴木 一樹さんとお話しした内容から、何がお好きなのか、どういうことに使うのかとか、って自分の中で組み立てていくと、段々形が決まってきて、カーブもとても緊張感があって、ちょっと華奢で、ちょっと上級者というか、そういうようなイメージなものになりました。飲んだ時も、相手からどう見えるかとか、そういったことも美しく映るように・・・
 
薄井 なんか、うちの杜氏の、弟に作っていただいた器はなんか凄くゴツかったけど・・・。
 
鈴木 弟の真人さんは、男っぽいイメージがあったんです。今日、また一樹さんとお話しさせていただいたので、これからデザインするとしたら、ちょっと雰囲気違うかもしれない(笑)。
 
薄井 初対面のときは、もっと緊張して、ちょっとカッコつけてたかも(笑)

この日対談に立ちあっているのは、仙禽の杜氏で弟の薄井真人

薄井 さて、麻起子さんの器に惹かれるのは、このターコイズブルーの色、ここに行き着いた理由っていうのは?
 
鈴木 好きなんですよね、好きだったんです。なんかこの色が。
 
薄井 この色が好きなんだ! 一番大事なことですよね。
 
鈴木 この色を使ったのは私が初めてというわけではないと思うんです。釉薬自体は、そんな珍しい色じゃないんですよね。ただ、色の変化が激しいので色ムラというか、流れやすいっていうか。昔は均一のものが良しとされてたので。
 
薄井 お酒もそうです。昔は味の均一化っていうのがやっぱり大切だったんじゃないのかなあ。でも、ムラじゃなくて、個性。僕たちの作るお酒も全てのタンクが同じ味であるはずがなくて、同じ作り方をしてもちょっとこっちの方が軽かったり、こっちの方がちょっと酸味が強かったりするわけで。そういうものが今大事にされる時代になってきたのは良いと思いますね。
 
鈴木 なんか一期一会的な。
 
薄井 そう。で、この色を出すのに大変なことは?
 
鈴木 季節的な部分、温度、湿度とかもありますし。私の器は素地が薄いので、なかなか釉薬も吸着しないですし、その辺をコントロールしながら、器に状態をお伺いを立てながらやっていくっていう感じですね。釉薬をかけてから窯に入れるっていう工程のちょっとした工夫もあって・・・。
 
薄井 この色を出す工夫であったり、苦労ってのはすっごく気になりますね。
 
鈴木 工夫こそが技術の積み重ねっていうか、自分だけのちょっとの工夫という積み重ねこそ、形に表れますから。
 
薄井 わかる。本当にミリ単位の微調整の積み重ねなんですよね、技術って。僕たちも、お米の触り方とか、水の微妙な吸わせ方、温度の持ってき方とかをミリ単位で微調整して、ちょっとずつ良い方向にシフトしていくというか。多分それの繰り返しで、麻起子さんの作品も生まれてるんですよね。
 
鈴木 ありがたいのは、数をたくさん作らせていただけるおかげで、技術は、数をこなすことが一番技術力が上がっていくので・・・
 
薄井 あー、それもわかるなあ。
 
鈴木 経験値として気づきが増えていくというか。結局自分の力ではなくて、させていただけることに対して、備わってきたというか、授かってきたっていうのが近いのかもしれないですけどね。
 

薄井 なんか量をたくさん作ることに対するアンチテーゼみたいのがあったりするじゃないですか。量産品は価値が低いみたいな。そんなことないですよね。

 鈴木 量産するっていうことは、それを確実に届けられるようにする技術、それは本当に技術者の方が大変な思いをされて、工夫を重ねて成功を勝ち取ったものなので、私も本当に敬意を払います。

 薄井 大量生産大量消費まではいかないけど、ある程度の量を作って、安定的に供給したいっていう気持ちが強いんですよ。そこも麻起子さんとすごく合うところだなって実は思ってて。値段がやたら高いものじゃなくて、普段の生活にフィットするようなそういうお酒でありたいと思うし、麻起子さんの作品だってそうじゃないですか。毎日使える器は仙禽のポリシーと合ってるなって、ずっと思ってたんですよ。

鈴木 ありがとうございます。そういう日常の感動って、結構生活の中で大事ですよね。

 薄井 だからか。毎晩、晩酌する時に麻起子さんの作品で飲むと、「今日もこれで飲めるんだ」って、そういう喜びがありますから。ハレの日の特別なものではなく、日常の小さな感動や喜びがあるっていうことがね、幸せなことですよね。

 ※後編に続く


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